裏切られた勇者はゴブリンの手に堕ちる

罠に堕ちた勇者 2

　……

　気がつくと、勇者は冷たい石の床に横たわっていた。体は重く、まるで鉛なまりのように動かない。

　薄暗い天井の隙間すきまからわずかな光が漏もれ出し、彼の周囲をぼんやりと照らしていた。しかし、その光さえも遠く冷たく感じられ、希望とは程遠いものに思えた。

　信じて疑わなかった仲間たちに裏切られた――その冷酷な現実が何度も彼の頭を過よぎり、心を締しめ付けた。
　冷や汗が全身に滲にじみ、心には怒り、悲しみ、疑問が渦うず巻まいていた。
　
　「なぜだ……どうしてこんなことに……」

　勇者は地面に横たわりながら、震える声で呟つぶやいた。悔しさに目を閉じれば、裏切りの瞬間に見た仲間たちの嘲笑ちょうしょうが浮かび上がる。
　共に戦い、励はげまし合った日々……すべては偽いつわりだったのか。
　彼らの冷たい瞳が脳裏のうりに焼きついて離れない。
　自分は何を見逃していたのだろう？ 仲間を信じて疑わなかった自分が愚おろかだったのか。それとも、どこかでこの結末を予感していたのか……彼の心は後悔と自己嫌悪で満たされていた。

　その時、静寂せいじゃくを切り裂さくような低いうめき声が彼の耳をついた。

　ハッとして耳を澄ますと、それがゴブリンの声だと分かった。
　だが、倒れ込んだ際さいの激しい衝撃が、まだ全身に痺しびれを残している。
　迎むかえ撃うとうと拳を握り締しめたつもりが、指先はまるで別のもののように言うことを聞かない。無数の鎖に縛しばられたかのごとく体は動かず、焦りと恐怖が次第に彼の心を蝕むしばんでいく。

　「くそ……！」

　何度も体を動かそうとするが、そのたびに鋭い痛みが全身を貫つらぬき、息が詰つまった。視界もぼやけ、冷たい汗が額を流れ落ちる。
　だが、今は倒れている場合ではない。彼には守るべき者がいる。
　そう全身に力を入れて奮起ふんきするが、足は力なく崩れ落ちてしまった。