【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人

文字の大きさ
上 下
28 / 40

第28話(慎二視点)

しおりを挟む
『那月さんに彼氏がいるですってッ!?』

 スマホの向こうから佐々木の声が聞こえる。

「ああ、ついさっき教えられた」
『驚いたわ。那月さんがそんなことするなんて。よっぽどアンタとの番関係が嫌なのね』
「うっ……わざわざ俺の心をえぐるようなこと言うなよ!?」

 本当に嫌な奴だ。

 俺は那月に部屋を追い出され、しばらく落ち込んだ後、佐々木に電話をかけていた。昼休憩に起きた件の後処理について聞きたかったからだ。
 それにも関わらず『那月さんの様子はどう?』という佐々木の言葉に、余計なことまで答えてしまった。
 俺も突然のことにかなり動揺してるみたいだ。

『それで、アンタはどうするのよ?』
「相手の顔を拝みに行く」
『それで?』
「那月の前から消す」
『うわーー』

 画面越しに佐々木のドン引く声が聞こえてくる。

『このストーカー男』
「俺は那月の番であって、ストーカーではない」
『はぁぁぁあ? 普通の番は相手のこと付け回したり、盗撮したり、ましてや薬盛ったりなんてしないんですーッ! どうせ部屋の壁紙には那月の写真がペタペタペタペタ貼ってあるんでしょ!?』
「…………」

 ぐぅの音も出なかった。
 自室を見渡せば、二年前に那月を好きになってからコソコソ隠し撮りしてきた写真が、壁一面に並んでいる。
 
「あぁ、本当に天使だ」
『それには同意するわ。写真ちょーだい』
「い・や・だ」
『今日の件で未だに色々と動いてる私にその態度はないんじゃない?』
「それは那月のためだろ?」
『それはそうだけど……じゃあ、その部屋について那月さんに言うわ』
「分かった! 分かったから、絶対言うなよ?」
『やったぁ♪』

 今すぐ送れと言うので、今月の那月ベストショット集から五枚ほど厳選して送信した。

『うっ……て……し……』

 呻き声が聞こえるが、それは無視して話を続ける。

 「それにしても那月はいつ彼氏を作っていたんだ?」
『そうよね、アンタが四六時中付け回してるのに知らないなんて可笑しいわよね』
「そうなんだよ。そもそも……って、付け回してるんじゃない! 保護してるんだ! ほ・ご!」
『こんなヤツに好かれるなんて那月さんホント可哀想』

 腹の奥底がズンと重くなる。
 いつもの佐々木の軽口なのは分かっている。
 だけど今日、俺のせいで那月が傷ついてしまった。
 それに罪悪感を抱かないほど、面の皮は厚くない。

「なぁ、佐々木」
『何よ、急に改まって』
「俺は、那月のことが好きだ。だから、絶対に別れたくない」
『あー、はいはい。そうね』
「だけどもし……」

 そこで言葉を止めた。
 廊下から音が聞こえる気がする。

『もしもし? 須田?』
「しっ、静かに」

 佐々木が静かになると、玄関からガチャリと扉が開く音が聞こえた。

「那月?」

 急いで自室を出て、玄関を見る。するとそこには那月の姿があった。

「彼氏のとこに行くのか?」

 俺の言葉に那月は振り返った。
 少しフラついている。

「うん、そうだけど?」
「一人で大丈夫? 俺、送るよ。だからちょっと待ってて」

 部屋に戻ろうとすると、腕を掴まれた。
 
「僕は大丈夫だからついてこないで」
「いやでも心配だし」
「心配なら、か、彼氏にひてもらう……」

 噛んで耳を真っ赤にする那月可愛すぎる。じゃなくて、

「それ本当に彼氏?」
「どういう意味?」
「彼氏と会う約束なら、わざわざ体調が悪い今日じゃなくてもいいんじゃないの?」
「…………」

 那月は黙ってしまった。
 今まで那月が誰かと付き合っている素振りは無かった。
 もしかしたら今から会うのは彼氏じゃないのかもしれない。しかも、体調不良でも休めない用事となると困りごとの可能性が高い。

「俺には話せない?」

 那月をコクリと頷く。

「そっか、分かった。いってらっしゃい」

 ここで引き止めても那月を困らせてしまう。それに、尾行を警戒されても俺が困る。
 那月が扉を閉めたのを確認して、俺は自室に走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました

和泉臨音
BL
 落ちぶれた公爵家に生まれたミルドリッヒは無自覚に前世知識を活かすことで両親を支え、優秀なαに成長するだろうと王子ヒューベリオンの側近兼友人候補として抜擢された。  大好きな家族の元を離れ頑張るミルドリッヒに次第に心を開くヒューベリオン。ミルドリッヒも王子として頑張るヒューベリオンに次第に魅かれていく。  このまま王子の側近として出世コースを歩むかと思ったミルドリッヒだが、成長してもαの特徴が表れず王城での立場が微妙になった頃、ヒューベリオンが抜擢した騎士アレスを見て自分が何者かを思い出した。  ミルドリッヒはヒューベリオンとアレス、α二人の禁断の恋を邪魔するΩ令息だったのだ。   転生していたことに気付かず前世スキルを発動したことでキャラ設定が大きく変わってしまった邪魔者Ωが、それによって救われたα達に好かれる話。  元自己評価の低い王太子α ✕ 公爵令息Ω。  

最愛の夫に、運命の番が現れた!

竜也りく
BL
物心ついた頃からの大親友、かつ現夫。ただそこに突っ立ってるだけでもサマになるラルフは、もちろん仕事だってバリバリにできる、しかも優しいと三拍子揃った、オレの最愛の旦那様だ。 二人で楽しく行きつけの定食屋で昼食をとった帰り際、突然黙り込んだラルフの視線の先を追って……オレは息を呑んだ。 『運命』だ。 一目でそれと分かった。 オレの最愛の夫に、『運命の番』が現れたんだ。 ★1000字くらいの更新です。 ★他サイトでも掲載しております。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

処理中です...