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第23話(慎二視点)
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「待って、アンタまさか――ッ」
俺が話を一通り終える。その時の佐々木の第一声がこれ。
勘が鋭いヤツだ。これでもまだ全部は話していないのに。
「那月さんに言ってはいけない、私は言えない、周りに知られてはマズイこと……」
佐々木は答えを口に出す前に、俺のさっきの言葉から、その答えを検証し始めた。
それを終えると、信じられないと軽蔑した目で俺のことを見てくる。
「まさか那月さんに薬、盛ってないわよね?」
ほぼ確信状態にも関わらず、問いかけてくるのは、嘘であって欲しいという願望からか。
しかし、俺は首を縦に振った。
「サイテーすぎる……」
俺はそんな佐々木の刺すような視線を受け止める。
那月以外からどう思われいるかは、正直どうでもいい。
那月が健康に、俺のそばで生きてくれてさえいればいいんだ。
「そうか」
俺は佐々木の言う通り、那月に薬を盛った。
二年前、経理部の社員に頼んで、那月に残業させた日がある。その日、箸入れとして渡したお茶。その中に俺は、薬を仕込んでいた。
オメガ専用強制発情剤。正真正銘の違法ドラッグだ。依存性はあっても、使い続けなければ身体に害がないものを選んだ。
そして那月は発情し、俺たちは番になった。
那月は自分の周期が狂ったせいで番になったと思っているはず。しかし、全ての元凶は俺だった。
「そうよね。アルファは、自分のモノにしたいオメガがいたら項を噛んでしまえばいい。番を解消するという行為は、オメガの身体にとても負担がかかる。だから、オメガは絶対に選ばない」
それは、いつもとは全く違う静かな声だった。
「それに、オメガは番を解消しても、もう一度番を作ることはできない。だから、番を解消されたオメガは一生苦労して生きていくことになる」
佐々木は喉奥をくっと鳴らした。
「だから私は、アンタがサイテーなクソ野郎だっていう事実を、那月さんに言えない。だって、その事実を知っても那月さんはアンタと生活しなきゃいけないんだから。なら、知らない方が幸せだって。私は言えないって、そういうことよね?」
最後の方は、声を震わせて泣いていた。
顔に視線を向ければ、ハンカチを取り出し、目元を押えている。
あぁ、佐々木は本当に那月のことを想っているんだなぁ。
身体が何かに憑かれたかのように、ズシンと重くなる。
佐々木は那月のことをこんなにも想っている。那月の嫌がることは絶対にしないんだろう。
俺みたいに手元に置いておく為に薬を盛ろうなんて、那月の意思を無視するようなことは絶対にしない。
那月はきっと、そっちの方が幸せになれた。
踏み潰された結婚指輪。那月はどんな気持ちでそれを壊したんだろう?
俺なんかと一緒にいたくない。そんな意思表示だったんだろうか?
俺はこの手で那月の幸せを潰した。
だから、俺が傷つく資格なんてない。なのに俺は、那月を泣かせてしまった。
那月の為なら何だってする。その為に家事だって覚えたし、那月の嫌がることは絶対にしないと心に誓った。
それなのに俺は、自分で決めたことさえ守れない奴なんだ。
那月を無理矢理にでも手に入れたこと、
後悔はしていない。
それでも、罪悪感は少しずつ募っていく。
「それで? だから、アンタは那月さんに好かれてないわけ? でも、那月さんはその事実を知らないのよね?」
「ああ、そうだ。一年前までは割と仲が良かったんだが、その後から急によそよそしくなって、それ以降は俺も、適度な距離感を模索中だ。正直、那月不足だ」
「適度な距離感って……まあ、好かれてない相手にはそれも必要ね。というより、急によそよそしくなったって、それこそ薬盛ったことがバレたんじゃないの?」
「えっ? そういうこと!?」
「もしそうならアンタ、なるべく那月さんに合わない方がいいわね。だって嫌われてるってことでしょ?」
「えっ、いや、そんな……」
さっきまで泣いていた佐々木は、もう切りかえて次の話をし始めた。
本当に強い女だ。
好きな人のためなら何だってするという気迫が伺える。
まあ、だから俺も、佐々木に話したわけなんだが。
俺もベータやオメガに産まれていたら、佐々木みたいになれたのかな?
アルファというバース性は、好きなオメガができると、並々ならぬ執着を発揮すると言われている。
だから、アルファじゃなかったら純粋に那月のことを想えたのかもしれない。
いや、やめよう。
自分の行いをバース性のせいにするのは辞めようと決めたんだ。
この異常なまでの那月への執着心を持っているのが、須田 慎二なんだ。
それでも那月の為に、それを捨て去ることができたらどんなにいいだろう?
