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第21話(慎二視点)
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「須田さん、ちょっとお時間よろしいかしら?」
商品開発部に渡す資料をまとめていると、後ろから声をかけられた。
振り返れば、いかにも機嫌が悪そうな佐々木がいた。
「後にしてくれ。今忙しいんだ」
「あら? さっきから見てましたけど、ずっと手が止まっていたわよ?」
「はぁ? そんなわけないだろ?」
俺は呆れた声でそう言った。
そして、再びパソコンの画面に向き直り、作業を再開しようとすると、画面右下のデジタル時計が視界に入った。
「……十二時?」
俺は目を疑った。
「もう十二時時だって!?」
正確には、十二時十三分。もう、お昼休憩が始まって十分は過ぎている。
「あー、もう、うるさいわね。そうよ、それで私はさっきからずーーっとアンタのこと見てたの。気持ち悪っ」
腕をさすりながら、嫌そうな顔をする。
「そしたら、ちんたらちんたらキーボード押して、かと思えばため息なんかついちゃって、鬱陶しいったらありゃしない」
そう言われて、俺は初めて自分が仕事に集中できていなかったことに気がついた。
今が本当に十二時なら、仕事の進んでなさ具合がエグい。
「いや、まだ佐々木が時計の進みを速めた線がある」
「そんなことしないわよ!」
頭を一切の手加減無しに叩かれた。めっちゃ痛い。
「お昼なのに何ボサッと一人でいるのよ。今日はアンタと矢野さんの噂で持ちきりなんだから、傍にいてあげなさいよ! 一人で居たら危ないし、きっと心細いわ」
那月の名前が出る度に気落ちする。
はぁ、ショックだ。未だに指輪を踏み潰された光景が脳裏に焼き付いて離れない。
しかも俺はその後、那月に無理矢理キスをして……泣かれて……あぁ、やってしまった。
あの時はどうしても怒りが抑えられなかった。
優しくしたいのに、どうしても出来なかった。むしろキスだけでとどめた自分を褒めて欲しいくらいだ。
「あー、もう早く行きなさいってばっ! まったく、溜息をつきたいのは私の方よ! 矢野さんがアンタなんかと結婚してたなんて!」
佐々木は俺の身体をグワングワン揺らしながら、叫んだ。それはもう悔しそうな顔で。
結婚、結婚かぁ。
「そうだよな。俺、那月と一応結婚してるんだよ」
指輪、壊されたけど。
「はぁ? 一応って何よ? ふざけんじゃないわよ! というか、早く矢野さんのところ行きなさいってばっ!」
佐々木は俺の腕を引っ張り、立たせようとしてくる。
しかし俺は、それを拒否する。
「今日は用事があるんだってさ。そして、俺には絶対に来て欲しくないって」
「矢野さんがそう言ったの?」
「……そう」
「アンタ、それで引き下がったの?」
信じられないとでも言いたげな目で見てくる。
「…………」
今、那月のところ行ったら、酷いことしそうだし。泣かせてしまった後で、合わせる顔ないし。
指輪……踏み潰されたし……。
ギュッと手を握りしめる。
「事情を聞かせなさい」
真剣味を帯びた声が、頭上から降ってきた。
「アンタと矢野さんって、本当に結婚しているの?」
視線を上げれば、訝しげな顔をした佐々木が見ていた。
「なんか信じられないのよね。そんな雰囲気、微塵もないじゃない」
その言葉に肩をピクリと震わせる。
本当によく見てる。
「それに、こんなに嫌な噂が広がってるのに、番に傍にいて欲しくないオメガなんている?」
普通に仲の良い番なら、一番安心するアルファの傍にいたいと思うでしょ。と、佐々木は痛いところを突いてくる。
そう、普通の番ならそうなのかもしれない。
でも、俺たちは――――
「俺と那月が結婚してることは本当だよ。俺は那月が大好きだ。でも、那月が俺のことをどう思ってるかは分からない」
「それってどういう……」
佐々木は途中で言葉を止める。
そして、顔を上げると、周りを見渡した。
「場所を変えましょう」
佐々木に倣って周囲を観察する。すると、中に残って昼食を食べてる奴らがこちらに注目していた。
俺は頷いて、誰も使っていない会議室に移動した。
商品開発部に渡す資料をまとめていると、後ろから声をかけられた。
振り返れば、いかにも機嫌が悪そうな佐々木がいた。
「後にしてくれ。今忙しいんだ」
「あら? さっきから見てましたけど、ずっと手が止まっていたわよ?」
「はぁ? そんなわけないだろ?」
俺は呆れた声でそう言った。
そして、再びパソコンの画面に向き直り、作業を再開しようとすると、画面右下のデジタル時計が視界に入った。
「……十二時?」
俺は目を疑った。
「もう十二時時だって!?」
正確には、十二時十三分。もう、お昼休憩が始まって十分は過ぎている。
「あー、もう、うるさいわね。そうよ、それで私はさっきからずーーっとアンタのこと見てたの。気持ち悪っ」
腕をさすりながら、嫌そうな顔をする。
「そしたら、ちんたらちんたらキーボード押して、かと思えばため息なんかついちゃって、鬱陶しいったらありゃしない」
そう言われて、俺は初めて自分が仕事に集中できていなかったことに気がついた。
今が本当に十二時なら、仕事の進んでなさ具合がエグい。
「いや、まだ佐々木が時計の進みを速めた線がある」
「そんなことしないわよ!」
頭を一切の手加減無しに叩かれた。めっちゃ痛い。
「お昼なのに何ボサッと一人でいるのよ。今日はアンタと矢野さんの噂で持ちきりなんだから、傍にいてあげなさいよ! 一人で居たら危ないし、きっと心細いわ」
那月の名前が出る度に気落ちする。
はぁ、ショックだ。未だに指輪を踏み潰された光景が脳裏に焼き付いて離れない。
しかも俺はその後、那月に無理矢理キスをして……泣かれて……あぁ、やってしまった。
あの時はどうしても怒りが抑えられなかった。
優しくしたいのに、どうしても出来なかった。むしろキスだけでとどめた自分を褒めて欲しいくらいだ。
「あー、もう早く行きなさいってばっ! まったく、溜息をつきたいのは私の方よ! 矢野さんがアンタなんかと結婚してたなんて!」
佐々木は俺の身体をグワングワン揺らしながら、叫んだ。それはもう悔しそうな顔で。
結婚、結婚かぁ。
「そうだよな。俺、那月と一応結婚してるんだよ」
指輪、壊されたけど。
「はぁ? 一応って何よ? ふざけんじゃないわよ! というか、早く矢野さんのところ行きなさいってばっ!」
佐々木は俺の腕を引っ張り、立たせようとしてくる。
しかし俺は、それを拒否する。
「今日は用事があるんだってさ。そして、俺には絶対に来て欲しくないって」
「矢野さんがそう言ったの?」
「……そう」
「アンタ、それで引き下がったの?」
信じられないとでも言いたげな目で見てくる。
「…………」
今、那月のところ行ったら、酷いことしそうだし。泣かせてしまった後で、合わせる顔ないし。
指輪……踏み潰されたし……。
ギュッと手を握りしめる。
「事情を聞かせなさい」
真剣味を帯びた声が、頭上から降ってきた。
「アンタと矢野さんって、本当に結婚しているの?」
視線を上げれば、訝しげな顔をした佐々木が見ていた。
「なんか信じられないのよね。そんな雰囲気、微塵もないじゃない」
その言葉に肩をピクリと震わせる。
本当によく見てる。
「それに、こんなに嫌な噂が広がってるのに、番に傍にいて欲しくないオメガなんている?」
普通に仲の良い番なら、一番安心するアルファの傍にいたいと思うでしょ。と、佐々木は痛いところを突いてくる。
そう、普通の番ならそうなのかもしれない。
でも、俺たちは――――
「俺と那月が結婚してることは本当だよ。俺は那月が大好きだ。でも、那月が俺のことをどう思ってるかは分からない」
「それってどういう……」
佐々木は途中で言葉を止める。
そして、顔を上げると、周りを見渡した。
「場所を変えましょう」
佐々木に倣って周囲を観察する。すると、中に残って昼食を食べてる奴らがこちらに注目していた。
俺は頷いて、誰も使っていない会議室に移動した。
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