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第十二話

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 僕が目を開けた時、リフ君の後ろで剣が光るのが見えた。

「危ないッ!」

 急に目の前にリフ君が出てきて、アルバリオンは刺突しようとした剣の軌道を逸らそうとしている。
 しかし、上手くはいかなさそうだ。

 僕の身体は咄嗟に反応した。
 リフ君を捕まえ、守るように抱き寄せる。

「イッッッ!」

 剣は僕の肩に直撃した。
 剣の刃はアルバリオンの言った通り潰されているが、そんなことは関係ない。
 案の定、傷がえぐれる。

 抱き寄せたリフ君を離し、怪我はないか確認する。

 大丈夫だ……よかった。

 ほっと息をついたところで、僕は気づいた。

「あ……」

 やってしまった、と。
 周りを見れば唖然としている。
 目の前の出来事を信じられないと言うような、そんな顔だ。

 いや、でもこれは仕方ない。
 下手したらリフ君が大怪我をするところだった。

 それでもこれは、あまりいい状況では無いことには変わりなかった。




 と、とにかく何か言わないとッ!

「ぼ、僕の頬を叩くなんて、生意気な子供だね! ちゃんと躾けてよね!」

 僕はホンドンさんの方を向いて話す。
 すると、ホンドンさんはーー

「息子を助けてくれて、本当にありがとう」

 と、頭を下げてしまった。

「いや、あっ……えっと……」
「ファイアさん。ありがとうございます」

 今度はアルバリオンが僕に近づき、頭を下げ始めた。

「はっ?」
「あなたが庇って下さらなかったら、こんな小さな子供に大怪我をさせるところでした。本当に……」
「アルバリオン。こんな奴に頭を下げるなんてお前は本当に真面目だね」
「シオン。手を退けてくれ」

 頭を下げるアルバリオンの肩に顔を上げるようにシオンが手を置いた。

「やだね。あたしらのリーダーがこんな奴に頭を下げるなんてあたしは嫌だ」
「シオン! いくら嫌いな相手だろうと助けられたのなら頭を下げるのが礼儀だ」
「あんた今までこいつが何してきたのか覚えてないの? それに比べれば子供一人助けたことなんて些細なこと。そもそもこいつが猫獣人に手を出さなければこんなことにもならなかった!」
「シオン。それでも僕は感謝してるんだ。もし、この小さな子供に剣が当たっていて、大怪我して……最悪死ぬことだって有り得たかもしれない。そしたら俺は剣を手放していた」
「あんた……」
「守るべき住民をこの剣で殺したとなれば私はもう剣を握れない。だから、私は感謝してる。それだけだ」
「では、さっきの続きはもうしないってことか?」

 アルバリオンとシオンに突然、グレイが割り込んだ。

「それは……します。それとこれとは話が違うので。過ちは正さないといけない。しかし、今日はもう無理ですね」
「何故だ?」
「手が震えてしまって……。情けないですね。しかし、あの子を刺していたかもしれないと思うと」
「そうか、では続きは俺がやろう」

 グレイが僕の方に向かって一歩踏み出す。

 アハハ……結局そうなっちゃうか。
 そう思っているとーー

「ダメッ!」

 リフ君が今度はグレイの前に仁王立ちをした。

「僕はやり返したもん! 罰はそれでいいでしょ!」
「おじっ……」
「いじめはダメだよっ!」

 グレイはリフ君に止められて困っているようだ。

「アッハハハハッ」
「ルールー!」

 唐突にグレイの仲間、ルールーが笑い出す。

「ハーーーッ、おっかしー。おじさんだっておじさんー」
「うるせぇ。俺はまだ27だ」
「この歳の子供からすると十分おじさんでしょー」
「クッソ……邪魔すんな」

 ルールーやリフ君に構わず、再度グレイは歩き出そうとした。

「待って」

 そんなグレイをルールーは、腕を掴んで引き止めた。

「あの子に手を出すのは辞めた方がいいと思う」
「は? なんだよ、今更」
「とにかく、辞めておいた方がいいと思う。なんとなくだけど、、、」
「はぁ、意味わからん」
「なんかダメなんだって。たぶん俺も、お前も後悔する気がする。だから、やめろ」
「……分かった」

 そう言うと二人はホンドンさんたちを連れて行ってしまった。

 僕はその後ろ姿に思わず手を差し伸べてしまった。手は空を切る。

 ああ、なんでだろう?
 あの二人が仲良く話している姿を見ると、胸が痛くなる。

 いや、分かりきってることかもしれない。
 きっとこれは初恋のせいだ。

 とっくの昔に終わったあの、甘い初恋の……残骸。
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