16 / 40
第16話
しおりを挟む
会社のオフィスに入ると、幾重もの視線が突き刺さった。
「あの人が写真の……」
「なんであの地味男が須田さんと……」
「男のオメガのくせに調子乗るから……」
至るところから、悪意のある言葉が聞こえてくる。しかしそのどれもが面と向かってではなく、ヒソヒソとどこからともなく聞こえてくるものだった。
どうやら本当に、会社中に拡散されてしまったみたいだ。
慎二は人気者だから、こうなってしまうのも頷ける。昨日、営業部と商品開発部の話を聞いたので、尚更そう納得してしまう。
本当に僕にはもったいない人だ。
僕は全ての視線を無視し、営業部へと向かう。慎二の元に向かうためだ。
結婚してることを絶対に言うなと釘を刺しに行く。
まあ、行かなくても、慎二のことだから勝手に話したりはしないだろうけど。
エレベーターに乗る為、列に並ぶ。しかし、どうにも周りの視線が気になって、じっとしているのが嫌になった。
今日は階段で行こう。
僕は、全くもって使われていない薄暗い階段を上る。丁度、二階から三階に差し掛かったところで、何者かに後ろから口を塞がれた。
僕は抵抗しなかった。
なんでだろう? いつもだったら怖がって、どうにかしようと暴れているはずなのに、今日はそんなことしようとも思えない。
なんかどうにでもなれって感じだ。
二階の使われていない会議室に、連れ込まれる。その時、男の顔が見えた。
なんで慎二がここに?
慎二は会議室の鍵を閉めると、途端に怒鳴った。
「なんで抵抗しないんだッ!!!」
僕の身体は、反射的にビクリと震えた。
それを見た慎二はハッとした顔をして、手で口を覆った。
「……いや、怒鳴るつもりはなかったんだ。ごめん」
なんで慎二が謝るんだ。
僕の中でふつふつと怒りが湧き上がる。
何で僕は、こんなにも弱いんだ。
怒鳴られたくらいで身体を震わせて、慎二に気を遣わせて……。
本当に自分が情けない。
こんなんだから慎二も、僕に構わざるお得なくなるんだ。
昨日だって、大事な昼食会があったのに、僕のせいで欠席させてしまった。
僕は拳をギュッと握りしめて、顔に笑みを貼り付けた。
「ううん、僕は全然大丈夫。それで抵抗しなかった理由だっけ? それは、すぐに慎二だって分かったからだよ。僕だって本気でヤバそうだったら、ちゃんと抵抗するよ?」
僕はブンブンと腕を回した。
慎二には、心配かけない。頼らない。全部、自分でなんとかする。
そうじゃないと、自分が情けなさ過ぎて嫌いになりそうだった。
「だから僕の心配はしなくて大丈夫。自分でなんとか出来るから」
笑う。
大丈夫って思って貰えるように笑う。
僕は強くなるんだ。慎二に勝手に愛を期待して、勝手に裏切られた気分になるなんてこと、もうしたくないから。
と僕が覚悟を決めていると、慎二が呆れたような声を出した。
「はぁ? 心配しなくて大丈夫。って何? 心配するなってこと? そんなの無理に決まってるでしょ」
ヤレヤレとでも言いたげな目で、僕を見てくる。
「那月は自分自身のことを何だと思ってるわけ? 君は僕の番だよ。つ、が、い」
慎二はわざと口を開けて強調してきた。
「なのに、つ、が、い、の俺に心配すらさせてくれないの?」
それは酷くない? と、何故か非難めいた瞳で見られる。
「いや、別にそういうことじゃなくて……そもそも番関係だってあってないようなもんだし……」
「えっ? そうなのっ?」
慎二はショックを受けたような顔をする。
え……? なんで? 僕達ってどこかに番らしい要素あったっけ?
ショボンとする慎二に、僕は焦る。
「いやっ、えっ、うん。そうじゃない? ……あっ、いや、一緒に住んでるし、そんなことも無いのかも?」
悲しそうな表情をする慎二を見て、自分の言葉を訂正する。
こんな慎二、初めて見た。なんか……子供っぽい?
というか、ちゃんと僕のこと番だって思ってくれてたんだ。
「あの人が写真の……」
「なんであの地味男が須田さんと……」
「男のオメガのくせに調子乗るから……」
至るところから、悪意のある言葉が聞こえてくる。しかしそのどれもが面と向かってではなく、ヒソヒソとどこからともなく聞こえてくるものだった。
どうやら本当に、会社中に拡散されてしまったみたいだ。
慎二は人気者だから、こうなってしまうのも頷ける。昨日、営業部と商品開発部の話を聞いたので、尚更そう納得してしまう。
本当に僕にはもったいない人だ。
僕は全ての視線を無視し、営業部へと向かう。慎二の元に向かうためだ。
結婚してることを絶対に言うなと釘を刺しに行く。
まあ、行かなくても、慎二のことだから勝手に話したりはしないだろうけど。
エレベーターに乗る為、列に並ぶ。しかし、どうにも周りの視線が気になって、じっとしているのが嫌になった。
今日は階段で行こう。
僕は、全くもって使われていない薄暗い階段を上る。丁度、二階から三階に差し掛かったところで、何者かに後ろから口を塞がれた。
僕は抵抗しなかった。
なんでだろう? いつもだったら怖がって、どうにかしようと暴れているはずなのに、今日はそんなことしようとも思えない。
なんかどうにでもなれって感じだ。
二階の使われていない会議室に、連れ込まれる。その時、男の顔が見えた。
なんで慎二がここに?
慎二は会議室の鍵を閉めると、途端に怒鳴った。
「なんで抵抗しないんだッ!!!」
僕の身体は、反射的にビクリと震えた。
それを見た慎二はハッとした顔をして、手で口を覆った。
「……いや、怒鳴るつもりはなかったんだ。ごめん」
なんで慎二が謝るんだ。
僕の中でふつふつと怒りが湧き上がる。
何で僕は、こんなにも弱いんだ。
怒鳴られたくらいで身体を震わせて、慎二に気を遣わせて……。
本当に自分が情けない。
こんなんだから慎二も、僕に構わざるお得なくなるんだ。
昨日だって、大事な昼食会があったのに、僕のせいで欠席させてしまった。
僕は拳をギュッと握りしめて、顔に笑みを貼り付けた。
「ううん、僕は全然大丈夫。それで抵抗しなかった理由だっけ? それは、すぐに慎二だって分かったからだよ。僕だって本気でヤバそうだったら、ちゃんと抵抗するよ?」
僕はブンブンと腕を回した。
慎二には、心配かけない。頼らない。全部、自分でなんとかする。
そうじゃないと、自分が情けなさ過ぎて嫌いになりそうだった。
「だから僕の心配はしなくて大丈夫。自分でなんとか出来るから」
笑う。
大丈夫って思って貰えるように笑う。
僕は強くなるんだ。慎二に勝手に愛を期待して、勝手に裏切られた気分になるなんてこと、もうしたくないから。
と僕が覚悟を決めていると、慎二が呆れたような声を出した。
「はぁ? 心配しなくて大丈夫。って何? 心配するなってこと? そんなの無理に決まってるでしょ」
ヤレヤレとでも言いたげな目で、僕を見てくる。
「那月は自分自身のことを何だと思ってるわけ? 君は僕の番だよ。つ、が、い」
慎二はわざと口を開けて強調してきた。
「なのに、つ、が、い、の俺に心配すらさせてくれないの?」
それは酷くない? と、何故か非難めいた瞳で見られる。
「いや、別にそういうことじゃなくて……そもそも番関係だってあってないようなもんだし……」
「えっ? そうなのっ?」
慎二はショックを受けたような顔をする。
え……? なんで? 僕達ってどこかに番らしい要素あったっけ?
ショボンとする慎二に、僕は焦る。
「いやっ、えっ、うん。そうじゃない? ……あっ、いや、一緒に住んでるし、そんなことも無いのかも?」
悲しそうな表情をする慎二を見て、自分の言葉を訂正する。
こんな慎二、初めて見た。なんか……子供っぽい?
というか、ちゃんと僕のこと番だって思ってくれてたんだ。
108
お気に入りに追加
2,242
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました
和泉臨音
BL
落ちぶれた公爵家に生まれたミルドリッヒは無自覚に前世知識を活かすことで両親を支え、優秀なαに成長するだろうと王子ヒューベリオンの側近兼友人候補として抜擢された。
大好きな家族の元を離れ頑張るミルドリッヒに次第に心を開くヒューベリオン。ミルドリッヒも王子として頑張るヒューベリオンに次第に魅かれていく。
このまま王子の側近として出世コースを歩むかと思ったミルドリッヒだが、成長してもαの特徴が表れず王城での立場が微妙になった頃、ヒューベリオンが抜擢した騎士アレスを見て自分が何者かを思い出した。
ミルドリッヒはヒューベリオンとアレス、α二人の禁断の恋を邪魔するΩ令息だったのだ。
転生していたことに気付かず前世スキルを発動したことでキャラ設定が大きく変わってしまった邪魔者Ωが、それによって救われたα達に好かれる話。
元自己評価の低い王太子α ✕ 公爵令息Ω。

最愛の夫に、運命の番が現れた!
竜也りく
BL
物心ついた頃からの大親友、かつ現夫。ただそこに突っ立ってるだけでもサマになるラルフは、もちろん仕事だってバリバリにできる、しかも優しいと三拍子揃った、オレの最愛の旦那様だ。
二人で楽しく行きつけの定食屋で昼食をとった帰り際、突然黙り込んだラルフの視線の先を追って……オレは息を呑んだ。
『運命』だ。
一目でそれと分かった。
オレの最愛の夫に、『運命の番』が現れたんだ。
★1000字くらいの更新です。
★他サイトでも掲載しております。
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる