【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人

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第26話

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 目を開ければ、自室で寝ていた。

「んっ……」
「那月ッ! 起きた?」

 僕が体を起こそうとすると、慎二が手を貸してくれる。

「大丈夫?」

 心配そうな慎二の顔を見て、先程までの出来事を思い出す。
 
「あぁ、僕、会社で……」
「体調はどう? 吐き気は? 倦怠感は?」

 慎二が顔を寄せてくる。
 近い。近い。近い。

「う、うん、大丈夫だから離れて」
「ん? ……あぁ、ごめん」

 僕が身体を押すと、慎二は離れていく。そして、ベッドの隣にある椅子に座った。
 
「本当は病院に連れていこうとしたんだけど、体調不良の原因が拒絶反応なら、家の方がいいって佐々木が言ってたんだ」

 それで、僕を家に運んだんだと慎二は言う。

「佐々木さんが……」

 佐々木さんもあの場に来たんだ。
 昼休憩に会議室に入って行った二人の姿を思い出す。
 良い雰囲気だったのに僕が二人を邪魔したのか。
  
「那月? 佐々木が気に……」
「佐々木さんに謝っておいてくれないかな? 迷惑かけたって。それに慎二もごめん」

 頭を深々と下げる。

「僕が一人で何とかするって言ったのに、結局こんなことになって迷惑かけて……本当にごめんなさい」

 罵倒される程度だと思ってたのに、まさか拒絶反応を起こすことになるなんて。
 周りに避けられすぎて、少し寂しくなったとはいえ、彼女達に着いていくべきじゃなかった。

 ギュッと目を瞑っていると、手を取られた。

「那月は被害者なんだから、謝る必要なんてないよ。だから顔を上げて」 

 頭に視線をジッと感じたので、言われた通りに顔を上げる。
 すると、ニコリと微笑まれた。
 
「迷惑かけられたなんて思ってないよ。佐々木……だって、那月のこと凄い心配していたし……」
「佐々木さんが心配してた……?」

 恋敵である僕のことを本気で心配してたというんだろうか?

「あぁ、だからもう二度とこんな事は起こらない。佐々木の親が大企業の社長だってことは知ってるだろ?」

 僕は頷く。
 社内でも有名な話だ。
 金持ちのオメガが会社員やってることも、しかも勤め先がその大企業とは全く関係のない会社であることも、皆疑問に思っている。

「その佐々木の親が、オメガの支援団体に多額の寄付をしてるんだ。だから佐々木が動けば、那月に危害を加えた女達も、他のオメガも、これ以上手を出してこれない」

 だからもう大丈夫だと、慎二が僕を安心させるように笑う。

「つまり、佐々木さんが僕のことを助けてくれたってこと?」
「えっ? いやっ、まあ、そういうことになるな……アハッ、ハハハ……俺、役立たず過ぎないか……?」

 慎二が変な笑い声を上げているが、僕の耳には届いていなかった。

 佐々木さんが助けてくれた。
 それ自体は有難いし、感謝しなければいけないと思う。……本当に感謝しないといけない。

 恋敵であるはずの僕のことを心配してくれて、助けてくれて、病院に行かない方がいいなんて助言までしてくれた。

「佐々木さんって本当に性格いいよね」

 本当に僕みたいな奴とは大違いだ。
 喉奥に何かが詰まるような感覚がする。息苦しい。
 
 拳を握りしめて、布団にシワを作っていると、慎二の大きな手が僕の拳を包む。

「……那月。もしかして、佐々木のことが好きなの?」
「……は?」
 
 突然の慎二の発言は、意味が分からないものだった。

「え、どうしてそう思ったの?」
「今、性格良いって褒めてたから。それに、同じオメガで、会社でもほら、可愛い? って人気だから」

 ああ、なるほど。
 慎二の心配そうな顔に合点がいった。

「ううん。僕は……僕と佐々木さんとでは釣り合わないよ」

 好きじゃないと言おうと思ったけど辞めた。佐々木さんが僕のこと好きなわけでもないのに、思い上がってるみたいで恥ずかしい。

 それに慎二のこの言葉の意味は、牽制だ。佐々木さんに手を出すなって言外に言ってるのだ。
 もし僕が佐々木さんにアプローチをかけたりしたら……なんて思われているんだろう。

 だから機嫌を損ねないように有り得ないと断言した上で、佐々木さんを褒めた方がいい。
 好きなオメガに過保護と言われるアルファなら、『俺の佐々木に魅力がないって言いたいのか!?』って言ってもおかしくないから。
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