上 下
37 / 70
二部・工房の方針

行動の裏側に

しおりを挟む
「行ってきますっ!」

 シャロンは今日もポーションを運んでいる。
 彼女はいつも通り元気だ。
 しかし、ソフィーにはどうして気になってしまう。
 働く彼女の顔にチラつく、後ろめたい感情のような何かを。

 彼女が外に出た瞬間に、何か人影が落ちてきた!

「おはようございます、お嬢様」
「は、ハンナ!?」

 天井から飛び降りてきたのはハンナであった。

「なんで天井から降りてきたの……!」
「なんとなくです」

 なんとなくで人は天井に張り付いたりしない。

「それでハンナ。お父様はなんて言っていたの?」
「……伯爵はどうでも良いではありませんか。もう帰らないのでしょう?」
「そうだけど、おかしいと思って」
「気のせいです」
「気のせいって……王子も失脚したのに、何も言ってこないのはどうしても」
「気のせいです」
「わ、分かったから」

 有無を言わさぬ勢いに、ソフィーはたじろいだ。
 それよりも気になるのはそちらではない。

「ハンナ……少し話を聞いてくれる?」



「なるほど……少しおかしい、と」

 ソフィーは昨日の侵入の件やポーションを求めていたことまで含めて、シャロンの様子を伝えた。

「なぜ彼女は杖について聞いてきたのでしょうか?」
「……それが分からないの」
「手っ取り早く聞いてみるのがいいですね」

 ハンナはくるくるとペンを回しながら帳簿を書き始める。
 相変わらず、表情や行動から何も感じ取れないメイドだった。

「……それにしても遅いわね」
「お嬢様。シャロンはどちらに?」
「今日は駅馬車までポーションを運んで貰っているの。隣町のギルドにも少しポーションを売り始めたから」
「なるほど。ここから駅までそこまで時間はかからない……ですか」

 ハンナは無言で扉を開けた。

「ではお嬢様。迎えに行ってきます」
「ちょ、ちょっと遅れているだけかもしれないわ」
「そのちょっとが気になるのです」

 ハンナは無表情に、それでいて、足下にナイフの鞘を括り付けた。

「ならわたしもついて行くわ」
「ダメです」
「なぜ?」
「もしお嬢様に――危険が及べば?」
「わたしはシャロンの雇用主よ。彼女が危険な目に遭うのなら、わたしの責任よ」
「……平民になられて、強くなられましたね」

 ソフィーはハンナと一緒に駅に出向く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

転生したら伯爵令嬢~恋愛偏差値マイナスだけど優秀な部下(婿)を捕まえたい~

猫ヶ沢山
恋愛
40代で病気で人生を終えたら別の世界の伯爵令嬢に転生したリリアンヌ。 前世の記憶を待つも知識チートとか出来ないし、異世界の令嬢生活を普通に満喫。前世の感覚のせいで少し普通のご令嬢とは違うけれど、急にチートなスキルに気づいても平穏な生活の方が大事! 恋愛偏差値マイナスで今世も生まれてきたけれど、有能なお婿さんを捕まえられるように新しい人生も頑張ります! *R15は保険です* *お話の進み具合は亀の歩みです* *説明文が多いです。読み飛ばして頂いても、あまりストーリーには影響が無いと思います* *この作品は小説家になろうさんにも掲載してます* *人生で初めて小説を書きました*誤字脱字は確認していますが、読みにくい言い回し等ありましたら申し訳ありません*作者独自の世界観・設定です。頑張って考えましたが矛盾などは見逃してください*作風や文章が合わないと思われたら、そっと閉じて下さい*メンタルは絹ごし豆腐より弱いです*お手柔らかにお願いします*

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

心身共に醜いと婚約破棄されたので国の守護神と共に旅に出たら国が滅んだらしいです

草原
恋愛
私ことリアラ公爵令嬢は、美しいパーリー令嬢を虐げた心身共に醜い女だと、婚約者であるバイザー王太子に婚約破棄されてしまいました。しかも身分剥奪の上に国外追放を言い渡されて。 どうしたものかと悩みながらもとりあえず旅に出る事にした私ですが、国の守護神様も一緒に来て下さるとのことでとても心強いです。

処理中です...