上 下
12 / 26
第二章:勇者カイ

第二章:勇者カイ⑧

しおりを挟む
「やはり……貴方が魔王なのですね」
 姫が納得したように頷く。と同時に、警戒するかのように目を細める。まぁ、無理もないだろうな。ここは目的を話して警戒を解くべきだろう。
「あぁ。だが安心してほしい。俺は別に、姫や王を殺すためにここに来たわけではない」
「……その言葉、信じられますとでも?」
「大丈夫ですよ、姫。コイツは今のとこ悪い奴じゃないですよ、たぶん」
 多分、とは……。カイがそんなことを言うから姫がますます疑惑の眼差しでこちらを見てくるではないか!助けるならもっと確実に助けてほしいものだ……。
「……では、何のために城へいらしたんですの? 先ほど申していた時の繰り返しとやらを聞くためだけという訳ではないでしょう」
 思わず、俺とカイが顔を見つめあう。さて、どう答えたら良いものか……。
「さぁおっしゃって! 貴方の真の目的を!」
「……あの、姫」
「何ですの」
「申し上げにくいのだが……俺たちは本当に時の繰り返しについて聞きたいだけで……」
「……嘘はやめて頂きたいですわ。そんなはずありませんもの」
「いやぁ~姫、信じがたいでしょうけど本当にそれだけなんですよね~。僕の命に誓って断言しますよ」
 カイの言葉を聞いて姫が眉間に皺を寄せる。勇者が命に誓うほどのことだ、嘘とも思えないと考えたのだろうか。
 しかしカイの奴、命に誓ってとは……なかなかカッコよいことを言うではないか。
「……本当に、本当ですの?」
 俺とカイは黙ってうなずく。しばらく俺たちの顔を交互に眺めつつ、考えている様子の姫だったが、ため息を一つつくと気が抜けたように椅子の背もたれに寄りかかる。
「はぁ~……良かったですわ……」
 姫は安心したようにそう呟くと、気が緩んだのかくすくすと笑いだす。
「私、ダモサーラを見た時本当に驚きましたのよ? まさか魔王がこの城に来るなんて思ってもみなかったんですもの……お父様に心配かける訳にも参りませんし、ですからこうやって聞こうと……」
「姫! 少しよろしいかな?」
「何ですの?」
「先ほどから気になっていたのだが……何故俺を見て魔王だと思ったのですか? この角以外で」
 そう言って角を指さす。先ほど姫は見た時驚いた、と言った。角を見て普通じゃないと思うのはまぁわかるのだが、魔王と思うのには何か理由があるはずだ。何らかの方法で俺の容姿が外部に漏れていたのかもしれない。時の繰り返しとは関係がないかもしれないが、今後のために聞いておかねば……。
「あぁ、それなら簡単ですわ! 神様が教えてくださったの」
「神様~?」
 カイが素っ頓狂な声を出す。神様、と言うと……この大地を作ったとか人間を作ったとかいう奴の事か?そういえば、人間の中にはその神様とやらを崇拝する者もいると聞くが……姫もそうなのだろうか。
「えぇ。これはお父様と私しか知らないことですが……私、神様の声が聞こえるのです」
「はぁ……」
 正直人間と神様の関係など魔物である俺にはわからん。声が聞こえるのも皆できることなのではないのか?
 しかしカイの信じられないという表情を見て、これは普通の事ではないのだなと思った。
「まぁ! 信じていませんわね!」
「いえまさか、その……詳しく教えて頂いてもいいですかな」
「姫、僕も詳しく聞きたいです!」
「……まぁ、いいでしょう」
 姫はあまり乗り気ではないようだが、その神様とやらについて、是非とも知っておきたいものだ。神様は俺が魔王だと知っていたとするならば、それは時の繰り返しと何かしら関係があるかもしれん。
 俺たちは姫の話に静かに耳を澄ました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...