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第37話
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『さっき離婚届出してきた』
スマホから慎二の声が出力される。
『でも、受理されなかったよ。那月が出来ないようにしてたんだってね。ねぇ、撤回してくれない?』
昨日、大量の離婚届が無くなっていることに気づいた僕は、まず出社して慎二に会いに行った。しかし、慎二は欠勤していて、そこにはいなかった。
その時点で「あ、僕、本気で避けられてるんだな」と気づいた。
それでも別れたくない。慎二が本当に望んでいることなら別だけど、そうじゃない気がする。
それに、別れるにしても最後に僕の気持ちだけは伝えたい。
そして慎二が僕を避ける理由が僕の想像通りなら、彼に謝りたい。
「慎二、なんで僕のこと避けるの?」
『…………』
「離婚するにしも、まず話し合おうよ」
『…………』
「僕、慎二と別れたくないよ」
『…………ッ』
慎二が声を震わせたのが、スマホ越しに伝わってくる。
「慎二は僕のこと好きって言ってくれたよね?」
『…………』
「僕も慎二のことが好きだよ」
だから、返事をして。
慎二を傷つけてしまった僕を責めてよ。
沈黙が落ちる。しばらくたって、慎二が口を開く。
『……離婚届、郵送するからそっちで提出して』
「慎二ッ!」
通話がブチッと切られた。
そして翌日の朝、郵便受けを確認すると、そこには僕の記入欄以外全て埋められた真新しい離婚届が入っていた。
「昨日、ココに来てたんじゃん……」
月曜日の朝。
あれから何度も慎二には電話をかけたが、一度も繋がることはなかった。
ならばと今日は、会社の前で待ち伏せをしている。
とにかくこのまま何もせずに疎遠になっていくことだけは嫌だ。
しかし、いつも出社するような時間になっても慎二はこない。
徐々に出社する人の数が増えていき、刺すような視線で僕を見てくる人がチラホラと現れる。
そんな視線に居たたまれなくなっていると、目の前に背の高い女の人が現れた。
「貴方、須田さんのオメガよね?」
「えーっとー、そうかもしれないです……?」
慎二がそういう認識でいてくれているのか、分からないけど。
「今日は須田さんのフェロモンついてないのね? はーん、捨てられたのね? やっぱり」
「慎二のフェロモン……?」
女の人はスマホを取り出すと「皆に教えてあげなくちゃ」と呟いた。しかし次の瞬間、僕の視界が遮られる。
「俺が那月を捨てるわけないだろ」
僕と女の人の間に男が一人だった。僕からは背中しか見えない。
しかし彼はーー
「慎二ッ!」
僕は女の人の腕を掴む、その慎二の腕を掴んだ。
力任せにめいっぱい力を込めて握る。しかし「痛いっ」と、声を上げるのは女の人の方だった。
「慎二?」
「おい、女。那月に手を出すような真似は辞めろ。そして、変な噂を振りまくのもだ。俺は那月を捨てない。もし、また那月に変なことしようとしたら容赦しないからな」
「ひっ……」
慎二はそれだけ言うとパッと腕を離し、女の人は会社へと駆けていった。
「ねぇ、慎二」
「……那月、腕を離して欲しい」
「じゃあその前に、話そう?」
「もうそろそろ、勤務時間だ」
「じゃあ、退勤後は?」
「…………届けは提出してくれた?」
「僕、出す気ないよ」
ジッと慎二の目を見つめると、逸らされた。
「慎二が話してくれないなら、僕は絶対に出さない」
「…………」
慎二は僕の手を外そうとするが、簡単には外せないことを悟って溜息をつく。
「…………提出してくれるなら、話してもいいよ」
僕は逡巡するが、「分かった」と頷いて、手を離した。
スマホから慎二の声が出力される。
『でも、受理されなかったよ。那月が出来ないようにしてたんだってね。ねぇ、撤回してくれない?』
昨日、大量の離婚届が無くなっていることに気づいた僕は、まず出社して慎二に会いに行った。しかし、慎二は欠勤していて、そこにはいなかった。
その時点で「あ、僕、本気で避けられてるんだな」と気づいた。
それでも別れたくない。慎二が本当に望んでいることなら別だけど、そうじゃない気がする。
それに、別れるにしても最後に僕の気持ちだけは伝えたい。
そして慎二が僕を避ける理由が僕の想像通りなら、彼に謝りたい。
「慎二、なんで僕のこと避けるの?」
『…………』
「離婚するにしも、まず話し合おうよ」
『…………』
「僕、慎二と別れたくないよ」
『…………ッ』
慎二が声を震わせたのが、スマホ越しに伝わってくる。
「慎二は僕のこと好きって言ってくれたよね?」
『…………』
「僕も慎二のことが好きだよ」
だから、返事をして。
慎二を傷つけてしまった僕を責めてよ。
沈黙が落ちる。しばらくたって、慎二が口を開く。
『……離婚届、郵送するからそっちで提出して』
「慎二ッ!」
通話がブチッと切られた。
そして翌日の朝、郵便受けを確認すると、そこには僕の記入欄以外全て埋められた真新しい離婚届が入っていた。
「昨日、ココに来てたんじゃん……」
月曜日の朝。
あれから何度も慎二には電話をかけたが、一度も繋がることはなかった。
ならばと今日は、会社の前で待ち伏せをしている。
とにかくこのまま何もせずに疎遠になっていくことだけは嫌だ。
しかし、いつも出社するような時間になっても慎二はこない。
徐々に出社する人の数が増えていき、刺すような視線で僕を見てくる人がチラホラと現れる。
そんな視線に居たたまれなくなっていると、目の前に背の高い女の人が現れた。
「貴方、須田さんのオメガよね?」
「えーっとー、そうかもしれないです……?」
慎二がそういう認識でいてくれているのか、分からないけど。
「今日は須田さんのフェロモンついてないのね? はーん、捨てられたのね? やっぱり」
「慎二のフェロモン……?」
女の人はスマホを取り出すと「皆に教えてあげなくちゃ」と呟いた。しかし次の瞬間、僕の視界が遮られる。
「俺が那月を捨てるわけないだろ」
僕と女の人の間に男が一人だった。僕からは背中しか見えない。
しかし彼はーー
「慎二ッ!」
僕は女の人の腕を掴む、その慎二の腕を掴んだ。
力任せにめいっぱい力を込めて握る。しかし「痛いっ」と、声を上げるのは女の人の方だった。
「慎二?」
「おい、女。那月に手を出すような真似は辞めろ。そして、変な噂を振りまくのもだ。俺は那月を捨てない。もし、また那月に変なことしようとしたら容赦しないからな」
「ひっ……」
慎二はそれだけ言うとパッと腕を離し、女の人は会社へと駆けていった。
「ねぇ、慎二」
「……那月、腕を離して欲しい」
「じゃあその前に、話そう?」
「もうそろそろ、勤務時間だ」
「じゃあ、退勤後は?」
「…………届けは提出してくれた?」
「僕、出す気ないよ」
ジッと慎二の目を見つめると、逸らされた。
「慎二が話してくれないなら、僕は絶対に出さない」
「…………」
慎二は僕の手を外そうとするが、簡単には外せないことを悟って溜息をつく。
「…………提出してくれるなら、話してもいいよ」
僕は逡巡するが、「分かった」と頷いて、手を離した。
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