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第32話(慎二視点)
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俺は今、とてつもなくイライラしていた。
一刻も早く俺の番を家に囲い込みたいのに、何故か目の前のこいつは追いすがってくる。
「慎二って言ったっけ? お前に那月を幸せに出来んのかよ」
冬弥とかいう男は明らかに立っているのもやっとという様子。
それもそのはず。俺と目の前の男は自身のフェロモンで互いを威圧し合い、今現在、俺が完全に勝っている。
普通なら俺達のことを追ってくるなんて無理なはず。それなのに、男は尚も歩み寄ってくる。
「事故で番ったんだろ? だったら、那月を解放してくれよ」
男の真剣な瞳に、俺は一歩後ずさる。
俺に那月は幸せに出来ない。
その事実を突きつけられるようで、焦燥感に駆り立てられる。
それと同時に隣から「いっ……!」という声が上がった。
「あ……」
隣を見れば、俺が掴んだ腕を見て、那月が苦悶の表情を浮かべている。
その顔を見て、またやってしまったのだと理解する。
那月を大切にしたいのに、俺にはどうしてもそれが出来ない。
男が鼻で笑ったのが聞こえる。
「那月の腕、痣になってるよ。そうやって思い通りにならないことがあると、イライラして当たっちゃうんだよな」
「…………」
男が馬鹿にするような笑みを浮かべ、分かったような口を聞く。それがまたムカつく。
「だから那月に嫌がられるんじゃないの? オメガだからって見下して、何でもしていいわけじゃない。というかそもそも事故で番ったっていうのも嘘で、ホントは薬でも盛ったんじゃねーの?」
「冬弥それは言い過……」
那月が俺を庇うようなことを言ってくれようとするが、俺はそれを遮った。
「黙れ。死にたくないなら」
口を覆うように男の顔を鷲掴む。
やはり那月は無理矢理、番にされたことに気付いていたのか。でなければ、男からこんな言葉が出てくるわけがない。
「死にたくって……うっ……」
顔を掴む手に力を入れると、男は呻き声を上げる。
「俺は自分でも那月への執着心がコントロール出来ない」
男の目を睨みつける。
「いつもいつも那月が俺の元からいなくなるって考えるだけで発狂しそうなんだよ」
「慎二……?」
那月は困惑した声で俺の名前を呼ぶ。しかし、那月の顔を見ることは出来ない。
「那月を解放? お前なんかに言われて出来るくらいの執着心なら、そもそも那月と無理矢理、番うなんてことしてないんだよ!」
感情が昂って、さっきまでコントロール出来ていたはずのフェロモンが暴走する。
「うっ……あっ……」
男は俺の手の中で呻き、震えている。そして、ガクリと意識を手放した。
「冬弥ッ!?」
那月が男に駆け寄ろうとする。しかし、その場でへたりこんだ。
「へっ? なんで……」
さっきまで男に向けていたフェロモンがコントロールを失い、那月のいる方にまで届いてしまう。
那月が艶かしい呼吸を繰り返すのを聞いていると、俺の体温も徐々に上昇していく。
このままではマズい。
どうにかフェロモンのコントロールを取り戻すが、那月の発情は止まらないところまで来てしまっているみたいだった。
男と那月を抱えて、急いでエレベーターに乗る。
「慎二……さっきのってどういう……」
俺を甘く誘うフェロモンに眉根を寄せていると、息を荒らげながら那月に声をかけられた。
しかし今は、その言葉に答える余裕がなかった。
俺はエレベーターが止まると、家に飛び込む。そして、那月を那月の部屋に寝かせ、男を俺の部屋にぶち込むと、急いで家を出た。
男と那月を二人にするのは死ぬほど嫌だが仕方がない。
それよりも那月のことを抱いてしまわないようにしないと。
一刻も早く俺の番を家に囲い込みたいのに、何故か目の前のこいつは追いすがってくる。
「慎二って言ったっけ? お前に那月を幸せに出来んのかよ」
冬弥とかいう男は明らかに立っているのもやっとという様子。
それもそのはず。俺と目の前の男は自身のフェロモンで互いを威圧し合い、今現在、俺が完全に勝っている。
普通なら俺達のことを追ってくるなんて無理なはず。それなのに、男は尚も歩み寄ってくる。
「事故で番ったんだろ? だったら、那月を解放してくれよ」
男の真剣な瞳に、俺は一歩後ずさる。
俺に那月は幸せに出来ない。
その事実を突きつけられるようで、焦燥感に駆り立てられる。
それと同時に隣から「いっ……!」という声が上がった。
「あ……」
隣を見れば、俺が掴んだ腕を見て、那月が苦悶の表情を浮かべている。
その顔を見て、またやってしまったのだと理解する。
那月を大切にしたいのに、俺にはどうしてもそれが出来ない。
男が鼻で笑ったのが聞こえる。
「那月の腕、痣になってるよ。そうやって思い通りにならないことがあると、イライラして当たっちゃうんだよな」
「…………」
男が馬鹿にするような笑みを浮かべ、分かったような口を聞く。それがまたムカつく。
「だから那月に嫌がられるんじゃないの? オメガだからって見下して、何でもしていいわけじゃない。というかそもそも事故で番ったっていうのも嘘で、ホントは薬でも盛ったんじゃねーの?」
「冬弥それは言い過……」
那月が俺を庇うようなことを言ってくれようとするが、俺はそれを遮った。
「黙れ。死にたくないなら」
口を覆うように男の顔を鷲掴む。
やはり那月は無理矢理、番にされたことに気付いていたのか。でなければ、男からこんな言葉が出てくるわけがない。
「死にたくって……うっ……」
顔を掴む手に力を入れると、男は呻き声を上げる。
「俺は自分でも那月への執着心がコントロール出来ない」
男の目を睨みつける。
「いつもいつも那月が俺の元からいなくなるって考えるだけで発狂しそうなんだよ」
「慎二……?」
那月は困惑した声で俺の名前を呼ぶ。しかし、那月の顔を見ることは出来ない。
「那月を解放? お前なんかに言われて出来るくらいの執着心なら、そもそも那月と無理矢理、番うなんてことしてないんだよ!」
感情が昂って、さっきまでコントロール出来ていたはずのフェロモンが暴走する。
「うっ……あっ……」
男は俺の手の中で呻き、震えている。そして、ガクリと意識を手放した。
「冬弥ッ!?」
那月が男に駆け寄ろうとする。しかし、その場でへたりこんだ。
「へっ? なんで……」
さっきまで男に向けていたフェロモンがコントロールを失い、那月のいる方にまで届いてしまう。
那月が艶かしい呼吸を繰り返すのを聞いていると、俺の体温も徐々に上昇していく。
このままではマズい。
どうにかフェロモンのコントロールを取り戻すが、那月の発情は止まらないところまで来てしまっているみたいだった。
男と那月を抱えて、急いでエレベーターに乗る。
「慎二……さっきのってどういう……」
俺を甘く誘うフェロモンに眉根を寄せていると、息を荒らげながら那月に声をかけられた。
しかし今は、その言葉に答える余裕がなかった。
俺はエレベーターが止まると、家に飛び込む。そして、那月を那月の部屋に寝かせ、男を俺の部屋にぶち込むと、急いで家を出た。
男と那月を二人にするのは死ぬほど嫌だが仕方がない。
それよりも那月のことを抱いてしまわないようにしないと。
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