38 / 40
第38話(慎二視点)
しおりを挟む
仕事終わり。帰路につこうとビルを出ると、そこには那月がいた。
彼の前を通り過ぎようとした時、声がかけられる。
「離婚届出してきたよ」
その言葉に、俺の足は止まった。
「今なんて?」
「だから僕と慎二は、無事に離婚しましたっ!」
那月は、少し乱暴な手つきで何やら紙を渡してくる。
「離婚届、受理証明書……」
「これで信じてくれる?」
頭がボーッとしてくる。
離婚?
俺と那月が?
俺は那月を手放すのか?
「あぁ……ありがとう」
俺は受け取った紙を片手に、再び歩き出す。しかし、那月が進路を塞ぐ。
「離婚届出したら、話してくれるって言ったよね?」
「…………言ったっけ?」
すっとぼけると、那月に睨みつけられた。
「言ったとしても、もう話すことなんてないだろう?」
「ある! 慎二にはなくても、僕にはあるんだって」
「俺は、那月の話が聞きたくない!」
俺はそう言い切ると、那月の横を通り過ぎる。すると後ろから、衝撃の事実が聞こえてきた。
「僕、実はコーンスープ嫌い」
「…………はぁっ!?」
「そもそもトウモロコシが不味いのに、それをスープにして固形なのか液体なのかよく分からないドロっとした未知の食べ物にするのが謎」
「いやでも、美味しいって言って、毎朝食べてたよねッ!?」
俺はついつい振り返って、那月の肩を掴んだ。それに那月はビクッと身体を震わせる。
「あ、ごめん……」
俺は、素早く手を引っ込めようとする。しかし、那月にその手を掴まれた。
そして、その掌にスリスリと頬を寄せてくる。
「何をして……」
「慎二の手って大きくて頼りがいがあるよね」
那月はそう言いながら、今度は抱きついて、俺の胸に顔を埋める。
「あぁー、慎二の匂い落ち着くー」
「いやっ、えっ……どうしたの?」
那月を見下ろすと、手持ち無沙汰な腕を取られ、背中に回すように誘導される。
「抱きついて、いいの……?」
「僕達、離婚はしたけど番ではあるんだよ? そんなのいいに決まってる」
「でも、番になったのは俺が無理矢理……」
「僕は、慎二が好き」
那月は俺の言葉に被せるように言った。そして、ギュッと抱き締められる力が強くなった。
「だから僕は、慎二に抱きしめて欲しいし、本当はずっと抱いてだって欲しかったんだよ……」
「那月……」
俺は那月の頭を撫でる。そして、ひとつ息を吐いてから「嘘はつかなくていい」と言う。
「嘘じゃない!」
那月は顔を上げて否定する。
俺はそんな那月の頭をポンポンと叩く。
「あの家は那月にあげるし、金だって言ってくれれば、欲しいだけあげる。だから、別れたあとの生活の心配はしなくていい」
「そんな心配してないよッ!!!」
那月はまた俺の服に顔を埋める。しかし俺は、背中に回された那月の腕を取って、彼から離れようとする。
「あれだけの量の離婚届を書くくらいに、俺と離婚したかったんでしょ?」
「あれはっ……!」
「本当にごめん。今まで手放してあげられなくて。それと、トラウマを植え付けて」
那月から離れて頭を下げる。
すると、困惑げな声が聞こえた。
「トラウマ……?」
「俺が急に触ったりすると震えたり、ラット状態で抱こうとすると怖がったり。それって俺が那月を番にしたあの日から、だよね?」
俺は「本当にごめん!」と、一層深々と頭を下げる。
それから、那月の顔が見たくなくて、その場を颯爽と去ろうとする。
しかし後ろから、鼻をすする音が聞こえて、足が止まる。
「ちがっ……ちがうっ……全部ちがうっ……何もかも。すれ違い、ばっかり…………なんで…………」
那月の瞳からはポロポロと涙が零れ落ちる。
「慎二のことがッ…………好きなだけなのにっ…………うぅっ…………」
那月は膝から崩れ落ちると、声を上げて泣き出した。
彼の前を通り過ぎようとした時、声がかけられる。
「離婚届出してきたよ」
その言葉に、俺の足は止まった。
「今なんて?」
「だから僕と慎二は、無事に離婚しましたっ!」
那月は、少し乱暴な手つきで何やら紙を渡してくる。
「離婚届、受理証明書……」
「これで信じてくれる?」
頭がボーッとしてくる。
離婚?
俺と那月が?
俺は那月を手放すのか?
