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第二十三話(盗賊のボス視点)

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 ガンッッッ

 俺が拳で机を殴った音が洞窟の中を反響する。
 目の前にはでっぷりと太った男と筋骨隆々な身体に大剣を背負った男。後者は太った男の護衛だろう。

 俺は今、この目の前にいる太った男、奴隷商人と交渉をしていた。いや、この男にとある提案をして、断られたところだった。

「猫を買い取らねぇっていうならなんでこんな所までわざわざ来た?」

 こいつらは国に認められた奴隷商人だ。
 俺は最近、この洞窟に盗賊団の拠点を移した。そして、やたらと猫獣人を見掛けることから猫獣人の集団がここらへんにいると予想している。
 だから、その猫獣人を買い取らないか? と言う提案を、オルナの隣街に最近来たという奴隷商人に部下がしに行ったのだ。
 そして、その部下はいらない農作物まで持って帰って、奴隷商人から貰った手紙を俺にくれた。

 そこには俺の提案を呑むから話を詰めるために俺の拠点までいくという話が書いてあった。

 だから俺は彼らをここに招き入れたのだ。

 でっぷりと太った男が腹を抱えて笑い出す。

「ハハハッ! お前はノラ、と言いましたかな? ハーッ! 哀れ哀れ」

 男は半笑いでこっちを見下してきた。
 それを見た俺は、ついイラついて足にベルトで固定してある短剣に手を添えた。
 すると、隣に立つ護衛の男は剣の柄を掴み、睨みつけてくる。

 殺気が凄い。俺はそれだけで動けなくなってしまった。
 俺は両手を上げて降参の意を示してた。

「わッ、悪かった」

 そう、頭を下げれば男は剣から手を離した。そして、太った男の方が口を開く。

「分かればいいんですよ、分かれば。盗賊なんて低俗な輩がまともに会話出来るとは思ってませんから」
「ぐっ……」
「ああ、そうでした。ここに来た理由、、、はあとで分かります。それよりも」

 太った男はそこで言葉を区切ると護衛の男を「ガジリオン」と呼んで視線を送る。すると、その男。ガジリオンは、素早く俺の背後に回り、俺の肩に手を置くと、耳打ちをしてくる。

「嘘つくんじゃねぇぞ?」

 俺は、頷くことしか出来なかった。
 太った男はそれを見て話し出す。その顔は真剣で先程までのこちらをバカにした雰囲気はあまりない。

「お前は、シユって名前の男を知ってないか?」
「シユ……?」
「ああ、銀髪に青い瞳を持った片耳の猫獣人だ」

 シユ……聞いたことのない名前だった。そんな容姿の猫獣人なんて見たことない。しかも片耳がないなんて、会っていたら印象に残るだろう。

 俺は首を横に振った。

「そうか。まあ、期待はしていなかったがな。彼はかなりの魔術の使い手だ。名前なんていくらでも変えられるし、髪色や瞳の色なんてどうにでもなる」

 太った男はため息を吐く。期待はしていないと言いながら、だいぶ残念そうだ。
 いや、というより疲れている様子だ。

「もし見かけたら連絡をくれ。そいつの情報なら高額で買ってやる。お貴族様がそいつを随分と気に入ってらっしゃってな」

 そこまで男は話すと、急にまた表情を変える。

「こんな湿ったところに住み着いてる下賎な輩と随分と話してしまいましたな。じゃあ……」

 と、男が立ち上がろうとした時。

 この部屋に俺の部下が走って入ってきた。

「ボス! 敵襲です!」

 その言葉に、太った男が笑い出す。

「ハッハッハッハー! やっとですなー」

 俺はどういうことだと男の方をパッと見る。すると、男は更に顔をニヤニヤいや、ニチャニチャさせて笑う。

「彼らを殺してはいけませんよ? 私たちの大事な商品ですから。もし、殺したら……分かりますよね?」

 クソッ。
 襲撃はこいつらの差し金か。
 ガジリオンが剣を抜いて威圧してくる。

 それにしても誰が来たんだ?

 俺は、報告をくれた部下に質問する。

「敵は?」
「猫獣人が二十人前後です」
「他の奴らを集めて入口に来い!」

 俺はそれだけ部下に言うと、部屋を飛び出し、入り組んだ洞窟を走って入口に向かう。

 なんで猫獣人が?
 あのデブは何をしやがったんだ?
 ……そういえば、街に交渉しに行った部下とわざわざ別れてここに来たにしては来るのが早かったような……。

 まあ、今はそんなこと考えている暇はない。

 後ろを見れば、奴隷商人達は俺のその後ろを歩いて着いてきているようだ。そのさらに後ろを部下が走ってきているのが見える。

 入口にたどり着けば、五人の盗賊団のメンバーと猫獣人が戦っているところだった。
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