上 下
4 / 11

しおりを挟む



 彩凪知晴の家は表向き、彩凪グループを取りまとめる一族である。グループの規模で言えば学園内で上の下くらいではあるが彩凪家は裏の顔を持つ。
 彩凪家の当主は東組という暴力団の組長を代々務めている。

 東組とは関東を中心に活動している暴力団で、権力者に絶大な影響力を持つ。汚れ仕事を担当しており、暴力団といっても暗殺から企業の機密情報のハッキングまで様々なことに手を染めている。
 しかしながら、証拠となる痕跡を全く残さないことと被害者側が権力による抑圧で警察では対処出来ないような犯罪者だったりする為放置されている。


 そんな組織である東組の次期組長である為、普段は周りに無関心だが怒ると怖い。

 知晴は姿勢よく座っていた状態から背もたれにもたれ掛かり足を組む。

 知晴の眼光は鋭く、怒りを買った会長を睨んでいる。
 会長はビビったのか無意識に後ずさろうとして背中が背もたれにぶつかる。
 だがそんな自分はかっこ悪いと思い、周りに気づかれないように精一杯の虚勢を張る。   

「はっ、じ、実際殴られてないんだから被害者じゃないだろ!そ、それに、殴られるようなことをした親衛隊長が悪い!」

 会長は少々どもりながらも言い返すことに成功した。

「いつ、どこで、だれが、殴られるようなことをした?」

 怒りを押し殺したような声音でなるべくゆっくりと知晴は会長に問いかけた。イライラが止まらないようで迫力は増すばかり。

「親衛隊長が、俺たちが駆けつける前に校舎裏で陽太を殴……。」

ガッ。

「え?なんて?」

 最後まで話を聞く前に知晴は椅子から立ち上がって目の前の机に片脚を置いき、前のめりになって会長の胸ぐらを掴んだ。
 そして、ゾッとするような黒い笑みを顔に貼り付けて聞こえていたにもかかわらず聞き返す。
 目が笑ってない。

 それに負けないよう会長も肝を据える。

「親衛隊長が、陽太を殴るよう、グハッ。」

 胸ぐらを掴まれたままもう一度同じことを言おうとした会長は今度は腹パンをされた。一発がかなり効いたようで会長はその場に蹲る。

 床に膝を着いた会長を見下ろすと、知晴はいいことを思いついたというかのように口元に軽く笑みを浮かべ、会長の横に移動する。そして、知晴が会長の背中目掛けて足を上げると「知晴さん!?」と、澄晴が急いで止めに入る。

「背中を踏むのはダメでしょう!」

「だって、踏みたくなる背中してたんだもん…。あーあ、踏みたい。」

タンタンタン。

 知晴は余程会長の背中を踏みたいのかつま先の方の足裏を使って床で音を鳴らす。

「だ、だったらせめて俺の背中を踏め。」

 そう言った澄晴は知晴が踏みやすいように四つん這いになる。
 嫌々というよりは結構ノリノリで四つん這いになり、期待した目を知晴に向ける澄晴に周りの人は若干引いた。

 そんな澄晴からの期待の視線などを無視した、知晴はドスンッと、その澄晴の背中に座り足を組む。

 こんな異様な空間に動じてない人などおらず、この空気を作り出した知晴にこの場は支配される。

「凛が殴っただとか、殴るように指示しただとか何を根拠に言ってるだ?」

 知晴は何事も無かったかのように先程の続きを話し出した。
 皆、知晴の下で甲乙とした表情を浮かべる澄晴をチラ見するがすぐ様見なかったことにする。

「いや、さっき本人が認めてたでしょう?」

 未だに床に蹲る会長の代わりに副会長が答える。

「んん?認めてたって……あー、あれのことを言ってるのか?親切で助けるわけがないって発言。」

「そ、そうですけど。」

「あの時凛は転校生を馬鹿にしても自分が主犯だなんて一言も言ってない。」

「いやでも……。」

「そもそも!」

 知晴は副会長が口答えをしようとするのを遮った。

「本人が認める認めない以前に凛のせいだと決めつけていたじゃないか。」

「そうですけど?」

 副会長は「それが何か?」というようなきょとんとした顔になる。当然のことをしたまでだときうように。

「それに、親衛隊の起こした問題ならどちらにしろ親衛隊長に責任がありますし何も問題ないでしょう。」

 副会長はうん、これが一番いいでしょうと自分で納得しながらにこやかに締めくくろうとした。

「この学園の奴らは何でそんなにも凛のことを嫌うんだ?」

 怒りに震えた声が聞こえた。
 副会長は声が聞こえてきた方向を見ると知晴が俯きながら拳を握りしめていた。

「はい?」

 震えた声は声量が小さかったのも相まってとても聞き取りにくかった。

「なんで!この学園の生徒は凛をこんなにも嫌うんだ!!!凛は何も悪いことしてないのに…めちゃくちゃ優しいのに…なんで!2年前のことだって生徒会の自業自得……。」

「もういいから。」

 今までソファに座っていた凛が知晴の背後に立ち、肩を掴む。

「ありがとう。」

 そう言った凛の声は震えていた。



 知晴が振り向くとそこに立っていた凛は涙を流していた。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

生徒会長親衛隊長を辞めたい!

佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。 その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。 しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生 面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語! 嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。 一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。 *王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。 素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。

処理中です...