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第十一話

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「ハァッ、ハァッ! 大通り! 大通りにさえ出れば、獣人が多くて見失いやすいだろうし、剣も振り回せないはずッ」

 突き当たりを左に向かう。
 後ろから聞こえてくる足音はひとつになっているが、段々と大きくなってる。

 速く! 速く!

 今度こそ捕まったら何されるか分かったものじゃない。

「あと少しッ!」

 その時、足がピキリと痛む。

「あッッッ!」

 ちょうど大通りに差し掛かるところで右足に力が入らなくなってしまった。そのせいで身体のバランスを崩す。

 ヤバいッ! コケるッ!

 目の前には人影が。

「危ないッ!」

 ドンッ。

「ん?」
「すみません」
「ッて、お前か! いいからどけ! お前に触られると虫唾が走る」

 なんでそんなことを言われないといないんだと思ったら、目の前にいた人物はグレイだった。隣にはホンドンさんやリフ君たちがいる。

 あっ、終わった。

 いや、まだだ。今すぐに立ち去れば……。

「捕まえました」

 再度走り出そうとした時、肩を掴まれる。

「うっぐ……」

 ああ、今度こそ終わった。

 途端に身体から一気に力が抜けた。気力で誤魔化していた体力も既に底を突いている。
 気力も体力も使い果たした僕は、自分の意思に反してその場にへたり込んでしまった。

「あ……れ……?」
「ファイアさん?」

 アルバリオンは困惑する。しかし、次の瞬間には僕を警戒するように剣を構えていた。

「アルバリオン、これはどういう状況だ?」
「グレイさん。ファイアさんがまた猫獣人の方をモノ扱いし、お金でどうにかしようとしていました。これは許されないことです」
「なるほど?」
「なので、今度こそそんなことをしようだなんて思えないように罰します」
「そうか……アルバリオン、お前にできるのか?」
「はい、やります」
「そうか」

 グレイはこちらにちらりと視線を向ける。

「……いいざまだな」

 それだけ言うとアルバリオンの方に視線を戻す。

「今日は子供までも被害にあった。しっかり締めておけ」

 グレイはそれだけ言うとホンドンさん達を連れて去っていこうとする。

「グレイさん! 待ってくれ!」
「ホンドンさん? なんですか?」
「こんなボロボロの奴にまだ暴力を振るう気か?」
「もちろん」
「……流石に可哀想じゃないか?」
「あなたの息子さんに怪我をさせたのはこの人ですよ? それでもそう思いますか?」
「それはっ、むぐっ……」
「あなた!」

 カッとなって言い返そうとしたホンドンさんの口をザレアさんが塞いだ。
 それをグレイやアルバリオンが不思議そうに見ている。

 その時。

「ファイアさん!」

 サリーさんが走ってやってきた。そして、僕の前に膝をつく。後ろにはシオンがいるが呆れた表情で腰に手を当て突っ立っている。
 サリーさんを止められなかったんだな。

「大丈夫ですか!」

 大丈夫ではない。
 今の僕には指一本動かす気力さえない。
 それでも、ボソリとサリーさんにだけ聞こえるように呟く

「……もう、いいんです。……僕の近くは、危ない、ので……おいていって、ください……」

 痛い目にあうのは僕だけでいい。こんな必死に僕なんかのことを助けようとしてくれる人は巻き込めない。

「行ってください」
「……ファイアさん。あっ!  誰!? やめてっ! 引っ張らないでっ!」
「危ないから下がってください」

 グレイがサリーさんの腕を引っ張っていく。
 それをしばらく見ていたアルバリオンが口を開く。

「ファイアさん。お腹と足の傷、治ってますね。なんでさっき治さなかったんですか?」
「…………」
「だんまりですか。……シオンが言うように私、舐められていたんですかね? 私は、甘いってよく言われます。だからあなたは同じ過ちを繰り返すんですか?」

 ちらりと見れば、苦虫を噛み潰したような、そんな顔だった。
 僕は何も答えない。
 何も話せることがないからだ。

 いくら痛めつけられようと、自分のスタンスを変えるつもりはない。

 アルバリオンは一つ大きく息を吐く。

「覚悟してください。今日は容赦しません。ファイアさんが反省したと判断するまで辞める気はありませんので」

 まるで公開処刑だ。こんな獣人の往来が多い場所で好き勝手痛めつけられるなんて、悪役の僕にはピッタリだな。

「何を笑ってるんですか?」

 どうやら笑みがこぼれていたらしい。気づかなかった。

「いや? ただ、僕にお似合いだなと思って」
「はい? 何を言っているんですか? ふざけたこと言わないでください」
「そんなつもりはないんだけど」
「黙ってください」

 アルバリオンはそう言うと覚悟を決めるように細く息を吐き、剣で刺突してこようとする。
 僕はギュッと目を閉じる。

 死ぬわけじゃない。少し痛いだけだ。ほんの少しの間だけ耐えれば終わるんだから。

 ああ、やだな。

 本当は痛いことなんて大嫌いなんだ……。

 そう思っていると予想外のところに衝撃が来た。

 パチンッ

 ほっぺたを叩かれた……?
 全然痛くないんだけど?


「これでおあいこ」

 僕は意味がわからず目を開けた。

 すると目の前には少年、リフ君が居た。
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