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第9話
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十二時過ぎ。
ざわざわと周りが騒がしくなる。
「田中さーん、ご飯行きましょうよー!」
「ヤダよ。どうせお前、また俺に奢らす気だろ?」
ふぅ、やっとお昼か。
今日は今朝のこともあって、あまり集中できなかった。このままだと残業だ。
今週だけは、早めに帰りたいのに。
最後の思い出を作りたいだけでなく、離婚の為に新しい恋人を探さないといけない。
一週間しかないので、実際に新しい相手を探すわけじゃないけど。
そもそも地味で冴えない、しかも既に番がいるオメガ(男)の相手なんて見つかるはずがない。
一度、番ったオメガは、番を解消することは出来る。しかし、新しい番を作ることは出来ない。
だからオメガは、番を作るとオメガとしての価値がぐっと下がる。
ただでさえ需要がないにも関わらず、既に番っていて、離婚に協力して欲しいなんていうオメガ。受け入れてくれる人がいるなんて思えない。
離婚に協力してくれさえしたら、何でもする。
そういう条件で、知り合いに当たってみるしかない。
貯金だってあるし、我慢すれば夜の相手だってできる。
男のオメガは女のオメガよりも頑丈で、一部のアルファには需要があるのだ。夜の相手として。
そんなふうに考えごとをしていると、周りの雰囲気が変わった。
「矢野ーーッ!」
扉の近くから、名前を叫ばれた。慌てて席を立つ。
見れば、先程昼食を集られていた田中さんだった。
「なんですかー?」
「営業部の須田が呼んでるー!」
「……ッ!?」
思わず机に足をぶつけてしまった。痛い。
「待っててもらって下さい! すぐ行きます!」
周りの雰囲気、特に扉近くの雰囲気が変わったと思っていたら、慎二が来ていたのか。
……なんで慎二がここに?
「ねぇねぇ、矢野さんって、須田さんと知り合いなの?」
「えっ、あっ、はい、同期ですので」
「えぇ~、いいな~、羨ましい!」
女子に仕事以外の話題で話しかけられてしまった……。
これが慎二パワーか。
「ああ、ごめんなさい、話しかけて。須田さんが待っているのよね。ほら、さっさと行ってあげて」
背中をポンと叩かれた。しかし、僕の足は動かない。
行きたくない。
行きたくない。
行きたくない。
なんで僕を訪ねてきた? お昼の誘いを断っていたのになんで?
もしかして、慎二はあの後もメッセージを送っていて、でも返信が無いから怒ってる?
いや、そんなことで怒る人じゃない。
でも注意をしに来たとか、なんで返事をしないのか聞きに来たとかなら有り得るかもしれない。
いずれにせよ、今は慎二と顔を合わせたくない。
情けないことに、お昼を断られたことがまだショックなのだ。
しかし周りの目がある手前、逃げるわけにもいかない。そもそもこの部屋の唯一の出口で待機されているのだ。逃げることは難しいだろう。
でも、会いたくない……。
せめて、家に帰るまで時間があれば心の整理できそうなのに。
そうやって、僕がデスクの前で頭を抱えていると、ポンと肩が叩かれた。
「矢野、一緒にお昼食べよう」
この声は……慎二だ。
好きな人の声を、間違えるわけない。
でも、なんでここに……いつの間に、背後に立って?
というか、一緒にお昼? 今朝は断ってたのに。
「……なんで?」
「俺がここにいる経緯は全部、スマホのメッセージ見れば分かると思うんですけど?」
そう言われて、すぐにスマホを起動させようとしたが、その手を止められる。
「その前にどっか行くぞ」
慎二の視線を追って周りを見ると、彼を見てコソコソと話をしている人達と目が合った。
どうやらかなり目立っているらしい。
「矢野のご飯は?」
と聞かれ鞄の中から取り出すと、近くの公園まで手を引かれた。
ざわざわと周りが騒がしくなる。
「田中さーん、ご飯行きましょうよー!」
「ヤダよ。どうせお前、また俺に奢らす気だろ?」
ふぅ、やっとお昼か。
今日は今朝のこともあって、あまり集中できなかった。このままだと残業だ。
今週だけは、早めに帰りたいのに。
最後の思い出を作りたいだけでなく、離婚の為に新しい恋人を探さないといけない。
一週間しかないので、実際に新しい相手を探すわけじゃないけど。
そもそも地味で冴えない、しかも既に番がいるオメガ(男)の相手なんて見つかるはずがない。
一度、番ったオメガは、番を解消することは出来る。しかし、新しい番を作ることは出来ない。
だからオメガは、番を作るとオメガとしての価値がぐっと下がる。
ただでさえ需要がないにも関わらず、既に番っていて、離婚に協力して欲しいなんていうオメガ。受け入れてくれる人がいるなんて思えない。
離婚に協力してくれさえしたら、何でもする。
そういう条件で、知り合いに当たってみるしかない。
貯金だってあるし、我慢すれば夜の相手だってできる。
男のオメガは女のオメガよりも頑丈で、一部のアルファには需要があるのだ。夜の相手として。
そんなふうに考えごとをしていると、周りの雰囲気が変わった。
「矢野ーーッ!」
扉の近くから、名前を叫ばれた。慌てて席を立つ。
見れば、先程昼食を集られていた田中さんだった。
「なんですかー?」
「営業部の須田が呼んでるー!」
「……ッ!?」
思わず机に足をぶつけてしまった。痛い。
「待っててもらって下さい! すぐ行きます!」
周りの雰囲気、特に扉近くの雰囲気が変わったと思っていたら、慎二が来ていたのか。
……なんで慎二がここに?
「ねぇねぇ、矢野さんって、須田さんと知り合いなの?」
「えっ、あっ、はい、同期ですので」
「えぇ~、いいな~、羨ましい!」
女子に仕事以外の話題で話しかけられてしまった……。
これが慎二パワーか。
「ああ、ごめんなさい、話しかけて。須田さんが待っているのよね。ほら、さっさと行ってあげて」
背中をポンと叩かれた。しかし、僕の足は動かない。
行きたくない。
行きたくない。
行きたくない。
なんで僕を訪ねてきた? お昼の誘いを断っていたのになんで?
もしかして、慎二はあの後もメッセージを送っていて、でも返信が無いから怒ってる?
いや、そんなことで怒る人じゃない。
でも注意をしに来たとか、なんで返事をしないのか聞きに来たとかなら有り得るかもしれない。
いずれにせよ、今は慎二と顔を合わせたくない。
情けないことに、お昼を断られたことがまだショックなのだ。
しかし周りの目がある手前、逃げるわけにもいかない。そもそもこの部屋の唯一の出口で待機されているのだ。逃げることは難しいだろう。
でも、会いたくない……。
せめて、家に帰るまで時間があれば心の整理できそうなのに。
そうやって、僕がデスクの前で頭を抱えていると、ポンと肩が叩かれた。
「矢野、一緒にお昼食べよう」
この声は……慎二だ。
好きな人の声を、間違えるわけない。
でも、なんでここに……いつの間に、背後に立って?
というか、一緒にお昼? 今朝は断ってたのに。
「……なんで?」
「俺がここにいる経緯は全部、スマホのメッセージ見れば分かると思うんですけど?」
そう言われて、すぐにスマホを起動させようとしたが、その手を止められる。
「その前にどっか行くぞ」
慎二の視線を追って周りを見ると、彼を見てコソコソと話をしている人達と目が合った。
どうやらかなり目立っているらしい。
「矢野のご飯は?」
と聞かれ鞄の中から取り出すと、近くの公園まで手を引かれた。
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