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第十話

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「なんでこんなことをするんですか? この人はこんなに怪我をして……可哀想に。私のせいで……」
「そこの狼獣人、ファイアさんがあなたを助けたんですか?」
「ええ、そうですよ。あっ、サリーって呼んでください」

 サリーは隣に来ると僕が仰向けで寝転がれるように支えてくれた。
 そして、僕の手を握る。

「さっきはファイアさんのおかげで助かりました。本当にありがとうございました。落ち着いてきたら、お礼が言えなかったことが気になって戻ってきたんです」

 まずい。
 いや、サリーさんのおかげで助かったには助かったんだけど、別の意味でまずい。こんな誰が聞いてるかも分からない場所で、僕の評価をあげてしまう可能性のあることを言われるのは困る。
 もはやそう簡単に上がるものじゃないけどそれでも困る。

「あなたの為に戦ったわけじゃ……いや、感謝してるなら僕の奴隷になれ」

 なるべく胡散臭い笑みを浮かべる。痛みで顔が引き連れそうだけど。
 僕の言葉を聞いた途端、こちらの様子を窺っていたアルバリオンとシオンがサリーさんを僕から引き剥がした。

 まあ、これを言えば上がりそうになる僕の評価も底をつくだろう。便利な言葉だ。胸糞悪いけど。

 アルバリオンには正攻法で街の治安を守るのが向いている。でも、クズ側に立ってみないと見えない部分もあるものだ。
 クズはクズになら案外ガードが緩いものだ。仲間、もしくは同じサイドの獣人だと思ってるから後ろめたいことも簡単に話してくれる。
 だから僕はクズでなければならない。

 街一番の悪役でい続けなくてはいけない。





 僕は今度こそ、逃げる。

 僕から引き剥がされたサリーさんは一瞬困惑していたが、抵抗していた。

「離して下さい! ファイアさん! 今のはどういうことですか? どうして奴隷が必要なんですかッ?」
「サリーさん! ファイアさんは危ない獣人なんです! 近づいてはいけません!」
「ああもうっ! ややこしくなってきたわね! あんたがさっさとやらないからッ」

 アルバリオンとシオンはサリーさんを止めようと僕から視線を外した。

 ここだ。今逃げるしかないッ!

 お腹に力を入れて起き上がる。かなり血が流れてしまっていて、傷の具合からさすがにこのまま走るのは無理そうだ。

回復ヒール

 腹部と足の怪我だけは治して立ち上がる。
 身体全体に張り巡らしていた身体強化を足に集中させ、足を走らせた。

「ああ! あいつ逃げやがったッ!」
「待ちなさいッ」

 逃げるなら幻術でも使って目くらましをしたかったけど、もう本当に魔力がない。

 明日の結界の張り替えも諦めるしかない。
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