1 / 40
第1話
しおりを挟む
決めた――離婚しよう。
那月は、自分が怪我をさせてしまった佐々木さん――の介抱をする須田 慎二という男の背中をじっと見つめた。
慎二にはきっと、佐々木さんみたいな綺麗なオメガが相応しい。
僕では、彼に迷惑をかけることしか出来ない。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。僕は歯を食いしばって、それをじっと耐えた。
僕と慎二は同じ会社で働く同期。とはいえ部署が違うし、元々は互いに顔見知り程度だった。
それが一変してしまったのは約二年前。その日は、仕事を押し付けられ、残業をしていた。
「矢野くん、こんな遅くまで残業?」
唐突に声を掛けられ、勢いよく振り返ればそこには、慎二が居た。
彼は当時から営業部で目を見張るような活躍をしていた。しかも、顔も良ければ、スタイルもいい。とにかく色んな意味で、目立つ男だった。
それに対して僕は、地味で冴えない。可愛くもない。仕事も普通。なんの取り柄もない影の薄いオメガ。
だからこそ、そんな彼が声を掛けてきたことがとても意外だったんだ。
「はいこれ、差し入れ」
僕が頷くと、「お疲れ様」と労われ、コンビニのレジ袋が差し出された。
中身を確認すると、複数のおにぎりと少し量の減ったペットボトルのお茶。
「喉乾いて少し飲んだやつだけど、それでいい? 新しいの欲しいなら買ってくるよ」
すぐにでも自販機のある廊下に向かおうとする慎二。
それは申し訳なさ過ぎて、急いで呼び止めた。
「こ、これで大丈夫。ありがとう」
本当に大丈夫だと示すように、僕はお茶を飲んでみせた。
「そっか、よかった」
ホッとしたのか、慎二の顔は笑っていた。
しかし、ホッとしたにしては不似合いな笑み。何考えてるか分からない人だな。と、思っていると、唐突に近づいてきた。
「残ってる仕事、俺も手伝うよ。んで、帰り送っていく」
その言葉にギョッとした。
「いやいやいやっ、いいよ、大丈夫。差し入れも貰って元気出たし、手伝ってもらうほど仕事残ってないし。それに送って行くって……」
「だって、矢野ってオメガだろ? もう結構遅いし、一人で帰るのは危ないよ」
「いやでも……」
「それにこの間コーヒーくれたろ? その時、俺、超重要なプレゼンの前で緊張しててさ、すんごい助かった。だからその分お返しさせてよ」
これは僕を気遣って、理由を出ちあげているだけだ。
僕の行動なんかが、あの須田慎二の人生に影響を与えることなんてあるわけがない。
こんな遅くまで残業してる僕を哀れんでくれただけで……。
僕はその時、慎二の爽やかな笑顔を見て、心臓をバクバクさせていた。
コーヒー渡したの覚えててくれた。
僕は、それがとても嬉しくて、勘違いしてしまいそうな自分を正すので必死だった。
大人のオメガとして、少ないながらも恋愛経験はあった。しかし、僕と付き合ってくれる人は、いつも性格に難アリ。
だから、僕にこんなにも優しく接してくれるアルファは初めてだったんだ。
顔が熱くなるのを感じて、慎二から顔を隠した。
それから僕は、慎二の提案をなんとか断ろうとしたが、結局仕事を手伝われてしまった。
しかし、そんなことは些細なことだった。数十分後に、僕が起こしてしまった出来事に比べれば。
那月は、自分が怪我をさせてしまった佐々木さん――の介抱をする須田 慎二という男の背中をじっと見つめた。
慎二にはきっと、佐々木さんみたいな綺麗なオメガが相応しい。
僕では、彼に迷惑をかけることしか出来ない。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。僕は歯を食いしばって、それをじっと耐えた。
僕と慎二は同じ会社で働く同期。とはいえ部署が違うし、元々は互いに顔見知り程度だった。
それが一変してしまったのは約二年前。その日は、仕事を押し付けられ、残業をしていた。
「矢野くん、こんな遅くまで残業?」
唐突に声を掛けられ、勢いよく振り返ればそこには、慎二が居た。
彼は当時から営業部で目を見張るような活躍をしていた。しかも、顔も良ければ、スタイルもいい。とにかく色んな意味で、目立つ男だった。
それに対して僕は、地味で冴えない。可愛くもない。仕事も普通。なんの取り柄もない影の薄いオメガ。
だからこそ、そんな彼が声を掛けてきたことがとても意外だったんだ。
「はいこれ、差し入れ」
僕が頷くと、「お疲れ様」と労われ、コンビニのレジ袋が差し出された。
中身を確認すると、複数のおにぎりと少し量の減ったペットボトルのお茶。
「喉乾いて少し飲んだやつだけど、それでいい? 新しいの欲しいなら買ってくるよ」
すぐにでも自販機のある廊下に向かおうとする慎二。
それは申し訳なさ過ぎて、急いで呼び止めた。
「こ、これで大丈夫。ありがとう」
本当に大丈夫だと示すように、僕はお茶を飲んでみせた。
「そっか、よかった」
ホッとしたのか、慎二の顔は笑っていた。
しかし、ホッとしたにしては不似合いな笑み。何考えてるか分からない人だな。と、思っていると、唐突に近づいてきた。
「残ってる仕事、俺も手伝うよ。んで、帰り送っていく」
その言葉にギョッとした。
「いやいやいやっ、いいよ、大丈夫。差し入れも貰って元気出たし、手伝ってもらうほど仕事残ってないし。それに送って行くって……」
「だって、矢野ってオメガだろ? もう結構遅いし、一人で帰るのは危ないよ」
「いやでも……」
「それにこの間コーヒーくれたろ? その時、俺、超重要なプレゼンの前で緊張しててさ、すんごい助かった。だからその分お返しさせてよ」
これは僕を気遣って、理由を出ちあげているだけだ。
僕の行動なんかが、あの須田慎二の人生に影響を与えることなんてあるわけがない。
こんな遅くまで残業してる僕を哀れんでくれただけで……。
僕はその時、慎二の爽やかな笑顔を見て、心臓をバクバクさせていた。
コーヒー渡したの覚えててくれた。
僕は、それがとても嬉しくて、勘違いしてしまいそうな自分を正すので必死だった。
大人のオメガとして、少ないながらも恋愛経験はあった。しかし、僕と付き合ってくれる人は、いつも性格に難アリ。
だから、僕にこんなにも優しく接してくれるアルファは初めてだったんだ。
顔が熱くなるのを感じて、慎二から顔を隠した。
それから僕は、慎二の提案をなんとか断ろうとしたが、結局仕事を手伝われてしまった。
しかし、そんなことは些細なことだった。数十分後に、僕が起こしてしまった出来事に比べれば。
274
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
恋人がキスをしてくれなくなった話
神代天音
BL
大学1年の頃から付き合っていた恋人が、ある日キスしてくれなくなった。それまでは普通にしてくれていた。そして、性生活のぎこちなさが影響して、日常生活もなんだかぎくしゃく。理由は怖くて尋ねられない。いい加減耐えかねて、別れ話を持ちかけてみると……?
〈注意〉神代の完全なる趣味で「身体改造(筋肉ではない)」「スプリットタン」が出てきます。自己責任でお読みください。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる