僕と推しと、恋の話

空野雪乃

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作家と推し

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 ーーお答えできないことがあれば、それでも構いませんので、よろしくお願い致します。

 ーーはい。できる限り応えていきたいと思います。

 ーーありがとうございます。初めに、Vtuberを始めたきっかけを教えていただいても、よろしいでしょうか?

 ーーあくまで私の意見で参考にならないと思います。私がVtuberを始めたきっかけは、主役級のオーディションで落ち続けた事がきっかけですね。
 食べれないほど、役がもらえなかったわけではありません。目的の役のオーディションでは落ちても、別の役としてオーディション受けないかと誘われ、作品に参加できていたので生活には困っていませんでした。
 今でも声はかけていただき、オーディションに参加して役はもらえています。

 ーーですが、そんな日々が物足りなくて。その時出会ったのがVtuberと言う職業でした。出会った時は衝撃的でした。素性を明かすことなく、役になりきって、新しい芸能界がインターネット上に生まれている。そこに参加することで物足りなかった日々が色づくのではないかと思いました。 
 元々、声優として動画活動をしていたので、動画編集ができたので、3Dアプリができたり、イラストレーターの仕事をしている友達の力を借りて個人でVtuberを始めました。

 ーー個人でVtuberですか?

 ーー企業でVtuberをやることも考えましたが、声優としての仕事も続けたかったので。自由度が高いであろう、個人で始めました。

 ーー個人でVtuberをやる大変さを教えてください。

 ーーそうですね、ブランディングが上手くいかないと収益化すらも難しい世界だと思います。自分のPRも、企業ではなく自分で行わなくてはいけないですし。企業だとある程度PRしてから、配信を始めると思うので収益化になるまで個人Vtuberよりは早いんじゃないでしょうか?
 私の場合、良く言われるのですが、「お前の声は眠くなる」って言うのを思い出して、声を生かしたブランディングをしました。

 ーーASMRとかですか?

 ーーよくご存知ですね。そうです、睡眠不足の人をまずターゲットにしてASMR配信から始めました。現代の人は不眠症に悩まされている方が多いみたいですね、収益化の壁は越えられました。今は初めのブランディングを続けつつ、自分の好きな配信を始めましたね。

 ーー私がVtuberとして知られ始めたのは偶然、世の中が求める需要と私が立てたブランディングが合致しただけなんですけどね。大変なのは世の中の需要に対して、察知することかも知れません。

 ーーリスナーの男女比を教えていただいてもよろしいですか?

 ーー男性7割、女性3割ですかね。

 ーー意外ですね。女性の割合の方が多いと思っていたのですが。

 ーー私の意見ですが、Vtuberのリスナーの割合は男性の方が多いような気がします。Vtuberは女性キャラの方が多いからかなとは思いますが。

 ーーガチ恋についてどう思われますか?

 ーーそうですね、ガチ恋を欲しがるVtuberさんもいるみたいですが、私は推奨していませんね。

 ーーどうしてか教えていただけますか?

 ーー私はあくまでも声優としてVtuberをしているだけなので。黒江唯兎としては誰にも恋はしませんが、声優の私はいつかは誰かに恋をすると思います。
 その時、誰かを傷つけるのであれば、最初からガチ恋を推奨しない方がいいと思っているからです。まあ、声優の私と黒江唯兎を分けて考えられるなら、ガチ恋をしても構わないと思っています。



「今日はありがとうございました。とても、参考になりました」

 1時間半、休憩なしで濃厚な取材ができた。

「……それは良かった。俺は今でも声優として活動しているから、いわゆる前世? がはっきりしているタイプのVtuberだが、黒江唯兎の正体だけは言いふらすのだけは遠慮してくれると有難い」

「勿論です、それが約束で取材を行なっていますので。ね、せんせっ」

 僕はメモを眺めながら、にやけていた。
 ……これでVtuberを登場人物とした、BLが書けると思うとわくわくする。

「せんせっ! 作品のプロット作りに夢中にならないでくださいっ!」

「あっ、ごめんごめん。僕、ひとえ出版運営のSNS以外は発信するものをやってないし、話す友人もいないから心配ないよ。それに、黒江さんの方針は参考にすることはあっても、登場人物にはしないから……」

 安心してほしい、そう言おうとした瞬間、少し悲しそうな顔をした黒江さんがいた。

「……二度しか会っていないが、すでに君と俺は友人だと思っていた。……違ったみたいだね」

 まさか、友人と思ってくれているなんて……!
 ましてや僕はリスナーだしっ!

「いえ! あの、僕は黒江さんの歌配信を聴かないと眠れないくらい聴いてるので、その! リスナー気分でいたと言いますか……!」

 その言葉に、目を細めて口角を上げた。その表情の色香にぞくっ……と震える。

「……嬉しいよ、俺の配信聞いてくれてたんだ。初耳だな、取材の時に言ってくれれば良かったのに、どうして言わなかったんだ?」

「あっ、あの……! 初めは、作品の参考にするために聴いていたので言う必要はないかと……!」

 あたふたしていると、感じていた色香は消えて、微笑ましいものを見るかのような穏やかな表情へと変わっていた。

「……困ったことや、Vtuberについてわからないことがあったら、連絡してくれ。何、友人だからな。何もなくても連絡してくれていいからな」

 身構える暇なく、自然に僕の頭をくしゃっと撫でた後、名刺を握らされ、SNSのQRコードを出してきてきた。困って山本さんを見ると、にこにこと笑うだけだった。
 ……僕が選べってこと?
 結局、圧に負けてQRコードを読み込んだのだった。

「平日だし、通勤時間とはずれたから、一人で家まで帰れるな? ……一緒に帰れたら良かったんだが、オフコラボがこの後入っているんだ」

 帰りは時間制限があるわけじゃないし、休憩をしながら帰るつもりだから、そこまで面倒をかけるわけにはいかない。

「大丈夫です」

「大丈夫だったら、あんな表情はしない。あの表情を見ているから、心配なんだ」

 あまりに苦痛な表情をしているから、

「休憩しながら帰るので大丈夫ですよ」

 安心させるにはどうすればいいのか、一生懸命考えていたのだった。
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