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第二十五話
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僕達は今、生い茂る木々に身を潜め、洞窟の入り口を見つめている。
特に見張りのような人物はいない。そして、近くに人の気配があるようにも思えない。
それを確認して、ルールー方を見る。しかしルールーは木の幹を見つめたまま動かない。
「ルールー?」
「……んぇっ?」
「どうしたの?」
「んぃや、少し昔のことを思い出してた……」
ルールーの顔色は少し悪い。
村からここに来るまでの間も、静かだったし、何かを考えこんでいるようだった。
ルールーも猫獣人だ。
過去に嫌な経験は沢山してきただろう。もしかしたら、今回の事件でそんな記憶を蒸し返させられたのかもしれない。
「ルールーはここにいてよ。僕、洞窟の中見てくるから」
ルールーが無理をする必要はない。
僕は元々一人で来るつもりだったんだから。
ルールーは僕の方に顔を向けると、眉を吊り上げた。
「は? 俺も行くに決まってんだろ」
うーん、押し問答してる暇はないか。それに、こんなに静かなのはおかしい。
もしかして、もう戦闘は終わってて手遅れだとか……。
背筋がゾッとした。
僕は木の影から出る。
ルールーも後ろからついてきた。
洞窟に少し入ると、村の人ではない見知らぬ男たちが十数人倒れていた。身なりからして、この人たちは盗賊団のメンバーなんだろう。
僕は彼らに構わず中に入っていく。
もし奴隷商人のところに既に連れていかれているとしたら……。どうかまだここにいますようにと、祈りながら足を速める。
ルールーは腰にぶら下げている剣の柄を握りながら、周りを警戒している。
洞窟内は少し複雑な構造をしていて、先程男たちが倒れていた場所は少し開けていた。しかし、今僕たちが歩いている場所は僕とルールーが二人で横並びになるには少し狭い。しかも、曲がりくねっている。
そんな場所をルールーが先行して歩いていると声が聞こえた。
「ガ、ガジリオン。猫獣人達は全員縛り終えた。俺達は入口にいる仲間を起こして、ここを去る」
ルールーが急に足を止めた。
どうしたのかとルールーの隣に行き、顔をのぞき込むが道の先をじっと見つめたまま動かない。
その間にも会話は続いている。
「ダメだ」
「なッ……なんでだ」
「まだやってもらうことがある」
「チッ……強制かよ」
「そうだ」
僕はルールー追い抜かして、先に進む。
会話は盗賊のものか、奴隷商人のものか、分からない。ただ、僕の敵である人物がいることは分かる。
しかしこの先に村の人たちや、ラックやナリヤやホンドンさんもおそらくいる。
前に進むのを、ためらっている時間はない。
しかし、僕の足はルールーに腕を掴まれることで止められる。
何かと思い振り返れば、ルールーは歯をガタガタと鳴らしていた。しかも、僕の腕を握る手も震えている。
先程から何か様子がおかしかったが、これは異常だ。
僕はルールーの手をなるべく優しく外した。
すると、今度は肩を掴まれる。
「……ダメだ」
「え?」
「この先に行っちゃダメだ」
「ルールー? うっ……いたい」
肩を掴んだ手に力が込められた。
骨が軋むような音がした。
ルールーはそれに気づき、手を離してくれる。
「あ……すまん。だけど、この先に行くのはダメだ。あの男には絶対に勝てない」
ルールーは顔をくしゃりと歪ませた。
「あの男?」
「ああ、ガジリオンっていう男だ。あいつは強い。ここにグレイが居たとしても勝てねぇかもしれねぇ」
「……でも僕、諦めるつもりはないよ。嫌ならルールーがついてくる必要もない」
僕がそう言うとルールーは黙った。震える自身の手を見ている。
「僕は二度と誰かを傷つける側には回らない。そして、傍観者でいることもしない。奴隷買おうとしていた僕にとある猫獣人が言ったんだ」
僕の言葉を聞いたルールーがピクリと反応し、じっと見つめてくる。
「幸せを奪っていく僕みたいな奴らはクソ野郎だって。すごい睨まれた。その時やっと、自分のしていることの意味が分かった。だからその後誓ったんだ。誰かの幸せを奪った分、僕は皆の幸せを守らないとって」
猫獣人の奴隷が一人しかいないあの屋敷で僕は寂しかった。いつも仲間外れにされていたから、仲間が欲しかった。
檻にいた彼の仲間に笑いかけるように、僕にも笑いかけて欲しかった。
