15 / 40
第15話
しおりを挟む
駅のホームを出て、改札を通る。人混みをすり抜け、会社までの道のりを歩く。
それにしても慎二からのメッセージはなんだったんだろう?
あの後、
『どうしてもダメかな?』
『なんでダメなんだ』
『何でもするからお願いします!』
と、不思議な程に食い下がられた。
そんなに僕との結婚を周りに言いたいのかな?
また踊り出しそうになる心をどうにか沈めていると、横を通った女性がチラッと僕の方に視線を向けた。
考え事をしながらも、前を向いて歩いていた為、視線は合わなかった。
しかし、彼女が僕の顔を見て驚いたのが、横目に見えていた。
どういうことだ?
彼女はその後、スマホを取り出し、画面をじっと見ている。
ますます意味がわからない。
まるで、最近知った芸能人を街中で見かけたような反応。
僕の顔に何かついてるかな?
しかし会社に近づくにつれ、僕に向けられる視線が増えてくる。
その時、ポケットに入れたスマホが鳴った。歩道の脇に逸れ、画面を見る。それは慎二からだった。
トーク画面には、一枚の写真。
そこには、後ろから慎二に抱きしめられる僕の姿があった。
これは、昨日のお昼休憩の……。
写真を見ていると、続けてメッセージが送られてくる。
『この写真が今、会社中で拡散されているんだ。さっき会社に着いたら、同じ部署の奴らに囲まれた。それで俺も知ったんだ』
『那月は危ないから今日は休んで欲しい』
ああ、なるほど。
僕は、慎二があれほど結婚報告に食い下がってきた理由について分かってしまった。
左手に着けている結婚指輪に視線をやる。
僕だけが着けている結婚指輪。
慎二は言わなかったが、つまり僕が慎二と不倫したという内容で噂が回っているんだろう。
しかも恐らくは、僕から迫って――だとか、僕が脅して――だとか、噂に尾ひれが付きまくっている。
しかしそこで、僕と慎二が結婚してることを明かせば、僕の不名誉な噂は取り消せるだろう。
だから慎二は、さっきのやり取りで異様なほど食い下がってきたのだ。優しい慎二らしい。
しかし、僕の心は重たい。まるで鉛のように。
――会社に行きたくない。
別に噂は関係ない。会社に行けば、ジロジロと嫌な視線を向けられ、慎二を好きな女子やオメガに、嫌がらせをされるんだろう。
でも今は、それよりも何よりも、慎二に会いたくない。
家に引き返そうかな?
ここから歩けば、五分もせずに会社に着く。すぐそこだ。それに休めば、経理部の人に迷惑をかけてしまう。
そう思いながらも一歩、駅の方に足を向けた。その時、またもスマホが鳴る。
『結婚してること言ってもいいよね?』
僕はそのメッセージを見た途端、会社に向かって歩き出していた。
――慎二の言葉に従いたくない。
早足で人を掻き分けて進めば、五分どころかすぐに会社のビルが見えてくる。
僕は地面を強く蹴りながら進む。
慎二の行動は全て、優しさと親切心。それを一瞬でも、愛されてると期待してしまった自分に腹が立った。
お情けで守られて、お情けで結婚報告をされるなんて、
絶ッ対に嫌だッ!!!
ずっと言いたかった。
慎二は僕のものだって。
でも、それがこんな形で叶ってしまったら、僕はとてつもなく惨めだ。
優しさなんかいらない。
親切心なんて向けて欲しくない。
僕はきっと傲慢なことを思っているんだろう。
それでももう、傷付きたくない。
それにしても慎二からのメッセージはなんだったんだろう?
あの後、
『どうしてもダメかな?』
『なんでダメなんだ』
『何でもするからお願いします!』
と、不思議な程に食い下がられた。
そんなに僕との結婚を周りに言いたいのかな?
また踊り出しそうになる心をどうにか沈めていると、横を通った女性がチラッと僕の方に視線を向けた。
考え事をしながらも、前を向いて歩いていた為、視線は合わなかった。
しかし、彼女が僕の顔を見て驚いたのが、横目に見えていた。
どういうことだ?
彼女はその後、スマホを取り出し、画面をじっと見ている。
ますます意味がわからない。
まるで、最近知った芸能人を街中で見かけたような反応。
僕の顔に何かついてるかな?