そう考えない日はない。
俺が話を一通り終える。その時の佐々木の第一声がこれ。
勘が鋭いヤツだ。これでもまだ全部は話していないのに。
「那月さんに言ってはいけない、私は言えない、周りに知られてはマズイこと……」
佐々木は答えを口に出す前に、俺のさっきの言葉から、その答えを検証し始めた。
それを終えると、信じられないと軽蔑した目で俺のことを見てくる。
「まさか那月さんに薬、盛ってないわよね?」
ほぼ確信状態にも関わらず、問いかけてくるのは、嘘であって欲しいという願望からか。
しかし、俺は首を縦に振った。
「サイテーすぎる……」
俺はそんな佐々木の刺すような視線を受け止める。
那月以外からどう思われいるかは、正直どうでもいい。
那月が健康に、俺のそばで生きてくれてさえいればいいんだ。
「そうか」
俺は佐々木の言う通り、那月に薬を盛った。
二年前、経理部の社員に頼んで、那月に残業させた日がある。その日、箸入れとして渡したお茶。その中に俺は、薬を仕込んでいた。
オメガ専用強制発情剤。正真正銘の違法ドラッグだ。依存性はあっても、使い続けなければ身体に害がないものを選んだ。
そして那月は発情し、俺たちは番になった。
那月は自分の周期が狂ったせいで番になったと思っているはず。しかし、全ての元凶は俺だった。
「そうよね。アルファは、自分のモノにしたいオメガがいたら項を噛んでしまえばいい。番を解消するという行為は、オメガの身体にとても負担がかかる。だから、オメガは絶対に選ばない」
それは、いつもとは全く違う静かな声だった。
「それに、オメガは番を解消しても、もう一度番を作ることはできない。だから、番を解消されたオメガは一生苦労して生きていくことになる」
佐々木は喉奥をくっと鳴らした。
「だから私は、アンタがサイテーなクソ野郎だっていう事実を、那月さんに言えない。だって、その事実を知っても那月さんはアンタと生活しなきゃいけないんだから。なら、知らない方が幸せだって。私は言えないって、そういうことよね?」
最後の方は、声を震わせて泣いていた。
顔に視線を向ければ、ハンカチを取り出し、目元を押えている。
あぁ、佐々木は本当に那月のことを想っているんだなぁ。
身体が何かに憑かれたかのように、ズシンと重くなる。
佐々木は那月のことをこんなにも想っている。那月の嫌がることは絶対にしないんだろう。
俺みたいに手元に置いておく為に薬を盛ろうなんて、那月の意思を無視するようなことは絶対にしない。
那月はきっと、そっちの方が幸せになれた。
踏み潰された結婚指輪。那月はどんな気持ちでそれを壊したんだろう?
俺なんかと一緒にいたくない。そんな意思表示だったんだろうか?
俺はこの手で那月の幸せを潰した。
だから、俺が傷つく資格なんてない。なのに俺は、那月を泣かせてしまった。
那月の為なら何だってする。その為に家事だって覚えたし、那月の嫌がることは絶対にしないと心に誓った。
それなのに俺は、自分で決めたことさえ守れない奴なんだ。
那月を無理矢理にでも手に入れたこと、
後悔はしていない。
それでも、罪悪感は少しずつ募っていく。
「それで? だから、アンタは那月さんに好かれてないわけ? でも、那月さんはその事実を知らないのよね?」
「ああ、そうだ。一年前までは割と仲が良かったんだが、その後から急によそよそしくなって、それ以降は俺も、適度な距離感を模索中だ。正直、那月不足だ」
「適度な距離感って……まあ、好かれてない相手にはそれも必要ね。というより、急によそよそしくなったって、それこそ薬盛ったことがバレたんじゃないの?」
「えっ? そういうこと!?」
「もしそうならアンタ、なるべく那月さんに合わない方がいいわね。だって嫌われてるってことでしょ?」
「えっ、いや、そんな……」
さっきまで泣いていた佐々木は、もう切りかえて次の話をし始めた。
本当に強い女だ。
好きな人のためなら何だってするという気迫が伺える。
まあ、だから俺も、佐々木に話したわけなんだが。
俺もベータやオメガに産まれていたら、佐々木みたいになれたのかな?
アルファというバース性は、好きなオメガができると、並々ならぬ執着を発揮すると言われている。
だから、アルファじゃなかったら純粋に那月のことを想えたのかもしれない。
いや、やめよう。
自分の行いをバース性のせいにするのは辞めようと決めたんだ。
この異常なまでの那月への執着心を持っているのが、須田 慎二なんだ。
それでも那月の為に、それを捨て去ることができたらどんなにいいだろう?
そう考えない日はない。
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