僕は寂しくて、どうしても仲間が欲しくなっていた。それが人の幸せを、命を奪うことになるなんて思ってもみなかったから……。
特に見張りのような人物はいない。そして、近くに人の気配があるようにも思えない。
それを確認して、ルールー方を見る。しかしルールーは木の幹を見つめたまま動かない。
「ルールー?」
「……んぇっ?」
「どうしたの?」
「んぃや、少し昔のことを思い出してた……」
ルールーの顔色は少し悪い。
村からここに来るまでの間も、静かだったし、何かを考えこんでいるようだった。
ルールーも猫獣人だ。
過去に嫌な経験は沢山してきただろう。もしかしたら、今回の事件でそんな記憶を蒸し返させられたのかもしれない。
「ルールーはここにいてよ。僕、洞窟の中見てくるから」
ルールーが無理をする必要はない。
僕は元々一人で来るつもりだったんだから。
ルールーは僕の方に顔を向けると、眉を吊り上げた。
「は? 俺も行くに決まってんだろ」
うーん、押し問答してる暇はないか。それに、こんなに静かなのはおかしい。
もしかして、もう戦闘は終わってて手遅れだとか……。
背筋がゾッとした。
僕は木の影から出る。
ルールーも後ろからついてきた。
洞窟に少し入ると、村の人ではない見知らぬ男たちが十数人倒れていた。身なりからして、この人たちは盗賊団のメンバーなんだろう。
僕は彼らに構わず中に入っていく。
もし奴隷商人のところに既に連れていかれているとしたら……。どうかまだここにいますようにと、祈りながら足を速める。
ルールーは腰にぶら下げている剣の柄を握りながら、周りを警戒している。
洞窟内は少し複雑な構造をしていて、先程男たちが倒れていた場所は少し開けていた。しかし、今僕たちが歩いている場所は僕とルールーが二人で横並びになるには少し狭い。しかも、曲がりくねっている。
そんな場所をルールーが先行して歩いていると声が聞こえた。
「ガ、ガジリオン。猫獣人達は全員縛り終えた。俺達は入口にいる仲間を起こして、ここを去る」
ルールーが急に足を止めた。
どうしたのかとルールーの隣に行き、顔をのぞき込むが道の先をじっと見つめたまま動かない。
その間にも会話は続いている。
「ダメだ」
「なッ……なんでだ」
「まだやってもらうことがある」
「チッ……強制かよ」
「そうだ」
僕はルールー追い抜かして、先に進む。
会話は盗賊のものか、奴隷商人のものか、分からない。ただ、僕の敵である人物がいることは分かる。
しかしこの先に村の人たちや、ラックやナリヤやホンドンさんもおそらくいる。
前に進むのを、ためらっている時間はない。
しかし、僕の足はルールーに腕を掴まれることで止められる。
何かと思い振り返れば、ルールーは歯をガタガタと鳴らしていた。しかも、僕の腕を握る手も震えている。
先程から何か様子がおかしかったが、これは異常だ。
僕はルールーの手をなるべく優しく外した。
すると、今度は肩を掴まれる。
「……ダメだ」
「え?」
「この先に行っちゃダメだ」
「ルールー? うっ……いたい」
肩を掴んだ手に力が込められた。
骨が軋むような音がした。
ルールーはそれに気づき、手を離してくれる。
「あ……すまん。だけど、この先に行くのはダメだ。あの男には絶対に勝てない」
ルールーは顔をくしゃりと歪ませた。
「あの男?」
「ああ、ガジリオンっていう男だ。あいつは強い。ここにグレイが居たとしても勝てねぇかもしれねぇ」
「……でも僕、諦めるつもりはないよ。嫌ならルールーがついてくる必要もない」
僕がそう言うとルールーは黙った。震える自身の手を見ている。
「僕は二度と誰かを傷つける側には回らない。そして、傍観者でいることもしない。奴隷買おうとしていた僕にとある猫獣人が言ったんだ」
僕の言葉を聞いたルールーがピクリと反応し、じっと見つめてくる。
「幸せを奪っていく僕みたいな奴らはクソ野郎だって。すごい睨まれた。その時やっと、自分のしていることの意味が分かった。だからその後誓ったんだ。誰かの幸せを奪った分、僕は皆の幸せを守らないとって」
猫獣人の奴隷が一人しかいないあの屋敷で僕は寂しかった。いつも仲間外れにされていたから、仲間が欲しかった。
檻にいた彼の仲間に笑いかけるように、僕にも笑いかけて欲しかった。
僕は寂しくて、どうしても仲間が欲しくなっていた。それが人の幸せを、命を奪うことになるなんて思ってもみなかったから……。
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