きみがすき

春〜夏

春〜夏(1)

　セミの声があたり一面に響いている。まだ午前中だというのに光と影の強烈なコントラストが眩しく、孝知たかともはレースのカーテンを閉めた。
「……ダメだ、わかんない」
　テーブルにつっぷして一香いちかは弱々しい声を出す。
――またかよ……
　孝知は一香の向かいに腰を下ろし、ノートを引き抜いた。
「お前、これ最近習ったとこだろが……」
「夏休ミニ入ッタノデ、忘レマシタ」
　機械的に言葉を発する一香の頭をノートで軽く叩く。頭を上げて笑う一香に、孝知は丁寧に説明していく。


　一香は孝知と同い年の幼馴染み。訳あって今年の三月から一年ほど、孝知の家に住むことになった。
　幼い頃、一香とその姉、一葉ひとはとよく遊んだ。五つも上の一葉は、二人を従え、野原や公園などへ連れて行ってくれた。元気でアクティブな一葉と違い、おとなしく小さな一香は、同い年の孝知が見ても手を引かねばならないと思うほど頼りない存在だった。
　時々、一葉に置いて行かれては泣く一香を、放ってはおけなかった。

　幼稚園入学がせまったある日、一香達家族が引っ越すことになり、遠く離れた。

　時々、葉書が来たりと、母親同士はずっと交流があった。そのため、高校入学の今年、一香が孝知と同じ高校に受かったということは、孝知の耳にもすぐに入った。
　久しぶりに昔のアルバムなどを見たりして、四月の再会に心が騒いだ。
　幼き日の思い出は、優しくも綺麗な記憶で、アルバムに残された写真からもそのイメージは変わらない。
　思えば初恋だったのだろうかと、幼き日の写真を見る。花柄や水玉のワンピースを着た二人に挟まれ、いつもくったくない笑顔の自分がそこにいた。
――成長しても、可愛さはそのままだろうか……