上 下
9 / 17

#8 4年生のクリスマスパーティーは、笑理の学校生活スタートへの扉

しおりを挟む
文化祭が終わった後。もう少しでクリスマスだ。今年はなんと、学校で特別に、1泊2日のクリスマスパーティーが開かれる。俺たちは12月20日の今日、その準備をしている。

今の俺は、これまでにないほど熱心に、教室の飾り付けをしている。その理由は、なんとなく分かるだろう。
そう、笑理(えいり)が参加するのだ。学校や児童の雰囲気とかを見直して、5年生から登校するかどうかを決めるらしい。俺は、今やっているように飾り付けもするし、当日は笑理を案内して、夜は一緒に眠る。担任の先生たちが立ててくれたプラン。絶対に無駄にはしたくない。
いや!絶対にしない!

本番が来てしまった。今日は12月24日。
まず、笑理と一緒に学校に向かうところからスタートだ。
「ピンポーン」と、俺はチャイムを鳴らした。「はーい。あっ!進(すすむ)君!」
笑理が出て来た。
小さな赤いトランクケースを転がしている。
次に目に入って来たのは、黒のブーツ、白い長ズボン、ネイビーの上着、黄色のマフラー、そして、紫色のベレー帽だ。
「可愛いじゃん。笑理。」「ありがとう。でも進君もかっこいいよ。特に、その赤いジャケット。白のズボンといい組み合わせ。すごく似合ってるよ」
俺の格好は、黒の靴、白のズボン、赤いジャケット、黒のネックウォーマーだ。
「ズボン、お揃いだな」「うん。じゃあ、一緒行こう」「よし!行こう!」

雪が降る中、学校に向かう途中、俺たちは例の側溝の近くに来た。
「私…ここに落ちたんだよね…今見ても怖いな…」「あの時は本当にごめんな。無事だったから良かったけどさ…」「もう気にしなくていいよ。私は大丈夫でしょ?」「おお…にしてもやっぱり深いな…この側溝。そういえば、あの時もこんなふうに、雪が降っていたな。あれから1年ちょいか…」「本当だ。記念日ではないけど、特別な日だね」「記念にできることじゃねーよ」「そうだね…へへっ…」
やはりまだ、笑理はあの日の事を覚えている。

学校に到着し、教室に入った。
「おはよう。進(すすむ)。うん?その子誰だ?」「同じクラスの笑理(えいり)だよ。まあ、分かんねーか。ずっと学校来てなかったし」
その後も、俺が笑理の紹介をする状況が続いた。笑理はまだ、周りとうまく話せない。だから、俺が代わりに紹介することなった。

「はい。席着いて」と、先生の声だ。
「今日は、笑理が参加してくれることになって…」「誰ですか?えーりって」「誰ですか?」
あーあ。まだ紹介してない奴がいた。面倒くさいな…
すると先生が、
「笑理。前に来れるか?」「…進君と一緒なら、大丈夫です」「おお。分かった。じゃあ進、よろしく」「はーい」
そうして先生が説明を始めた。
「笑理は、訳あって学校に来れていない。しかし、学校にできるだけ来たいと考えている。よって、このクリスマスパーティーに来てもらって、学校の様子を見てもらうことになった。みんな、サポートよろしく。と言っても…」
先生は続けた。
「進がメインのサポーターということになっている!基本的に2人が一緒だ」「ちょっと。先生」
「最後に一言。笑理、いいぞ」
「…皆さん…今日と明日、よろしくお願いします」

パーティー開始後、俺と笑理は学校見学に移った。
「自己紹介、先生派手にやったな」「うん。ちょっと意地悪だねー」
まあ、俺のことを考えてなのだろう。しかし、強調し過ぎだ。
「ねえ、進君」「うん?どうした?」「実はさ、この学校で一番最初に話しかけてくれたの、進君なの。いきなり呼び捨てでびっくりしたけど、あれ、嬉しかった」「そっか。そりゃ良かったよ」

楽しかったパーティーも終わり、夜の闇と月の光が近づいて来た。「闇と光って、俺と笑理みたいだ」って、ふと思った。
事前に契約されていた銭湯で体をきれいにした俺たち児童は、寝る前の出し物に入る。
俺は笑理(えいり)と一緒に、後ろで見学。先生に頼んで飾り付けだけをさせてもらったから、出し物あたりは何もしてない。
すると突然、笑理が聞いて来た。
「進君、教室の飾りって、誰がつけたの?」「えっ?俺だよ」
めっちゃ正直に答えた。そんな自分に今、びびってる。
「本当?すごく綺麗だったなー。1人で?」「黒板の絵以外は、やらせてもらった」「本当!?すごい!」
笑理の瞳が、夜の闇に浮かぶ、月より明るく、太陽のように輝いていた。

いろいろあって、寝る時間になった。笑理は人に慣れていないので、別室で寝ることになっている。隣の部屋に先生がいる、安全な場所。もちろん、俺が笑理と寝ることは、笑理のお母さんにも、周りの先生にも、OKをもらっている。
「笑理。来たぞ」「あっ。こんばんは。進君」
2人で布団に入ってしばらくすると、また笑理が言った。
「私がイジメを受けてたって話、したかな?」「なんかされてたって言う話は聞いたと思うぜ」
長い話が始まった。

『私、笑理(えいり)は、これまでずっと辛かったの。幼稚園の頃、いろんな男の子に抱きつかれたし、たくさん体も触られた。
嫌だってこと、言えなかった。
でも小学生になって、そんなのは遊びだったんだって思えた。
物を隠され、殴られ、蹴られ、着替えている時に無理矢理(むりやり)…そしてそのまま、廊下に…』

「そんな…なんでそうなるんだ!」「私にも分かんないよ!」

『だから、2年生から、学校を休んだ。私の性格、異常な落ち込みとか、体力の弱さとか考えたのか、お母さんは休ませてくれた。先生は家に来るたび、どうして学校に来ないのかってことだけを聞き続けて来た。私は、やられたことを先生にも、お母さんにも言わなかった。分かって欲しかったのに、あれだけのことに気づけない先生たちに、すごいショックを感じた。こんな大人たち、おかしいって!ずっと質問から逃げて、ずっと休み続けた。
2年生の夏休み、夜になると、お母さんとお父さんが口喧嘩(くちげんか)を始めた。私は止めた。2人のお兄ちゃんたちも止めた。そこで私だけが、殴られた。それに怒ったお母さんも、殴られた。お兄ちゃんたちは殴られなかったけど、肩を落として、動かなくなっていた。疲れちゃったんだよ。たぶん。そしてこっちにお母さんと来るまで、家では地獄だった。結局学校も、最後まで行かなかった』

「それでこっちの学校に来たの。ごめんねこんな話」「そんな…笑理!」
俺は笑理(えいり)を抱いた。
「俺、何も知らなかった!お前に何もできなかった!本当に…ごめんな!せっかく学校、頑張って来たのに、俺も、酷いことして…」「進君…グスン…ありがとう」
ここで、あの言葉を思い出す。
「笑理!怖がらなくていい!もう大丈夫だから!」
そう言って力いっぱい、俺は笑理を抱きしめた。「ああ…あ…うん…ありがとう…うう…」笑理は泣きながら、俺に抱きつく。
そうしているうちに、俺たちは眠ってしまった。

そうして、朝が来た。
「おーい朝だぞー。2人とも起き…って!?おい!?どうしたんだ!?」
笑理の顔は涙でぐしゃぐしゃ。おれは笑理を抱いている。

その後、みんなが解散した後、俺と笑理は、職員室に呼び出された。笑理は、昨夜俺に話したことを、泣きながら全部説明した。そして言い終わると、大粒の涙を流して泣き出した。

「そんなことが…」
それを聞いていた周りの先生2人くらいも、とても驚いていた。
そのうち、笑理が、口を開いた。
「先生、この学校には、いじめはないですか?なかったら、5年生から学校に来たいです」「…」
笑理の話を聞いた今、誰ももはっきりと答えを出せなかった。
自分たちの知らないところで…ということを、考えていたのだ。
「ううん…」
笑理は床に座って、そのまま寝てしまった。一気に話したから、疲れたんだろう。

笑理のお母さんが、俺たち2人迎えに来ることになった。もちろんお母さんにも、このことは話された。

その後、笑理が通っていた小学校で、調査が行われた。何人かの児童の証言により、いじめがあったこと、加害者は誰かから、その場に居た傍観者まで、全て調べ上げられた。笑理の元担任は、不十分な教育をしていたことも見つかり、処分がくだされた。

報告書が来た時、笑理と俺はそれらを見た。
「私…5年生から学校行くよ」
横には俺、後ろにはお母さんがいる状況で、笑理はそう言った。
「たくさん、友達を作りたい!」
「笑理…分かったわ」

そうしてこれから、笑理の学校生活が始まっていく。
そしてその場で、俺はこう言った。
「俺が絶対、笑理を守ります!」
笑理のお母さんはそんな俺を見て、少しほっとしたようだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

処理中です...