【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人

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第22話(慎二視点)

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 鍵を回して、会議室に入る。
 するとさっそく「それで?」と、続きを促される。

 俺は何から話そうかと思考を巡らせて、とりあえずと口を開く。

「これから話すことは、絶対に他言するなよ」
「なに? 周りに知られたらマズイ様なことをしたの?」

 俺は、首を縦に振る。

「周りに知られるのはまだいいが、那月には絶ッ対に知られたくない」

 知られてしまえば、俺は絶対に失望される。最悪、離婚を言い渡されかねない。
 そんなことになったら、俺でさえ自分がどんな行動を取るか分からない。
 怒り狂って那月に危害を加えたりなんかしたら……。

 とまで考えてから、コホンと一つ咳払いをする。

「まあ、佐々木は言えないと思うけど」
「私には言えない?」
「ああ、だって佐々木は那月のことが好きだろ?」

 と俺は佐々木を見た。すると佐々木は「待って」と、右手を挙げていた。
 そして、「もしかしてなんだけど」と、前置きしてから話す。

「私今、マウントを取られてる?」
「はぁ?」

 俺の口からは呆れた声が出る。

 マウントって、あのマウント? 相手よりも自分の方が優位な立場に居ると誇示する、みたいなやつ。

「アンタ今まで矢野って呼んでたじゃない。それが結婚してる事実を隠さなくなった今、急に那月って下の名前で呼んで! それがマウントでないなら、なんて言うのよ!」

 佐々木は声を荒らげながら、嫉妬心丸出しで睨みつけてくる。

「ああ、なるほど。これがマウントって言うのか」

 俺は佐々木の顔を見て、ふふっと笑みがこぼれる。
 確かに、佐々木の悔しそうな顔を見るのは快感だ。
 
 今までマウントを取ったことも、取られたこともなかったから、それをしたがる人の気持ちも、それを批判する人の気持ちも分からなかった。

 しかし――

「昨日は那月とお昼を食べたんだ。まあ、その後に抱き合ってる写真を取られてしまったが……その前なんかは那月が雛鳥のように俺が差し出したご飯を食べていて、ほんっっとに可愛かった。それに一昨日は那月と手を繋いで一緒に寝て……天使以外の何者でもなかった」

 これは楽しい。

 多少脚色はしたが、マウントになるであろう事実を俺は佐々木に言い放つ。
 佐々木はダメージを受けたようで、ヨロヨロと身体が沈んでいく。

「それはマウントというより、惚気に近いような……いや、私にわざと話してくる時点でマウントか……」

 佐々木は床に膝を着いて完全にダウンしたかのように見えた。しかしすぐに立ち上がり、傍にある椅子にドカッと座る。

「それで、その雛鳥と天使の写真はどこにあるの?」

 足を組み、ふんぞり返っている。
偉そうな態度だ。

「見せるわけないだろ?」
「ならいいわ? 那月さんのためにも私に出来ることがあるなら、何でも協力するつもりだったの。でも、それもいらないわね。私、那月さんと同じオメガだから、意外と役に立つと思うのだけれど? 残念だわ」

 俺はすぐさま写真を見せた。
 
 那月は今回のことを自分でどうにかすると言っていた。しかし、やはり心配だ。

 アルファというのは自分の番にフェロモンを巻き付けて、番に近づくアルファやベータ共を、威嚇することが出来る。
 しかしそれは、オメガ相手には効かない。

 それもあって、オメガには特に顔が利く佐々木に事情を説明し、協力を仰ごうと思っている。
 それなのに、写真を見せないという理由で協力が得られないのは馬鹿らしい。
 
 那月の写真を見て、顔をニマニマさせる佐々木は気持ち悪い。

「那月のことも急に名前呼びし始めたよな……」

 そんなところが二年前から気に食わない。

「はいはい、それで? どうしてアンタと那月さんは、番になれたのよ?」

 佐々木は写真から視線を逸らさずに聞いてくる。

 俺と那月じゃ釣り合わないとでも言いたげな話し方だな。
 いやまあ、分かるけど。
 実際、ズルしなければ那月と番にはなれなかった。

「俺は二年前、大事なプレゼンの前に那月からコーヒーを貰ったんだ。それがキッカケで――――」

 俺と那月が結婚まで至る経緯を、佐々木に話す。
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