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追放された令嬢

なにもなき令嬢

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 せめてもの慈悲で、一晩だけ。
 屋敷に泊めて貰うことは許された。
 しかし、家族の誰とも話すことは許されず、陽が昇る前に起こされて、父に追い出された。
 何も持つことは許されない。

「……手荷物もなし、お金もなし。伝もなし、ね」

 実のところ、一睡も出来ていない。
 疲労が身体の芯から伝わってくる。
 一歩、足を動かす度に、体力の限界を訴えるように悲鳴を挙げている。
 助けを求め、友人の令嬢の屋敷まで行った。

『あなたのような酷い女性(ひと)と話すことはないわ。友達だったことすら思い出したくないわ』

 けれども、追い返された。
 罵声が心にグサリと刺さり、今にも疲れ切った身体にトドメが刺されそうだった。

「案外、飢え死にするのは早そう……」

 なんなら、飢え死によりも先に心身の摩耗で死んでしまいそうだった。

「早急に仕事なんて……」

 そんなカンタンに仕事が手に入るものではない。
 まずは話をして、働かせて欲しいと面接をしてもらう。
 それでも即日採用、即日給料の手渡しというものは中々ない。

 冒険者ギルドというのも中々厄介だ。
 アレには実力が必要になってくるし、登録料や、仕事の仲介に対して、仲介料まで取られる。
 無一文の人間には依頼を受けることすら出来ないのだ。

「身売り……するしかないのかしら……」

 ふと、壁に貼られた広告に目が映る。
 娼館の仕事だ。
 目を覆いたくなるようなイラストが描かれており、端っこの方に積極採用、即日歓迎と文字が躍る。



「ああ。採用だ」
「え?」
「ウチはな。そういう曰く付きの商品……いや、嬢さんばかり雇ってきたんでな」

 ソフィーは結局、娼館に入り、仕事を貰えないかと頼み込んだところ、即座に採用と言い渡された。
 髪のテッペンが貧相な、目つきの悪そうな男である。
 社交界では見たこともない――なんならソフィーが一生話す機会がなかったであろう、嫌な感じの男だ。

「それで。もてなし以外に何ができる?」

 もてなし。
 その言葉を聞いて、ごくりと唾を飲み込むソフィー。
 男性相手に商売することの隠語か何かだろう。
 考えたくはない……が、生きるためにはもう道が残されていない。
 すっかり乾ききった口を動かす。

「錬金術を少々研究しておりました」
「錬金術、か。あれか、ポーション作る仕事」
「厳密には、元素に関わる研究です。ある物体に対して術者は元素の組み直しを行う人間のことを錬金術師と呼び古来から金の錬成を目指すため――」
「あー、そういうのはいい。それよりもだ。ポーションを作ってくれないか?」

 ソフィーは目を丸くした。
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