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アルヴィースと少女の正体

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side アルヴィース

 初めて出会ったのは、スリを捕らえた時だった。

 彼女の剣技は美しかった。その時になんだか運命のような気がした。

 妃にすると言って、大層困ったような顔をしていた。
 迷惑だとは思ったが、僕には王位を継げるとは思っていなかったから、使えるものは使ってやろうとも思った。
 折角余っている妃とスリーアラウンドの席だ。彼女が騎士になるために必要なものであれば、彼女のために使われた方がいい。もし彼女がそれを望まなくても、構わない。

 僕には第三王子の身でありながら、今の立場から特にやりたいことなどはなかった。
 父上は国王だが、母上は後妻。それも王城の中で最も立場が弱い。
 僕には第三王子という肩書きがありながら、間違いなく王位には継げないだろう。
 それゆえに、僕には常にやりたいことがなければ、損な役割ばかりが回ってきていた。
 魔物討伐とて、その一つだ。
 剣か魔法の才覚でもあれば話は違ってくるのだろうが……。

 市井を歩く時、お金を持って歩くようにしていた。
 いいや、とりあえず持っておいて、市井の調査に趣き、何かに必要になれば……と思いながら、結局は使わずにぶらぶら歩いていた。
 お陰で道楽王子と将軍には罵られているけれども、そのお金で人助けをすることくらいは出来るかもしれない。
 最も、目的なき携行は、むしろ、格好の標的となる原因となる。実際に、僕はスリに狙われることとなったのだが。

 僕はレイア・マルテルと出会ってから、何か新鮮味を感じていた。
 何かが変わる。そんな予感がしてたまらないのだ。
 だから、僕は彼女のために行動している。
 彼女のことを聞くため、王城へと出向き、ハール・グロス様の下へこっそりとお話しを伺っている。
 レイアは連れてきていない。

「……レイア・マルテルの母親だと?」
「はい。なぜ彼女がレイアにクラレントを授けたのか。その謎を知りたくて」
「殿下。恐れながら、オレにはなんのことだか分かりませぬ」

 ハールは、なぜ、そのような話題を振るのか、と疑問を口にしている。
 しかし、だ。
 分からないのであれば、なぜ腕を組んでギュッと眉を顰めるのだ。
 呆れるでもない。戯言だと、馬鹿にするでもない。
 僕の話を真剣に聞いている。

「当時、クラレントを保管していた国庫を守っていたのは父上のスリーアラウンドの一人だったとか」
「…………」
「そして、一時。その国庫を守っていたスリーアラウンドは、姿を消している」

 なぜ、王を守る立場の人間が、王から離れていたのか。
 そこには理由があったハズだ。
 しかし、ハール殿は無言を貫く。

「父上と非公式に謁見して参りました。そして、クラレントは父上の親友に渡されたそうです。そして、スリーアラウンドで信頼のおける騎士を一人、彼女の旦那にして、その身を守らせていたのだとか」

 そして、僕は結論を告げる。

「あなたはレイアの父上なのですね」

 否定の言葉は無かった。
 否定したところで、王に聞けば全てが明らかになるのだから。
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