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第二話 オレンジの蝶 上
しおりを挟む「はい。これで授業を終わりにします。」ただ板書するだけの生物の授業が終わった。休み時間といっても、やる事も話す友人もいない私はいつも通り自分の席で寝ている振りをする。
「キャハハ。」「アハハハ。」「フフッ。」
「クスススス。」
私の席の周りには相変わらず休み時間を楽しむ人の笑い声が聞こえてくる。私を取り囲むように。このクラスでは私は常に台風の目、一人だ。
もう静かにして欲しい。私は眠い…いやもう疲れたんだ。私の期待を裏切り、クラスメイトたちは笑う笑う笑う嗤う笑う笑う笑う笑う笑う嗤う笑う笑う嗤う笑う笑う笑う笑う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う嗤う。
私を囲むすべての声が脳内に反響し、呼吸が激しくなる。
目が覚める。嗚呼、違う違う違う。こんなはずじゃないんだ。もう嫌だ。あの頃の私は死んだはずなのに何で夢に現れる。心臓の鼓動がうるさい。いつも通り棚から蝶の髪飾りを取り出し、握りしめて気持ちを落ち着かせる。
ようやく気分が落ち着いてきた。ため息をつきながら、過去の事を思い返す。
私は人とのコミュニケーションが苦手だ。本当は友達が欲しいし、一人でいるのは嫌だ。だけど、いざ話し掛けようとすると、途端に声が出なくなってしまう。その上、他人が近くで笑ったりひそひそ話をすると自分に向けられているのだと思ってしまう。本当は違うはずなのに、そう感じてならない。さっきの夢は中学1年の頃の夢だろう。他人に対する恐怖心が一番強かった頃の夢。別に虐待やいじめを受けていたわけではない。気づいたら「こう」なってしまった。
だがある日、救いが訪れた。祖父がくれたオレンジ色の蝶の髪飾り。本物の小さな蝶が琥珀に包まれたものを直接加工して作られているそうだ。それはただただ美しかった。理由はわからないが、その髪飾りを見ていると心が落ち着いた。
オレンジ色の蝶のスピリチュアルは出会いと人間関係の充実。そこに運命的なものを感じたのかもしれない。
結局、中学時代は通常登校出来ず、保健室登校になってしまったが、それでも、これのおかげでずいぶん良くなったように感じている。…思い込みの力とは偉大なものだ。
目覚まし代わりにしているスマホで時間の確認。現在深夜2時。あと4時間は眠れるだろう。
明日は高校の入学式。希望と…少しの恐怖を感じながら、眠りについた。
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