10 / 26
第十話
しおりを挟む
「なんでこんなことをするんですか? この人はこんなに怪我をして……可哀想に。私のせいで……」
「そこの狼獣人、ファイアさんがあなたを助けたんですか?」
「ええ、そうですよ。あっ、サリーって呼んでください」
サリーは隣に来ると僕が仰向けで寝転がれるように支えてくれた。
そして、僕の手を握る。
「さっきはファイアさんのおかげで助かりました。本当にありがとうございました。落ち着いてきたら、お礼が言えなかったことが気になって戻ってきたんです」
まずい。
いや、サリーさんのおかげで助かったには助かったんだけど、別の意味でまずい。こんな誰が聞いてるかも分からない場所で、僕の評価をあげてしまう可能性のあることを言われるのは困る。
もはやそう簡単に上がるものじゃないけどそれでも困る。
「あなたの為に戦ったわけじゃ……いや、感謝してるなら僕の奴隷になれ」
なるべく胡散臭い笑みを浮かべる。痛みで顔が引き連れそうだけど。
僕の言葉を聞いた途端、こちらの様子を窺っていたアルバリオンとシオンがサリーさんを僕から引き剥がした。
まあ、これを言えば上がりそうになる僕の評価も底をつくだろう。便利な言葉だ。胸糞悪いけど。
アルバリオンには正攻法で街の治安を守るのが向いている。でも、クズ側に立ってみないと見えない部分もあるものだ。
クズはクズになら案外ガードが緩いものだ。仲間、もしくは同じサイドの獣人だと思ってるから後ろめたいことも簡単に話してくれる。
だから僕はクズでなければならない。
街一番の悪役でい続けなくてはいけない。
僕は今度こそ、逃げる。
僕から引き剥がされたサリーさんは一瞬困惑していたが、抵抗していた。
「離して下さい! ファイアさん! 今のはどういうことですか? どうして奴隷が必要なんですかッ?」
「サリーさん! ファイアさんは危ない獣人なんです! 近づいてはいけません!」
「ああもうっ! ややこしくなってきたわね! あんたがさっさとやらないからッ」
アルバリオンとシオンはサリーさんを止めようと僕から視線を外した。
ここだ。今逃げるしかないッ!
お腹に力を入れて起き上がる。かなり血が流れてしまっていて、傷の具合からさすがにこのまま走るのは無理そうだ。
《回復》
腹部と足の怪我だけは治して立ち上がる。
身体全体に張り巡らしていた身体強化を足に集中させ、足を走らせた。
「ああ! あいつ逃げやがったッ!」
「待ちなさいッ」
逃げるなら幻術でも使って目くらましをしたかったけど、もう本当に魔力がない。
明日の結界の張り替えも諦めるしかない。
「そこの狼獣人、ファイアさんがあなたを助けたんですか?」
「ええ、そうですよ。あっ、サリーって呼んでください」
サリーは隣に来ると僕が仰向けで寝転がれるように支えてくれた。
そして、僕の手を握る。
「さっきはファイアさんのおかげで助かりました。本当にありがとうございました。落ち着いてきたら、お礼が言えなかったことが気になって戻ってきたんです」
まずい。
いや、サリーさんのおかげで助かったには助かったんだけど、別の意味でまずい。こんな誰が聞いてるかも分からない場所で、僕の評価をあげてしまう可能性のあることを言われるのは困る。
もはやそう簡単に上がるものじゃないけどそれでも困る。
「あなたの為に戦ったわけじゃ……いや、感謝してるなら僕の奴隷になれ」
なるべく胡散臭い笑みを浮かべる。痛みで顔が引き連れそうだけど。
僕の言葉を聞いた途端、こちらの様子を窺っていたアルバリオンとシオンがサリーさんを僕から引き剥がした。
まあ、これを言えば上がりそうになる僕の評価も底をつくだろう。便利な言葉だ。胸糞悪いけど。
アルバリオンには正攻法で街の治安を守るのが向いている。でも、クズ側に立ってみないと見えない部分もあるものだ。
クズはクズになら案外ガードが緩いものだ。仲間、もしくは同じサイドの獣人だと思ってるから後ろめたいことも簡単に話してくれる。
だから僕はクズでなければならない。
街一番の悪役でい続けなくてはいけない。
僕は今度こそ、逃げる。
僕から引き剥がされたサリーさんは一瞬困惑していたが、抵抗していた。
「離して下さい! ファイアさん! 今のはどういうことですか? どうして奴隷が必要なんですかッ?」
「サリーさん! ファイアさんは危ない獣人なんです! 近づいてはいけません!」
「ああもうっ! ややこしくなってきたわね! あんたがさっさとやらないからッ」
アルバリオンとシオンはサリーさんを止めようと僕から視線を外した。
ここだ。今逃げるしかないッ!
お腹に力を入れて起き上がる。かなり血が流れてしまっていて、傷の具合からさすがにこのまま走るのは無理そうだ。
《回復》
腹部と足の怪我だけは治して立ち上がる。
身体全体に張り巡らしていた身体強化を足に集中させ、足を走らせた。
「ああ! あいつ逃げやがったッ!」
「待ちなさいッ」
逃げるなら幻術でも使って目くらましをしたかったけど、もう本当に魔力がない。
明日の結界の張り替えも諦めるしかない。
26
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。


獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる