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第35話
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事後特有の倦怠感を感じながら、僕は目を覚ます。
目覚めに扉の向こうから朝食を作る音が聞こえないのは久しぶりな気がする。というより、初めてかもしれない。
現在時刻は午前六時半。
昨日はあのまま眠ってしまったみたいで、僕は目覚まし時計の音で目を覚ました。
昨日起こった出来事を思い出し、僕は頬を染める。怖くはあったものの、この二年間ずっと待ち侘びていたことでもあって、僕は充足感を感じていた。
隣で眠っているであろう慎二を探そうと、手を伸ばす。しかしその手は空を切った。
「慎二……?」
身体を起こして、部屋を見て回る。しかし、彼はどこにもいない。部屋を出て、家中を探し回るが、どこにも。
さらに付け加えるなら昨日、気絶して運ばれた冬弥もいなかった。
二人して慎二の部屋にいるんだろうか?
なんて思っていると、僕の机に書き置きが残されていることに気付く。
『家は自由に使ってください』
慎二の筆跡だ。
紙にはこれしか書かれていなかった。
どういうこと???
嫌な予感がして、絶対に開けないようにと言い含められている慎二の部屋に入る。
しかしそこには、誰もいなかった。
『どこいるの?』
スマホを取りだして慎二にメッセージを送ってみるが、既読はつかない。
トーク画面を閉じると、冬弥の欄に一件通知が溜まっていることに気付く。
『一週間以内に、俺の家に引っ越してこいよ』
離婚を手伝って欲しいと言った時の条件のことかな?
『ごめん、やっぱり離婚しないことにしたから無理。それ以外の条件にしてくれない?』
昨日、慎二が僕のことを本当に好いてくれていることを知った。
色々協力してくれた冬弥には悪いが、僕には最早、離婚をする気なんて微塵もなかった。
『あれ? そーなの? 俺、離婚するから那月のこと頼む。って慎二に言われたんだけど?』
僕の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
『それ嘘! 慎二の冗談だから! 他の条件考えといて』
爆速でメッセージを打ち込んで、スマホを閉じる。
嫌な予感を感じつつ、自室に全力ダッシュ。
「離婚なんて出来るわけない。だって、僕は同意しないし、慎二だって僕のこと好きって言ってたのにッ!!!」
僕はその嫌な予感を払拭したくて、自室へと飛び込んだ。
しかし、通勤カバンからキーケースを取り出そうとして、僕の背筋に嫌な汗が流れた。
「いつも仕舞ってる場所と違う……」
いつもは手前右のポケットに入れているはずのキーケースが、今日はカバンの底から見つかる。
そこから二本ぶらさがっている鍵のうち、一本を指で掴み、机の引き出しの鍵穴に差し込んだ。
ガラガラと音を立てて開く引き出し。そこには、ここ一年何度も書き直した離婚届が、全て無くなっていた。
目覚めに扉の向こうから朝食を作る音が聞こえないのは久しぶりな気がする。というより、初めてかもしれない。
現在時刻は午前六時半。
昨日はあのまま眠ってしまったみたいで、僕は目覚まし時計の音で目を覚ました。
昨日起こった出来事を思い出し、僕は頬を染める。怖くはあったものの、この二年間ずっと待ち侘びていたことでもあって、僕は充足感を感じていた。
隣で眠っているであろう慎二を探そうと、手を伸ばす。しかしその手は空を切った。
「慎二……?」
身体を起こして、部屋を見て回る。しかし、彼はどこにもいない。部屋を出て、家中を探し回るが、どこにも。
さらに付け加えるなら昨日、気絶して運ばれた冬弥もいなかった。
二人して慎二の部屋にいるんだろうか?
なんて思っていると、僕の机に書き置きが残されていることに気付く。
『家は自由に使ってください』
慎二の筆跡だ。
紙にはこれしか書かれていなかった。
どういうこと???
嫌な予感がして、絶対に開けないようにと言い含められている慎二の部屋に入る。
しかしそこには、誰もいなかった。
『どこいるの?』
スマホを取りだして慎二にメッセージを送ってみるが、既読はつかない。
トーク画面を閉じると、冬弥の欄に一件通知が溜まっていることに気付く。
『一週間以内に、俺の家に引っ越してこいよ』
離婚を手伝って欲しいと言った時の条件のことかな?
『ごめん、やっぱり離婚しないことにしたから無理。それ以外の条件にしてくれない?』
昨日、慎二が僕のことを本当に好いてくれていることを知った。
色々協力してくれた冬弥には悪いが、僕には最早、離婚をする気なんて微塵もなかった。
『あれ? そーなの? 俺、離婚するから那月のこと頼む。って慎二に言われたんだけど?』
僕の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
『それ嘘! 慎二の冗談だから! 他の条件考えといて』
爆速でメッセージを打ち込んで、スマホを閉じる。
嫌な予感を感じつつ、自室に全力ダッシュ。
「離婚なんて出来るわけない。だって、僕は同意しないし、慎二だって僕のこと好きって言ってたのにッ!!!」
僕はその嫌な予感を払拭したくて、自室へと飛び込んだ。
しかし、通勤カバンからキーケースを取り出そうとして、僕の背筋に嫌な汗が流れた。
「いつも仕舞ってる場所と違う……」
いつもは手前右のポケットに入れているはずのキーケースが、今日はカバンの底から見つかる。
そこから二本ぶらさがっている鍵のうち、一本を指で掴み、机の引き出しの鍵穴に差し込んだ。
ガラガラと音を立てて開く引き出し。そこには、ここ一年何度も書き直した離婚届が、全て無くなっていた。
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