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第14話
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揺れる電車の中。
通勤カバンを前で抱えながら、僕はスマホを見つめて唸っていた。
僕が離婚を決めてから今日で三日目。
日曜日に離婚を切り出す予定なのだが、その為に必要な偽装恋人がまだ見つかっていない。
と、いうより誰にも声をかけられていない。
僕の交友関係は皆無と言っていい。
職場に友人はいないし、スマホに登録されている連絡先も慎二、家族、元カレのみだ。
この中で頼むとしたら元カレしか選択肢がないのだが、それはどうにも抵抗がある。
気まずいというのもあるのだが、色々あって別れたので単純に会いたくない。
相手が今、僕のことどう思っているのかも分からないし。
しかし、タイムリミットは四日後。もう時間がない。
僕はうんうん唸りながらスマホをタップする。
『冬弥、久しぶり。突然で悪いんだけど、今日か明日の夜、会えたりしない? 頼みたいことがあるんだけど』
送りたい文章は決まっているが、なかなか送信ボタンが押せない。
送りたくない。
送りたくない。
送りたくない。
「なんか昨日もこんなことやってた気がするな……」
僕はふぅ、と小さく息を吐き出して、前に抱える仕事カバンをぎゅっと抱きしめる。
このカバンの中には、慎二の手作りお弁当が入っている。今朝、無理矢理持たされた。
そして「今日こそ、俺にそれを食べさせて」と、鼻息荒く言われた。セックスは嫌でも、スキンシップは良いらしい。
お昼は慎二とご飯。
お昼は慎二とご飯。
頭の中で慎二とのお昼を妄想し、元気をもらう。
よし、送ろう。
僕は覚悟を決めて、送信ボタンを押す。すると、吹き出しに囲まれたさっきの文章が現れた。あとは、返信が来るのを待つだけだ。
冬弥が恋人役を引き受けてくれればいい。しかし断られたら、ネットで探さなければならない。危ないからできれば避けたいんけど。
その時、スマホが振動する。返信が来たのかと画面を見れば、慎二からのメッセージだった。
『今日は会社を休んだ方がいい。それと、俺と那月が結婚してること、職場の人に言っちゃダメかな?』
どういうこと? 話が急すぎて分からない。
もしかして送り間違えた? いや、でも僕の名前書いてあるし。
休めと言うなら家を出る前に言って欲しかった。それに、結婚のことこそ今更すぎる。
話の意図が見えてこない。
しかし、ここで『どうして?』と問うことはしない。どんな理由があれにせよ断ることは決まっているからだ。
僕は鞄の中にあるお弁当と、さっき冬弥に送ったメッセージに意識を巡らせる。
今日のお昼は慎二と食べたいし、離婚を計画しているのに今更周りに慎二との結婚を知られるのは気まず過ぎる。
『もう電車乗ってるし、休むのはちょっと……。それと、結婚のことは今更言う必要ないんじゃない?』
僕は拒絶するメッセージを返した。しかし、身体はソワソワしている。
結婚のこと言いたいって、もしかして本当に僕のこと……。
――那月、愛してる。
昨日、慎二に言われた言葉を思い出す。
僕は少しだけ、期待に胸を膨らませた。
本当は分かってる。頭では分かってるんだ。そんなことあるはずがないって。
昨日の自分も、それを充分理解していた。
けれど、最近の慎二はおかしい。まるで本当に僕のことを愛しているかのように、手を繋いだり、あーんしてきたり、後ろから抱きついて慰めてくれたり……。
本当におかしいんだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
第6話の続き「那月が慎二と手を繋いで寝た後(もちろん慎二視点)」の話をTwitterにて、ツイートしました。
「人生1919」とTwitterで検索して頂ければ、@mutsunenovel というIDのアカウントが出てきますので、そちらをフォローし、読んで下さいッ!
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通勤カバンを前で抱えながら、僕はスマホを見つめて唸っていた。
僕が離婚を決めてから今日で三日目。
日曜日に離婚を切り出す予定なのだが、その為に必要な偽装恋人がまだ見つかっていない。
と、いうより誰にも声をかけられていない。
僕の交友関係は皆無と言っていい。
職場に友人はいないし、スマホに登録されている連絡先も慎二、家族、元カレのみだ。
この中で頼むとしたら元カレしか選択肢がないのだが、それはどうにも抵抗がある。
気まずいというのもあるのだが、色々あって別れたので単純に会いたくない。
相手が今、僕のことどう思っているのかも分からないし。
しかし、タイムリミットは四日後。もう時間がない。
僕はうんうん唸りながらスマホをタップする。
『冬弥、久しぶり。突然で悪いんだけど、今日か明日の夜、会えたりしない? 頼みたいことがあるんだけど』
送りたい文章は決まっているが、なかなか送信ボタンが押せない。
送りたくない。
送りたくない。
送りたくない。
「なんか昨日もこんなことやってた気がするな……」
僕はふぅ、と小さく息を吐き出して、前に抱える仕事カバンをぎゅっと抱きしめる。
このカバンの中には、慎二の手作りお弁当が入っている。今朝、無理矢理持たされた。
そして「今日こそ、俺にそれを食べさせて」と、鼻息荒く言われた。セックスは嫌でも、スキンシップは良いらしい。
お昼は慎二とご飯。
お昼は慎二とご飯。
頭の中で慎二とのお昼を妄想し、元気をもらう。
よし、送ろう。
僕は覚悟を決めて、送信ボタンを押す。すると、吹き出しに囲まれたさっきの文章が現れた。あとは、返信が来るのを待つだけだ。
冬弥が恋人役を引き受けてくれればいい。しかし断られたら、ネットで探さなければならない。危ないからできれば避けたいんけど。
その時、スマホが振動する。返信が来たのかと画面を見れば、慎二からのメッセージだった。
『今日は会社を休んだ方がいい。それと、俺と那月が結婚してること、職場の人に言っちゃダメかな?』
どういうこと? 話が急すぎて分からない。
もしかして送り間違えた? いや、でも僕の名前書いてあるし。
休めと言うなら家を出る前に言って欲しかった。それに、結婚のことこそ今更すぎる。
話の意図が見えてこない。
しかし、ここで『どうして?』と問うことはしない。どんな理由があれにせよ断ることは決まっているからだ。
僕は鞄の中にあるお弁当と、さっき冬弥に送ったメッセージに意識を巡らせる。
今日のお昼は慎二と食べたいし、離婚を計画しているのに今更周りに慎二との結婚を知られるのは気まず過ぎる。
『もう電車乗ってるし、休むのはちょっと……。それと、結婚のことは今更言う必要ないんじゃない?』
僕は拒絶するメッセージを返した。しかし、身体はソワソワしている。
結婚のこと言いたいって、もしかして本当に僕のこと……。
――那月、愛してる。
昨日、慎二に言われた言葉を思い出す。
僕は少しだけ、期待に胸を膨らませた。
本当は分かってる。頭では分かってるんだ。そんなことあるはずがないって。
昨日の自分も、それを充分理解していた。
けれど、最近の慎二はおかしい。まるで本当に僕のことを愛しているかのように、手を繋いだり、あーんしてきたり、後ろから抱きついて慰めてくれたり……。
本当におかしいんだ。
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