しかし会社に近づくにつれ、僕に向けられる視線が増えてくる。
その時、ポケットに入れたスマホが鳴った。歩道の脇に逸れ、画面を見る。それは慎二からだった。
トーク画面には、一枚の写真。
そこには、後ろから慎二に抱きしめられる僕の姿があった。
これは、昨日のお昼休憩の……。
写真を見ていると、続けてメッセージが送られてくる。
『この写真が今、会社中で拡散されているんだ。さっき会社に着いたら、同じ部署の奴らに囲まれた。それで俺も知ったんだ』
『那月は危ないから今日は休んで欲しい』
ああ、なるほど。
僕は、慎二があれほど結婚報告に食い下がってきた理由について分かってしまった。
左手に着けている結婚指輪に視線をやる。
僕だけが着けている結婚指輪。
慎二は言わなかったが、つまり僕が慎二と不倫したという内容で噂が回っているんだろう。
しかも恐らくは、僕から迫って――だとか、僕が脅して――だとか、噂に尾ひれが付きまくっている。
しかしそこで、僕と慎二が結婚してることを明かせば、僕の不名誉な噂は取り消せるだろう。
だから慎二は、さっきのやり取りで異様なほど食い下がってきたのだ。優しい慎二らしい。
しかし、僕の心は重たい。まるで鉛のように。
――会社に行きたくない。
別に噂は関係ない。会社に行けば、ジロジロと嫌な視線を向けられ、慎二を好きな女子やオメガに、嫌がらせをされるんだろう。
でも今は、それよりも何よりも、慎二に会いたくない。
家に引き返そうかな?
ここから歩けば、五分もせずに会社に着く。すぐそこだ。それに休めば、経理部の人に迷惑をかけてしまう。
そう思いながらも一歩、駅の方に足を向けた。その時、またもスマホが鳴る。
『結婚してること言ってもいいよね?』
僕はそのメッセージを見た途端、会社に向かって歩き出していた。
――慎二の言葉に従いたくない。
早足で人を掻き分けて進めば、五分どころかすぐに会社のビルが見えてくる。
僕は地面を強く蹴りながら進む。
慎二の行動は全て、優しさと親切心。それを一瞬でも、愛されてると期待してしまった自分に腹が立った。
お情けで守られて、お情けで結婚報告をされるなんて、
絶ッ対に嫌だッ!!!
ずっと言いたかった。
慎二は僕のものだって。
でも、それがこんな形で叶ってしまったら、僕はとてつもなく惨めだ。
優しさなんかいらない。
親切心なんて向けて欲しくない。
僕はきっと傲慢なことを思っているんだろう。
それでももう、傷付きたくない。
74
お気に入りに追加
2,230
あなたにおすすめの小説
付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。
雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン
《あらすじ》
恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。
如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。
小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。
春希(26)大河の大学友人。
新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。
どうしようもなく甘い一日
佐治尚実
BL
「今日、彼に別れを告げます」
恋人の上司が結婚するという噂話を聞いた。宏也は身を引こうと彼をラブホテルに誘い出す。
上司×部下のリーマンラブです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
メランコリック・ハートビート
おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】
------------------------------------------------------
『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』
あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。
-------------------------------------------------------
第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。
幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。
「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます
grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】
オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。
以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。
しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。
予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。
すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。
彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。
ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。
夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…?
夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか?
※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います)
※3万8千字程度の短編です
ハコ入りオメガの結婚
朝顔
BL
オメガの諒は、ひとり車に揺られてある男の元へ向かった。
大昔に家同士の間で交わされた結婚の約束があって、諒の代になって向こうから求婚の連絡がきた。
結婚に了承する意思を伝えるために、直接相手に会いに行くことになった。
この結婚は傾いていた会社にとって大きな利益になる話だった。
家のために諒は自分が結婚しなければと決めたが、それには大きな問題があった。
重い気持ちでいた諒の前に現れたのは、見たことがないほど美しい男だった。
冷遇されるどころか、事情を知っても温かく接してくれて、あるきっかけで二人の距離は近いものとなり……。
一途な美人攻め×ハコ入り美人受け
オメガバースの設定をお借りして、独自要素を入れています。
洋風、和風でタイプの違う美人をイメージしています。
特に大きな事件はなく、二人の気持ちが近づいて、結ばれて幸せになる、という流れのお話です。
全十四話で完結しました。
番外編二話追加。
他サイトでも同時投稿しています。
番持ちのオメガは恋ができない
雨宮里玖
BL
ゆきずりのアルファと番ってしまった勇大。しかも泥酔していて、そのときのことをまったく憶えていない。アルファに訴えられる前に消えようと、勇大はホテルを飛び出した。
その後、勇大は新しい仕事が決まり、アパレル会社で働き始める。だがうまくいかない。カスハラ客に詰め寄られて、ムカついてぶん殴ってやろうかと思ったとき、いきなりクレイジーな社長が現れて——
オメガらしさを求めてこない溺愛アルファ社長×アルファらしさを求めないケンカっ早い強がりオメガの両片思いすれ違いストーリー。
南勇大(25)受け。チャラい雰囲気のオメガ。高校中退。仕事が長続きしない。ケンカっ早い。
北沢橙利(32)攻め。アルファ社長。大胆な性格に見えるが、勇大にはある想いを抱えている。
愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる