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二部・戻る気はない
嫌でも聴こえる声
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「よお、お嬢様! 今日もポーションを買いに来たぜ」
気前の良い冒険者の男性が配達中のソフィーに話しかけてきた。
「こんにちは。今日もありがとうございます」
「お嬢ちゃん、セイリグの娘なんだって! いやぁ、貴族のお嬢様っつったら、蝶も花よと大切に育てられて、仕事とは無縁だって思ってたのに、意外だな」
「え、ええ。まあ」
ソフィーはもうセイリグの娘ではないと告げても良かったのだが、一々訂正するのも時間がかかる。
まだ、実害らしい実害はないのが幸いというべきか。
「じゃあな、頑張ってくれよ!」
「は、はい。ありがとうございました」
ソフィーは対策を考えながら工房へと戻る。
どうしたものかと思案に耽るが、貴族ではなくなったソフィーには何か出来るほどの特別な力はない。
「今、戻った……わ……?」
ドンっと机の上にナイフを突き刺すハンナ。
「お嬢様、敵対する奴、殺す。ミナゴロシ」
「はわわっ……! お、落ち着いてください、ハンナさんっ!」
「敵対者、ミナゴロシ!」
それはもう魔物すら泣いて逃げそうなくらい鬼の形相をしていた。
「あの……どうしたの、ハンナ?」
「客、セイリグ伯爵の発表、言っていた。アノ野郎、殺ス」
「は、ハンナ……その、言葉遣いが随分と個性的になっているのだけれども」
完全に言葉を覚えた獣のそれだ。
そんな騒動を知らずか、ロジェがタイミング悪くやってきた。
「ソフィー。例の件で話が――」
ギッと視線がロジェへと向く。
「ついでに、ナンパ男、殺ス」
「なんで俺、殺されるの!?」
ナイフをロジェに向けるハンナは、姿勢を正した。
やられたロジェの方は、尻餅をついてしまっているが。
「冗談はさておき」
「冗談だったの、今?」
「お嬢様。そろそろ隠しきれないでしょう。自分が嘘を吐いていたこと、ご存知でしょう?」
「え、ええ。お父様はハンナが言うように、わたしのことを気にかけていない」
彼女は大きく頭を下げる。
「お嬢様。先に謝ります。自分は理由がどうであれ、ウソを吐いておりました。申し訳ございませんでした」
「ハンナ……」
「そして、セイリグ伯爵。奴は殺す」
「……ハンナ!」
「冗談です」
さすがにその冗談は看過できない。
「しかし、困ったことになったのは事実です。これから、お嬢様の販売するポーションには、セイリグ伯爵家の名前がつきまとうことになる」
ハンナは奥歯を噛み締めている。
あの無表情なハンナが。
「こんなことであれば……伯爵をもっと脅し付けておけば良かった」
ソフィーは首を横に振る。
「ハンナ。大丈夫よ。わたしはわたしの工房を守ってみせるから」
気前の良い冒険者の男性が配達中のソフィーに話しかけてきた。
「こんにちは。今日もありがとうございます」
「お嬢ちゃん、セイリグの娘なんだって! いやぁ、貴族のお嬢様っつったら、蝶も花よと大切に育てられて、仕事とは無縁だって思ってたのに、意外だな」
「え、ええ。まあ」
ソフィーはもうセイリグの娘ではないと告げても良かったのだが、一々訂正するのも時間がかかる。
まだ、実害らしい実害はないのが幸いというべきか。
「じゃあな、頑張ってくれよ!」
「は、はい。ありがとうございました」
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どうしたものかと思案に耽るが、貴族ではなくなったソフィーには何か出来るほどの特別な力はない。
「今、戻った……わ……?」
ドンっと机の上にナイフを突き刺すハンナ。
「お嬢様、敵対する奴、殺す。ミナゴロシ」
「はわわっ……! お、落ち着いてください、ハンナさんっ!」
「敵対者、ミナゴロシ!」
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「あの……どうしたの、ハンナ?」
「客、セイリグ伯爵の発表、言っていた。アノ野郎、殺ス」
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ギッと視線がロジェへと向く。
「ついでに、ナンパ男、殺ス」
「なんで俺、殺されるの!?」
ナイフをロジェに向けるハンナは、姿勢を正した。
やられたロジェの方は、尻餅をついてしまっているが。
「冗談はさておき」
「冗談だったの、今?」
「お嬢様。そろそろ隠しきれないでしょう。自分が嘘を吐いていたこと、ご存知でしょう?」
「え、ええ。お父様はハンナが言うように、わたしのことを気にかけていない」
彼女は大きく頭を下げる。
「お嬢様。先に謝ります。自分は理由がどうであれ、ウソを吐いておりました。申し訳ございませんでした」
「ハンナ……」
「そして、セイリグ伯爵。奴は殺す」
「……ハンナ!」
「冗談です」
さすがにその冗談は看過できない。
「しかし、困ったことになったのは事実です。これから、お嬢様の販売するポーションには、セイリグ伯爵家の名前がつきまとうことになる」
ハンナは奥歯を噛み締めている。
あの無表情なハンナが。
「こんなことであれば……伯爵をもっと脅し付けておけば良かった」
ソフィーは首を横に振る。
「ハンナ。大丈夫よ。わたしはわたしの工房を守ってみせるから」
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