「あぁ……ありがとう」
俺は受け取った紙を片手に、再び歩き出す。しかし、那月が進路を塞ぐ。
「離婚届出したら、話してくれるって言ったよね?」
「…………言ったっけ?」
すっとぼけると、那月に睨みつけられた。
「言ったとしても、もう話すことなんてないだろう?」
「ある! 慎二にはなくても、僕にはあるんだって」
「俺は、那月の話が聞きたくない!」
俺はそう言い切ると、那月の横を通り過ぎる。すると後ろから、衝撃の事実が聞こえてきた。
「僕、実はコーンスープ嫌い」
「…………はぁっ!?」
「そもそもトウモロコシが不味いのに、それをスープにして固形なのか液体なのかよく分からないドロっとした未知の食べ物にするのが謎」
「いやでも、美味しいって言って、毎朝食べてたよねッ!?」
俺はついつい振り返って、那月の肩を掴んだ。それに那月はビクッと身体を震わせる。
「あ、ごめん……」
俺は、素早く手を引っ込めようとする。しかし、那月にその手を掴まれた。
そして、その掌にスリスリと頬を寄せてくる。
「何をして……」
「慎二の手って大きくて頼りがいがあるよね」
那月はそう言いながら、今度は抱きついて、俺の胸に顔を埋める。
「あぁー、慎二の匂い落ち着くー」
「いやっ、えっ……どうしたの?」
那月を見下ろすと、手持ち無沙汰な腕を取られ、背中に回すように誘導される。
「抱きついて、いいの……?」
「僕達、離婚はしたけど番ではあるんだよ? そんなのいいに決まってる」
「でも、番になったのは俺が無理矢理……」
「僕は、慎二が好き」
那月は俺の言葉に被せるように言った。そして、ギュッと抱き締められる力が強くなった。
「だから僕は、慎二に抱きしめて欲しいし、本当はずっと抱いてだって欲しかったんだよ……」
「那月……」
俺は那月の頭を撫でる。そして、ひとつ息を吐いてから「嘘はつかなくていい」と言う。
「嘘じゃない!」
那月は顔を上げて否定する。
俺はそんな那月の頭をポンポンと叩く。
「あの家は那月にあげるし、金だって言ってくれれば、欲しいだけあげる。だから、別れたあとの生活の心配はしなくていい」
「そんな心配してないよッ!!!」
那月はまた俺の服に顔を埋める。しかし俺は、背中に回された那月の腕を取って、彼から離れようとする。
「あれだけの量の離婚届を書くくらいに、俺と離婚したかったんでしょ?」
「あれはっ……!」
「本当にごめん。今まで手放してあげられなくて。それと、トラウマを植え付けて」
那月から離れて頭を下げる。
すると、困惑げな声が聞こえた。
「トラウマ……?」
「俺が急に触ったりすると震えたり、ラット状態で抱こうとすると怖がったり。それって俺が那月を番にしたあの日から、だよね?」
俺は「本当にごめん!」と、一層深々と頭を下げる。
それから、那月の顔が見たくなくて、その場を颯爽と去ろうとする。
しかし後ろから、鼻をすする音が聞こえて、足が止まる。
「ちがっ……ちがうっ……全部ちがうっ……何もかも。すれ違い、ばっかり…………なんで…………」
那月の瞳からはポロポロと涙が零れ落ちる。
「慎二のことがッ…………好きなだけなのにっ…………うぅっ…………」
那月は膝から崩れ落ちると、声を上げて泣き出した。
141
お気に入りに追加
2,242
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました
和泉臨音
BL
落ちぶれた公爵家に生まれたミルドリッヒは無自覚に前世知識を活かすことで両親を支え、優秀なαに成長するだろうと王子ヒューベリオンの側近兼友人候補として抜擢された。
大好きな家族の元を離れ頑張るミルドリッヒに次第に心を開くヒューベリオン。ミルドリッヒも王子として頑張るヒューベリオンに次第に魅かれていく。
このまま王子の側近として出世コースを歩むかと思ったミルドリッヒだが、成長してもαの特徴が表れず王城での立場が微妙になった頃、ヒューベリオンが抜擢した騎士アレスを見て自分が何者かを思い出した。
ミルドリッヒはヒューベリオンとアレス、α二人の禁断の恋を邪魔するΩ令息だったのだ。
転生していたことに気付かず前世スキルを発動したことでキャラ設定が大きく変わってしまった邪魔者Ωが、それによって救われたα達に好かれる話。
元自己評価の低い王太子α ✕ 公爵令息Ω。

最愛の夫に、運命の番が現れた!
竜也りく
BL
物心ついた頃からの大親友、かつ現夫。ただそこに突っ立ってるだけでもサマになるラルフは、もちろん仕事だってバリバリにできる、しかも優しいと三拍子揃った、オレの最愛の旦那様だ。
二人で楽しく行きつけの定食屋で昼食をとった帰り際、突然黙り込んだラルフの視線の先を追って……オレは息を呑んだ。
『運命』だ。
一目でそれと分かった。
オレの最愛の夫に、『運命の番』が現れたんだ。
★1000字くらいの更新です。
★他サイトでも掲載しております。
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる