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第1話
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決めた――離婚しよう。
那月は、自分が怪我をさせてしまった佐々木さん――の介抱をする須田 慎二という男の背中をじっと見つめた。
慎二にはきっと、佐々木さんみたいな綺麗なオメガが相応しい。
僕では、彼に迷惑をかけることしか出来ない。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。僕は歯を食いしばって、それをじっと耐えた。
僕と慎二は同じ会社で働く同期。とはいえ部署が違うし、元々は互いに顔見知り程度だった。
それが一変してしまったのは約二年前。その日は、仕事を押し付けられ、残業をしていた。
「矢野くん、こんな遅くまで残業?」
唐突に声を掛けられ、勢いよく振り返ればそこには、慎二が居た。
彼は当時から営業部で目を見張るような活躍をしていた。しかも、顔も良ければ、スタイルもいい。とにかく色んな意味で、目立つ男だった。
それに対して僕は、地味で冴えない。可愛くもない。仕事も普通。なんの取り柄もない影の薄いオメガ。
だからこそ、そんな彼が声を掛けてきたことがとても意外だったんだ。
「はいこれ、差し入れ」
僕が頷くと、「お疲れ様」と労われ、コンビニのレジ袋が差し出された。
中身を確認すると、複数のおにぎりと少し量の減ったペットボトルのお茶。
「喉乾いて少し飲んだやつだけど、それでいい? 新しいの欲しいなら買ってくるよ」
すぐにでも自販機のある廊下に向かおうとする慎二。
それは申し訳なさ過ぎて、急いで呼び止めた。
「こ、これで大丈夫。ありがとう」
本当に大丈夫だと示すように、僕はお茶を飲んでみせた。
「そっか、よかった」
ホッとしたのか、慎二の顔は笑っていた。
しかし、ホッとしたにしては不似合いな笑み。何考えてるか分からない人だな。と、思っていると、唐突に近づいてきた。
「残ってる仕事、俺も手伝うよ。んで、帰り送っていく」
その言葉にギョッとした。
「いやいやいやっ、いいよ、大丈夫。差し入れも貰って元気出たし、手伝ってもらうほど仕事残ってないし。それに送って行くって……」
「だって、矢野ってオメガだろ? もう結構遅いし、一人で帰るのは危ないよ」
「いやでも……」
「それにこの間コーヒーくれたろ? その時、俺、超重要なプレゼンの前で緊張しててさ、すんごい助かった。だからその分お返しさせてよ」
これは僕を気遣って、理由を出ちあげているだけだ。
僕の行動なんかが、あの須田慎二の人生に影響を与えることなんてあるわけがない。
こんな遅くまで残業してる僕を哀れんでくれただけで……。
僕はその時、慎二の爽やかな笑顔を見て、心臓をバクバクさせていた。
コーヒー渡したの覚えててくれた。
僕は、それがとても嬉しくて、勘違いしてしまいそうな自分を正すので必死だった。
大人のオメガとして、少ないながらも恋愛経験はあった。しかし、僕と付き合ってくれる人は、いつも性格に難アリ。
だから、僕にこんなにも優しく接してくれるアルファは初めてだったんだ。
顔が熱くなるのを感じて、慎二から顔を隠した。
それから僕は、慎二の提案をなんとか断ろうとしたが、結局仕事を手伝われてしまった。
しかし、そんなことは些細なことだった。数十分後に、僕が起こしてしまった出来事に比べれば。
那月は、自分が怪我をさせてしまった佐々木さん――の介抱をする須田 慎二という男の背中をじっと見つめた。
慎二にはきっと、佐々木さんみたいな綺麗なオメガが相応しい。
僕では、彼に迷惑をかけることしか出来ない。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。僕は歯を食いしばって、それをじっと耐えた。
僕と慎二は同じ会社で働く同期。とはいえ部署が違うし、元々は互いに顔見知り程度だった。
それが一変してしまったのは約二年前。その日は、仕事を押し付けられ、残業をしていた。
「矢野くん、こんな遅くまで残業?」
唐突に声を掛けられ、勢いよく振り返ればそこには、慎二が居た。
彼は当時から営業部で目を見張るような活躍をしていた。しかも、顔も良ければ、スタイルもいい。とにかく色んな意味で、目立つ男だった。
それに対して僕は、地味で冴えない。可愛くもない。仕事も普通。なんの取り柄もない影の薄いオメガ。
だからこそ、そんな彼が声を掛けてきたことがとても意外だったんだ。
「はいこれ、差し入れ」
僕が頷くと、「お疲れ様」と労われ、コンビニのレジ袋が差し出された。
中身を確認すると、複数のおにぎりと少し量の減ったペットボトルのお茶。
「喉乾いて少し飲んだやつだけど、それでいい? 新しいの欲しいなら買ってくるよ」
すぐにでも自販機のある廊下に向かおうとする慎二。
それは申し訳なさ過ぎて、急いで呼び止めた。
「こ、これで大丈夫。ありがとう」
本当に大丈夫だと示すように、僕はお茶を飲んでみせた。
「そっか、よかった」
ホッとしたのか、慎二の顔は笑っていた。
しかし、ホッとしたにしては不似合いな笑み。何考えてるか分からない人だな。と、思っていると、唐突に近づいてきた。
「残ってる仕事、俺も手伝うよ。んで、帰り送っていく」
その言葉にギョッとした。
「いやいやいやっ、いいよ、大丈夫。差し入れも貰って元気出たし、手伝ってもらうほど仕事残ってないし。それに送って行くって……」
「だって、矢野ってオメガだろ? もう結構遅いし、一人で帰るのは危ないよ」
「いやでも……」
「それにこの間コーヒーくれたろ? その時、俺、超重要なプレゼンの前で緊張しててさ、すんごい助かった。だからその分お返しさせてよ」
これは僕を気遣って、理由を出ちあげているだけだ。
僕の行動なんかが、あの須田慎二の人生に影響を与えることなんてあるわけがない。
こんな遅くまで残業してる僕を哀れんでくれただけで……。
僕はその時、慎二の爽やかな笑顔を見て、心臓をバクバクさせていた。
コーヒー渡したの覚えててくれた。
僕は、それがとても嬉しくて、勘違いしてしまいそうな自分を正すので必死だった。
大人のオメガとして、少ないながらも恋愛経験はあった。しかし、僕と付き合ってくれる人は、いつも性格に難アリ。
だから、僕にこんなにも優しく接してくれるアルファは初めてだったんだ。
顔が熱くなるのを感じて、慎二から顔を隠した。
それから僕は、慎二の提案をなんとか断ろうとしたが、結局仕事を手伝われてしまった。
しかし、そんなことは些細なことだった。数十分後に、僕が起こしてしまった出来事に比べれば。
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