裏切られた勇者はゴブリンの手に堕ちる

うえおあい

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罠に堕ちた勇者

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 ……

 勇者とその仲間たちは、村を襲ったゴブリンをとうばつする為、ゴブリンの巣であるどうくつせんにゅうしていた。

 「おかしいな…ゴブリンが一匹もいない。本当にここで合っているのか?」

 洞窟の中は薄暗く、湿気が肌にまとわりつくような空気と、こけ腐臭ふしゅうが鼻をつく石壁が続いている。
 辺りは不自然なほどの静けさに満ち、時折ときおりしずくの落ちる音が小さくひびくだけだった。

 「王国の調査によると、この洞窟で間違いないようです。地図の位置も合っています」

 ここまでの案内役をしていた賢者が、地図を片手にうなずく。勇者の疑うような発言のせいか、その声には少しだけいらちをふくんでいた。

 「気を悪くさせたならすまない」
 「……いえ」
 「まあまあ! 気楽に行こうや! もう夜だしゴブリンだって寝てるかもしれないぜ!」
 「ふふ、戦士さん、ゴブリンはこうせいですよ」

 場をなごませようとした戦士の発言に聖女がくすりと笑う。声色は明るいが、彼らの顔にもうっすらと疲労が見て取れた。

 「皆、あと少しだ。ゴブリン自体はそう強い敵じゃない。ここがりどころだ」
 「おう、早く片付けて美味い酒でも飲もう」
 「そうですね」

 しばらくは4人の靴音がただ岩にはんきょうするだけだった。しかし、とある曲がり角に来たとき、通路の奥が不自然に光った。勇者は思わず声をらす。

 「どうしたんです?」
 「今、奥で何かが光った」

 警戒心を高めつつ、仲間たちと共に慎重に進む。しかしそこは何のへんてつもない岩の空間が広がるだけだった。

 「おかしい…確かに光っていたが……」
 「光なんて見えませんでしたよ」
 「はは、おいおい勇者、寝ぼけてたんじゃないか?」
 「少し休憩しましょうか」
 「いや、でも……」

 見間違いだったのだろうか。これまでの旅の疲れが出たのかもしれない。そう勇者が考え込んでいると、突然地面がゴゴッと音を立て、戦士の足元にひび割れが発生した。

 「危ない……っ!!」

 勇者は戦士を助けようと咄嗟とっさに手を掴むが、同時に強く引っ張られた。戦士と位置が入れ替わり、ひび割れの上によろけて倒れ込む。

 「え……?」
 「悪いな勇者、お前の冒険はこれで終わりだ」

 足元が発光したと思った次の瞬間、立ち上がろうとしていた勇者の体がずしりと重たくなる。
 必死に顔を上げると、聖女がデバフの祈りを唱えており、その隣で戦士と賢者がれいこくな笑みを浮かべていた。

 「あー、焦ったぜ。魔法発動のときにあんなに光るなんて」
 「失礼。事をいたせいで魔法陣にミスがあったようです」
 「ふふ、勇者さんが単純な方で助かりましたわ」

 崩れていく地面へと落ちる瞬間、勇者の心臓は痛いほど激しくみゃくっていた。思考が停止し、周囲の音が遠く感じられる。
 穴の中で岩と体が激しくぶつかり合い、強い衝撃が全身を襲う。空中で回転し、深い穴の底へと落ちていく感覚が、まるで時間が止まったかのように感じられた。

 やがて勇者の視界が暗転し、意識が遠のいていった。


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