【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人

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第33話(慎二視点) ※本番なし

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 身体が熱い。そして奥底から甘く、隠微な衝動がじわりじわりと湧き上がる。
 そんな熱にうなされた身体を労わるように、扉に凭れかかっていると、ドンドンドンと扉を叩く振動が背中に伝わってくる。

「慎二ッ! ねぇ、慎二!」

 しかし、その力は弱々しいものだった。

「慎二ッ! そこにいるんだよね?」
「…………」

 那月はどうやらベッドから起き上がり、俺を追って玄関にまで来たらしい。
 彼が近くに来たことでまた甘い香りが辺りを漂う。
 だから、俺の身体に湧き上がる熱も加速度的に上昇していく。

 今すぐこの扉を蹴破って、押し倒して、服を剥ぎ取って……ッ!
 と、やめろやめろ。想像すると更に欲が我慢がきかなくなりそうだ。

「ねぇ、僕のこと無理矢理、番にしたってどういうこと!? あれは事故だったんだよね!?」

 俺はその声に無意識に眉根を寄せる。那月の声が床の方から聞こえてきたからだ。
 立っているのもキツいくせして、なんで俺を追ってくるんだ。

「お願いだから、早くベッドで休んでくれ……」
「ねぇ、慎二……答えてよ」

 那月の声からは勢いが失われ、段々と艶かしい色が滲み出てくる。
 それに呼応するように身体にジーンと甘い痺れが広がる。

 頭が『那月をめちゃくちゃに犯したい』その一点に支配されそうになるのを、かぶりを振って拒絶する。

「ねぇ、慎二……僕のこと番にしたくてしたの?」

 いくら無視しても那月が自室に戻る素振りはない。
 しかしこの扉から離れ、この状態の那月を家の外に出してしまうのは死んでも嫌だ。

「そうだよ……俺は那月のことが死ぬほど好きで、どうしても他のやつに渡したくなかった。だから、二年前の番ったあの日、発情抑制剤を盛ったんだ。最悪だろ?」
「…………」

 那月は肯定も否定もしない。ただ話を聞いている。

「今だって、そのことを後悔すらしてない。どうやったら那月のことを繋ぎ止めていられるか、それしか考えてないんだ」

 どうしても手放したくない。たとえ那月が俺のことを嫌っていたとしても。

「だから、俺の事なんて放っておいてくれ」
「んっ……しん、じ……」

 何かを言いたげに那月が俺の名前を呼ぶ。その言葉は実にたどたどしい。
 小鳥のさえずりのように可愛らしい声。そして、悪魔のように俺を地獄へと誘う艶かしい息遣い。
 俺の屹立は、自分の意思に反して硬くなる。

 大きくひとつ、息を吐いて理性を総動員させる。

「お願いだから、俺が我慢できなくなる前に、早く部屋に戻ってくれ……」
「ヤだ!」

 俺の懇願にも似た言葉は、子供の駄々をこねるような声に遮られた。

「なんで慎二はそうやって……僕のこと、いつも抱いてくれないの……?」
「それは……」

 なんで今更そんなことを聞くんだろうか?

「発情期前に誘っても断るし……僕にあまり触れてこようとしないし……」

 俺の頭は疑問符でいっぱいになる。
 那月のこの質問は何なんだろうか?

「そんなんで俺のこと好きって、そんな言葉信じられるわけないじゃん……」

 もしかして、俺の言葉はずっと、そんな風に那月から拒絶されてきたのだろうか?
 俺が那月を抱かなかったから、

「俺の好意が伝わっていない?」

 こんなに、こんなに愛しているというのに。それが何一つ伝わっていないなんて。

「那月、それは俺のこと誘ってるって捉えていいんだな?」
「ん……うん?」
「本当に那月のこと抱くからな?」
「う、うん……いいよ。でも、どうして急に……」

 那月が頷いたのを確認してすぐに扉を開く。そこには、吃驚する那月がいるが、俺は彼を強引に抱き上げて彼の部屋に直行した。

「し、しんじ……?」

 俺の名前を呼んでくれるその声が堪らなく愛しい。

「好きだ」

 ベッドに押し倒し、服を脱がせてから、耳元で愛を囁く。
 一糸まとわぬ姿の番を見るのは実に二年ぶりで、目頭が熱くなる。

「那月、愛してる」

 那月の顔色を見ながら、足の裏や、甲、爪先などを順々に口付ける。

「那月っ……那月っ……」
「しんじっ……やめっ……」

 顔を赤く染めて抵抗されるが、嫌悪感は見られない。
 今まで拒絶されたくなくて、踏み込めなかったが、これくらいの接触では嫌がられないのか。

 顔を手で覆いながらも、こちらの様子をチラチラと窺ってくる那月がなんとも可愛らしい。

「しんじっ……急に、なんで?」
「なんでって?」
「僕のこと抱いて……んっ、くれる気になったんでしょ?」
「そうだね、那月が嫌がっても辞める気はないよ?」

 目尻に涙を貯めて恥ずかしがる那月を見て微笑んだ。
 なるべく那月が怖がらないように。

「ごめんね、那月……」

 そして、俺の愛撫は太ももの付け根にまで到達した。
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