猫獣人を守る為なら僕は、悪役になったって構わない

人生1919回血迷った人

文字の大きさ
上 下
17 / 26

第十七話

しおりを挟む
「何を知ってる?」

 僕は再度、ルールーににじり寄る。

「ちょっ、だから、近い近い近い。俺、ファイアさんにそういう気、起こすつもり一切ないからやめてぇ!」
「は?」
「……話すからちょっと落ち着けって」

 肩を押されて、後ろに下がる。距離を開けられてしまった。
 流石は冒険者ランクAの剣士か。力が強い。

「昨日ファイアさんと飲んだ帰りに見たんだ。ファイアさんのど……」
「ラックとナリヤを?」

 ルールーはじっと僕の顔を見たあと、こくりと頷く。
 ここまで知られてしまったらもう、ルールーの前で取り繕っても仕方がない。

「それと、昨日怪我してたって話のおっさん……ホンドンって名前だっけ? そいつもいた」
「ホンドンさんが……?」
「ああ、てか、やっぱり知り合いか?」

 僕は頷いた。

 ラックとナリヤがホンドンさんと一緒にいた?
 なんで?

「ってことは、昨日のあのちっこいガキ、リフだっけか? 本当は他の奴に絡まれないようにしてたとか?」
「……ん? うーん」

 二人は外に出る為にホンドンさんの力を借りた?
 いや、でも何のために?

「ファイアさん、俺の話聞いてねぇな……」



「ルールー」
「はいはい、なんでしょうか?」

 あれ? なんか不機嫌?
 まあ、いいや。

「ラックとナリヤは街の外に向かってたの?」
「ああ、そうだな。ホンドンも含めて三人だったけど。荷馬車に何かを沢山積んでたみたいだったな。布が被せてあって中身は見えなかった」
「ホンドンさんも、一緒に……?」
「三人組でコソコソしながら門に向かってる怪しい奴らがいるなーって感じだったな。猫だからしょうがないけど、ローブ被ってて顔見にくかったし」

 ホンドンさんと荷馬車に荷物を積んで外に向かった。どこに?

 猫獣人村?

 その三人で何らかの目的を持ってどこかに向かうとしたら猫獣人村しかないんじゃないか?

 目的は分からない。

 でも、嫌な予感がする。
 なんで三人は僕に何も言わずに行動した?
 なんでこんな急に?
 何を届けに向かったんだ?

「まだ、盗賊も捕まえられていないのに」

 とにかくルールーの言っていることが本当か、確認しに行かないと。
 行き先を門からホンドンさんの家に変更し、向かうことにする。

 しかし、その前に僕のポツリとこぼした言葉にルールーが反応した。

「ファイアさん、盗賊のこと知ってんだな。なんで知ってんの?」
「……邪魔なんだけど」

 さっきは近い近い言ってきたくせに今度はルールーの方から距離を詰めてくる。
 ルールーを押しのけようとするが、その手は捕まえられた。

「誰に聞いた?」
「そんなの誰でもいいでしょ」
「いや、そうなんだけど。あまりにもファイアさんが噂と違うからもしかしてホンドンの怪我を治したのもファイアさんなのかって思ったんだよ」

 なにか詮索されてるなとは感じていたけど、そんなことだったのか。警戒して損した。
 でも、なんでそんなことを知りたがるんだ?
 ルールーがこっちを敵視していないことは分かった。

 しかし、彼は何を考えているかあまり読めない。
 さっきも僕が理解できないこと話していたし。

 それに加えて僕の過去を知っているような……そんなたまに出てくる言葉が怖い。
 とにかく長々と会話しすぎだが、あまりに近づきたくはない相手だ。

「それが何?」
「いやー、グレイの奴やらかしてんなーって思って。まあ、俺も気づくのに二週間もかかってるわけだから人のこと言えねぇけど」
「グレイ? 気づく?」
「そう、グレイ。昨日ファイアさんのことボコってた奴」
「……グレイが僕に気づくわけないじゃん」

 あっ……。

 ついつい、声に出してしまった。まあ、でもルールーが僕とグレイの接点を知ってるわけもないし、まあいいか。

 しかし、ルールーは急に黙った。
 なにごとかと思い、顔を見上げれば大きく目を見開いていた。

「……えっ、グレイのこと、覚えてんの?」
「…………」

 僕は目を逸らした。
 なんでこの獣人は僕のことをこんなに知ってるんだ!

「マジかよッ! ファイアさんはグレイに気づいてるのに、グレイはファイアさんに気づいてないとか。グレイ酷すぎるッ!!!」

 そう言って、ルールーは「グレイヤバッ」とゲラゲラ笑いだした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

処理中です...