猫獣人を守る為なら僕は、悪役になったって構わない

人生1919回血迷った人

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第十六話

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 朝起きて、家中を探し回った。

「どこにもいない……」

 それどころか、いつも遠出する時に使う二人の装備一式もなくなっていた。

 どこにいったんだ?

 僕はいてもたってもいられず、家を飛び出した。

 早朝。まだ人通りはほとんどない。
 とにかく街中を走り回る。

 まだ、街にいて欲しい! お願い!

 店はまだ開店しておらず、辺境伯領一の街とはいえ、辺境の街だ。それほど時間はかからず、この街に二人がいないことは分かってしまった。
 まだ、宿や知り合いの家にいるといった線も残ってはいるが、可能性は低いだろう。
 というか、元々この街にいる可能性はほとんどなかった。
 ただ、街の外にいるならもう探しようはない。だから、まだ街中にいる可能性をおった。

 でも、街中に居ないからといって諦めるつもりはない。

 僕は、外に向かうことにした。

 街の門へ、最短距離の道を使う。あともう少しで門に辿り着く。そんな時に後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

「ファイアさん! 耳!」

 立ち止まり、振り返れば、昨日居酒屋で一緒になったルールーだった。

「耳?」
「耳、猫耳のままになってる」

 僕は咄嗟に耳を手で隠した。
 それを見て、ルールーは笑った。

「誰かに話したりしねぇって。とにかく隠しな」
「……分かった」
「朝早いとはいえ何人かには見られてるよなー。噂にならないといいけど」

 なんでルールーが僕の心配をしてるんだ? 驚きもしないし。

 ルールーって一体何者なんだ。

〈虚像改変〉

 とにかくまずは、幻影魔術を使って猫耳を狼耳に変える。

「うお~、幻術? すげぇ~、しかも感触も本物ッ」
「ひゃあっ! ……んっ……やめっ……なん、で触って……」

 物珍しさからか、ルールーは耳を触ってきた。大半の獣人にとって耳は音を拾う繊細な感覚器、つまり敏感な部分だ。
 それにラックによれば、僕は耳を片方しか持っていないからか、人よりも感覚が敏感になっているらしい。
 触られれば、身体から力が抜けてしまう。

「あっ、ごめん、つい好奇心……が……」

 地面に座り込んだ僕を見たルールーが顔を真っ赤にした。
 ん? おかしくないか? 恥ずかしいのは僕の方なんだけど?
 いや、ルールーがおかしいのは最初からか。僕の耳を見ても驚かないし。

「とにかく、僕急いでるから」

 と言って立ち上がり、ルールーに近づく。

「いやっ、近いっ近いっ」

 なるべく睨みつけるように視線を鋭くし、ルールーを壁に押しやる。そして、彼の脇横を通って壁に手をつける。

 身長は僕の方が小さいので、見上げる形になってしまっているが、イメージは「ほら、そこで跳んでみろよっ」とカモに脅しをかけるチンピラ冒険者だ。

「僕の耳のこと話したら、分かるよね?」

 ルールーはこくこくと無言で頷いた。よかった。成功したみたいだ。

 ルールーは開放された後、ふーっと息を吐き出し、顔を手で覆っていた。

 何やってるんだろ?
 怖かったのかな?
 少し申し訳ないけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

「耳のこと、教えてくれてありがとう! じゃあ僕行くから」

 ルールーのことも、僕の耳がどのくらいの獣人に見られたのか、ということも気になるけど全部後回しだ。

「ちょっと待って」

 走り出そうとすると、服を掴まれた。

「俺の話が終わってない」
「今、ルールーの話聞いてる時間ないんだけど?」
「ファイアさん、今、自分の奴隷探してんじゃねぇの?」

 どうやら彼は、ラックとナリヤについて何か知っているようだ。
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