2 / 12
春〜夏
春〜夏(2)
しおりを挟む
中学を卒業し、ただ家でダラダラと過ごしていた孝知。その日も跳ね上がる寝癖もそのままにジャージを羽織って朝食を済ませた。食器も放置してソファに横になって欠伸をしながら雑誌をめくり、ただただ時間を過ごしていた。
「孝知ーっ、居るんでしょ? ちょっと荷物持つの手伝って」
玄関で叫ぶ母に、やる気なく返事を返し、だらだらと廊下を移動する。
外に出ようともせず、玄関マットの上で荷物を運ぶ母を待っていた。
しかし、大きなバッグを抱え、開け放しの戸口から入ってきたのは母ではなかった。
「久しぶり、元気してた? ……もしかして、寝てるの起こしちゃった?」
入学式で再会すると思っていた人物が、昔と変わらないやわらかい笑顔で立っていた。孝知の顔は一瞬表情をなくし、みるみる赤くなった。
「なっ! ……なんでっ」
扉の後ろから、楽しそうに笑う母、知恵の顔がのぞいた。
「ほら、利香子んとこの一香ちゃんよ。この前話したでしょ、覚えてるわよね?」
孝知には何が起こっているのか理解できず、立ち尽くした。
確かに、同じ学校に行くという話は聞いた。しかし何故、今、我が家に一香が来ているのだろう。母に押し付けられた荷物を応接室に運びながら、頭をフルに回転させてみたが、理解できない。
荷物を運び終えた孝知は、紅茶を入れる母につめよった。
「……つぅか、説明しろ」
「だ、か、ら、高校が一緒なのよ。利香子たちは来年こっちに戻る予定らしいのね。で、一香ちゃんを丸一年も一人暮らしさせるの不安がってたから……」
利香子とは、一香達の母親の事だ。
孝知は、運び終えた荷物に一度、目をやる。
「それで……家で預かるって言ったのか?」
「そうよ、名案でしょ? ねぇ一香ちゃん」
孝知越しに応接間に座る一香に笑いかける知恵。
「知恵さん、本当になにも説明してないんですか?」
少し焦った声が返る。ティーポットとカップをのせたトレイを持って知恵は孝知の横をすり抜け、一香の向かいへ腰かけた。
「そうよぉ、だって驚かすつもりだったんだから、言ったら面白くないじゃない。だらけた子には、パンチある一日も必要よ。さっきの顔といったら……」
ころころと笑い出す知恵に呆れて、孝知はため息がでる。
「別にいいじゃない、久しぶりだけど、あんな仲良しだったんだもの、緊張なんて一瞬。すぐ元通りよっ」
――そういう問題じゃないだろっ!!
孝知は母の側に座り、目で訴えてみたが、気づくはずもない。
「一香ちゃんは、昔と変わらずホント可愛いわ。とりかえっこして、うちの息子にしちゃおうかしら?」
カップに紅茶を注ぎながら言った知恵の言葉を、一香は笑ったが孝知には引っかかった。
「失礼じゃね?」
「なによ、体ばっかり大きくなって可愛げがない息子君」
孝知は、“息子”という言葉に対して言ったが、どうも違う反応が返る。
「……いや、俺じゃねぇよ。……イチに、失礼じゃね?」
「やっぱり……ちゃん付けは勘弁してください、知恵さん」
一香は困ったように笑う。
「そう? 失礼なの? ……そうよね、一香ちゃんがどんなに可愛くても男の子だものねぇ」
「そうですよ」
孝知は話が飲み込めないでいた。
「ちょい待った……今、……今、何て?」
焦り青ざめた孝知に、二人はあっと顔を見合わせた。
孝知の予想通り、再会した一香は可愛らしいままだった。
「孝知に話してなかったかしら? 一香ちゃんのお姉ちゃん、一葉ちゃんのこと覚えてる? ほら利香子大雑把でしょ? 一葉ちゃんのお古を全部ね、一香ちゃんに着せてたのよぉ。私も最初は二人とも女の子だと思ってたんだけどねぇ……」
明るく話す母と違い、孝知は打ちのめされた気分だった。
――……男……
本人を目の前にし、その姿を見てもまだ、受け入れることのできない現実だった。
「でも、ほらよかったじゃない。男同士でいろいろ話せて楽しいじゃない? 私も忙しくて家にほとんど居ないんだし」
――ありえない……
整理のできない頭を孝知は抱えてしまう。
「あらもうこんな時間!」
紅茶を飲み干し、知恵は慌てて仕事へ向かう。
「いってらっしゃい、知恵さん。気をつけて」
取り残された孝知の脳みそは、何度も同じ言葉を繰り返していた。視線は、母を見送る一香に釘付けにされた。
――……男同士……
「孝知ーっ、居るんでしょ? ちょっと荷物持つの手伝って」
玄関で叫ぶ母に、やる気なく返事を返し、だらだらと廊下を移動する。
外に出ようともせず、玄関マットの上で荷物を運ぶ母を待っていた。
しかし、大きなバッグを抱え、開け放しの戸口から入ってきたのは母ではなかった。
「久しぶり、元気してた? ……もしかして、寝てるの起こしちゃった?」
入学式で再会すると思っていた人物が、昔と変わらないやわらかい笑顔で立っていた。孝知の顔は一瞬表情をなくし、みるみる赤くなった。
「なっ! ……なんでっ」
扉の後ろから、楽しそうに笑う母、知恵の顔がのぞいた。
「ほら、利香子んとこの一香ちゃんよ。この前話したでしょ、覚えてるわよね?」
孝知には何が起こっているのか理解できず、立ち尽くした。
確かに、同じ学校に行くという話は聞いた。しかし何故、今、我が家に一香が来ているのだろう。母に押し付けられた荷物を応接室に運びながら、頭をフルに回転させてみたが、理解できない。
荷物を運び終えた孝知は、紅茶を入れる母につめよった。
「……つぅか、説明しろ」
「だ、か、ら、高校が一緒なのよ。利香子たちは来年こっちに戻る予定らしいのね。で、一香ちゃんを丸一年も一人暮らしさせるの不安がってたから……」
利香子とは、一香達の母親の事だ。
孝知は、運び終えた荷物に一度、目をやる。
「それで……家で預かるって言ったのか?」
「そうよ、名案でしょ? ねぇ一香ちゃん」
孝知越しに応接間に座る一香に笑いかける知恵。
「知恵さん、本当になにも説明してないんですか?」
少し焦った声が返る。ティーポットとカップをのせたトレイを持って知恵は孝知の横をすり抜け、一香の向かいへ腰かけた。
「そうよぉ、だって驚かすつもりだったんだから、言ったら面白くないじゃない。だらけた子には、パンチある一日も必要よ。さっきの顔といったら……」
ころころと笑い出す知恵に呆れて、孝知はため息がでる。
「別にいいじゃない、久しぶりだけど、あんな仲良しだったんだもの、緊張なんて一瞬。すぐ元通りよっ」
――そういう問題じゃないだろっ!!
孝知は母の側に座り、目で訴えてみたが、気づくはずもない。
「一香ちゃんは、昔と変わらずホント可愛いわ。とりかえっこして、うちの息子にしちゃおうかしら?」
カップに紅茶を注ぎながら言った知恵の言葉を、一香は笑ったが孝知には引っかかった。
「失礼じゃね?」
「なによ、体ばっかり大きくなって可愛げがない息子君」
孝知は、“息子”という言葉に対して言ったが、どうも違う反応が返る。
「……いや、俺じゃねぇよ。……イチに、失礼じゃね?」
「やっぱり……ちゃん付けは勘弁してください、知恵さん」
一香は困ったように笑う。
「そう? 失礼なの? ……そうよね、一香ちゃんがどんなに可愛くても男の子だものねぇ」
「そうですよ」
孝知は話が飲み込めないでいた。
「ちょい待った……今、……今、何て?」
焦り青ざめた孝知に、二人はあっと顔を見合わせた。
孝知の予想通り、再会した一香は可愛らしいままだった。
「孝知に話してなかったかしら? 一香ちゃんのお姉ちゃん、一葉ちゃんのこと覚えてる? ほら利香子大雑把でしょ? 一葉ちゃんのお古を全部ね、一香ちゃんに着せてたのよぉ。私も最初は二人とも女の子だと思ってたんだけどねぇ……」
明るく話す母と違い、孝知は打ちのめされた気分だった。
――……男……
本人を目の前にし、その姿を見てもまだ、受け入れることのできない現実だった。
「でも、ほらよかったじゃない。男同士でいろいろ話せて楽しいじゃない? 私も忙しくて家にほとんど居ないんだし」
――ありえない……
整理のできない頭を孝知は抱えてしまう。
「あらもうこんな時間!」
紅茶を飲み干し、知恵は慌てて仕事へ向かう。
「いってらっしゃい、知恵さん。気をつけて」
取り残された孝知の脳みそは、何度も同じ言葉を繰り返していた。視線は、母を見送る一香に釘付けにされた。
――……男同士……
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる