猫獣人を守る為なら僕は、悪役になったって構わない

人生2929回血迷った人

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第二十話

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 ラックたちが街を出たのは昨夜。休憩をなるべく取らず、荷馬車で急いで村に向かったとして到着するのは今日の昼過ぎだと考えられる。

 対して僕たちは今から、ルールーが連れてきたグレイの馬に乗って移動する。荷馬車よりはスピードが出せるものの、普通なら追いつけない……そう思っていたが……。

「良い馬だ……」
「そうだろそうだろ?」

 ルールーが連れてきた馬は予想以上に体格が良かった。
 ルールーは鞍を装着した馬をこちらに渡してくれたので、試しに乗ってみる。
 少し走らせれば、相当足の速い馬だということが分かった。

 これならラックたちに追いつくことは無理でも盗賊との戦いが始まる前には村に到着することができそうだ。

 そう思うと、知らないうちに手綱を握りしめていたこぶしから力が抜ける。

「準備できたぞー!」

 馬に乗って走り寄ってきたルールーから声がかかった。

「じゃあ行こう。着いてきて」

 そう言って馬を走らせようとするが、ルールーからの返事はない。
 何かと思い、ルールーの方を向けば、彼はじっとこちらを見つめていた。

「何?」
「いや、本当に馬に乗れんだなーって思って」
「馬にくらい誰でも乗れ……ないか……」

 馬というのは高級なものだ。庶民には手が届かない。
 だから、馬に乗れる獣人というのは限られてくる。

 ラックやナリヤは僕が特殊なことが出来たとしても理由を聞かないようにしてくれている。

 だから、警戒心が緩んでいた。 

 ルールーが口を開こうとしてるのが見えたので、僕は馬を進行方向に歩かせる。

「……ファイアさんって……」
「とりあえず先に進もう」
「……ああ、そうだな」

 ルールーは僕に無理矢理問いただしてこようとはしなかった。

 ルールーが僕の何を知っていて何を知らないのか分からない。
 僕が猫獣人で、しかも片耳を持っていないことは知っているけど、乗馬できることは知らなかった。
 本当にこの人は何者なんだ?






 馬が駆ける。
 一つ一つの景色が一瞬で消え去っていく。顔にかかる風が強く、息を吸うのも一苦労だ。
 こんなにもスピードを出した馬に乗るのは初めてで少し怖い。

 隣をちらりと見れば、何食わぬ顔で隣を駆けている。

 言葉遣いや所作からそれらしさは感じなかったが、やっぱりルールーもグレイと同じで貴族なのか?
 それなら僕を見た事あっても不思議ではないが、やっぱり僕が猫獣人であることを知っているのはおかしい。

 そんなことを考えていると、既に村まであと半分くらいの距離まで来ていた。
 この調子なら村に着く前にラックたちに追いつけるかもしれない。
 しかしそう思った時、馬のスピードががくりと落ちる。

 そこで、自分の考えが甘かったことを思い知らされる。

 いや、分かっていた。普通なら一日かける道のりをその四分の一も書けずに到着しようとするのは到底無理な話だ。
 こんな短時間で道のりを半分まで消化してしまうこの馬は既におかしいくらいに凄いのだ。

 でも、もしかしてと思ってしまった。



 僕は近くに川があったことを思い出し、そこに向かうと馬から降りた。
 久しぶりの地面に少し足が震える。
 僕はそれを抑えて、水を飲む馬を撫でてやる。

 すると、ルールーの馬も隣で水を飲み始めた。ルールーもその馬を撫でている。

「ファイアさん、今どんくらいまで来たんだ?」
「半分ちょっと」
「半分かー。馬の体力持たねぇけどどうすんの?」

 僕は返事ができない。
 どうしようかと頭を巡らせる。

「……もともと何か策があったんじゃねーの? この距離で半分だってんなら、どんな速くて体力がある馬だったとしても昼過ぎまでに着くのは無理だし」

 確かにその通りだった。元々僕には考えがあった。
 しかし一度、この手は使わなくてもいいかも? と、思ったことで躊躇ってしまう。
 しかも、馬を貸してくれた本人が目の前にいる。
 とてもとても使いづらい。

「……もう少し、このままで行こうと思うんだけど」

 僕はじっと見てくるルールーから逃れるように右斜め上の方に視線を逸らす。

「それじゃあ、ぜってぇ間に合わねぇけど?」

 そんなことは分かってる。でも……馬だって可哀想だし……。
 そう思っていると、ルールーに顔を両手で掴まれ、視線を無理矢理合わせれた。

「何を躊躇ってるか分かんねぇけど、できることがあるなら何でもやるべきだ!」

 体が震えた。大きな声で喝を入れられて、真剣なその表情を見て、ルールーも本気で村の人たちを心配していることが分かった。
 なんか、少し感動した……。

「……本当になんでも?」
「ん? ああ」
「分かった」

 僕も覚悟を決める。
 馬が可哀想だなんて思わない。ルールーに遠慮なんかもしない。
 馬の隣に行き、そこに座る。そして、ルールーを呼ぶ。

「じゃあ、馬、抑えてて」

 僕は深呼吸をして、馬の脚を軽く触ると詠唱を唱えた。

身体強化フィジカルバースト

 脚が淡く光ると、馬は驚いたようで暴れる。ルールーは上手くそれをなだめてくれた。

 そして、僕達はもう一頭の馬にも魔術をかけた。

 次に僕はルールーに頭を下げた。

「ごめんなさい」
「何が?」
「身体強化の魔術は魔力を込めれば込めるほど強くなるけど、その分身体への負担も大きいんだ。今、込めた魔力量だと馬の脚はたぶん壊れる」

 ルールーはそれを聞いて目を見開いた。

「……まじか」

 僕は何も言わず縦に首を振った。

「なるほどな。だからさっきためらってたわけか……。まあ、いいんじゃねぇの? 村の人助に行く為ならこいつらも分かってくれるさ」

 ルールーは二頭の馬をそれぞれ優しく撫でた。

「いいの!?」
「なんで驚いてんだよ。ハッパかけたのは俺だから責任くらいは取るっての」

 あっさりと了承されてしまって拍子抜けしまった。最悪、抵抗されることも考えて、説明する前に魔術をかけたんだけど意味なかったな。

「あぁー、でもグレイに怒られんのかー」
「その時は僕も謝りに行く」
「いいよ。ファイアさんはそういうの謝らないキャラにしてんだろ?」
「そうだけど……」

 一応頑張ってるんだけど、あれをキャラで済ませられるとは……なんか悔しい。

 馬の水分補給も終わったところで、ルールが口を開く。

「よし! じゃあ、行くか!」

 僕たち二人はまた村に向けて出立することになった。
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