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第七話
第7話 13
しおりを挟む グレンの硬い声音にルトはしばらくして表情を変えた。 なぜ要領のいいラシャドがそんな愚かな真似をしたのか。 答えにいきついたルトの両目が見開き、すぐ横に立つグレンを咄嗟に見上げた。
蛇の獣人に、身分が高い身内がいると聞いたのはまだ記憶に新しい。 偶然にしてはタイミングが良すぎる。
「俺のせいですか? けがをさせた相手って、もしかして……」
戸惑いながら口を開けば、困った様子で曖昧に頷かれる。 ルトの視線から間をとるように、グレンは破ったラシャドの服の残骸を、そっと脇に除けた。 空いた長い指先がルトの頬に移る。
少し痩せてしまった丸みのある頬を、なだめる手つきで優しく撫でられた。
「ルトは、本当に賢いな。おそらく君が考えた相手で違いない。 だが、ルトが気に病む必要はない。 君のせいではないよ。 ラシャドは自分の意のままに行動しただけだ。 それより、ルトのほうは? 調子はどうだ」
深い蜂蜜色の瞳に心配げに覗かれる。 頬に寄り添う手のひらの、温もりの柔らかさにルトは無意識にすり寄った。
獣人に触れられて安心するのは、この大きな手のひらだけだ。 おそらく後にも先にもグレンだけ。 ルトに乱暴を働かない手だとルトの本能が安らいでいる。
どんなときも、自分だけを撫でてくれる手に憧れたことがある。 もちろん大きな手の温もりを、与えられなかったわけではない。 ただ、その温もりを得るにはいつも条件が必要だった。 勉強を頑張ったから、子守りをしたから、利口でいたから。
自分は捨て子だと理解できたのがいつだったか覚えていない。 だけどそのとき、周りのアデラたちが両親に愛されているのを、幼い心で羨ましいと思ったのは覚えている。
シーデリウムに来てからは、ルトに触れる手は奪うものでしかなかった、それに絶望もした。 でもグレンは違った。
ルトの存在を丸ごと抱きしめてくれる。 ルトを守ってくれる手だと思わせてくれる。 優しい腕に、どれほど救われたか。
ひとつの見返りもなく無条件に触れてくれる、ルトはこの手が好きだった。 グレンの穏やかな雰囲気が好き。 青天の下で凪いだ風を感じられる、颯爽とした微笑みが。
「俺は平気です。魔術師に治癒してもらって良くなりました」
「だが、心の傷までは癒されない。 君が狙われたのは俺のせいでもあるのに。 俺は君に、何もできない。 悔しいよ。 心底、情けない」
「そんなことないです。あなたも、俺を助けてくれました」
蛇の獣人に、身分が高い身内がいると聞いたのはまだ記憶に新しい。 偶然にしてはタイミングが良すぎる。
「俺のせいですか? けがをさせた相手って、もしかして……」
戸惑いながら口を開けば、困った様子で曖昧に頷かれる。 ルトの視線から間をとるように、グレンは破ったラシャドの服の残骸を、そっと脇に除けた。 空いた長い指先がルトの頬に移る。
少し痩せてしまった丸みのある頬を、なだめる手つきで優しく撫でられた。
「ルトは、本当に賢いな。おそらく君が考えた相手で違いない。 だが、ルトが気に病む必要はない。 君のせいではないよ。 ラシャドは自分の意のままに行動しただけだ。 それより、ルトのほうは? 調子はどうだ」
深い蜂蜜色の瞳に心配げに覗かれる。 頬に寄り添う手のひらの、温もりの柔らかさにルトは無意識にすり寄った。
獣人に触れられて安心するのは、この大きな手のひらだけだ。 おそらく後にも先にもグレンだけ。 ルトに乱暴を働かない手だとルトの本能が安らいでいる。
どんなときも、自分だけを撫でてくれる手に憧れたことがある。 もちろん大きな手の温もりを、与えられなかったわけではない。 ただ、その温もりを得るにはいつも条件が必要だった。 勉強を頑張ったから、子守りをしたから、利口でいたから。
自分は捨て子だと理解できたのがいつだったか覚えていない。 だけどそのとき、周りのアデラたちが両親に愛されているのを、幼い心で羨ましいと思ったのは覚えている。
シーデリウムに来てからは、ルトに触れる手は奪うものでしかなかった、それに絶望もした。 でもグレンは違った。
ルトの存在を丸ごと抱きしめてくれる。 ルトを守ってくれる手だと思わせてくれる。 優しい腕に、どれほど救われたか。
ひとつの見返りもなく無条件に触れてくれる、ルトはこの手が好きだった。 グレンの穏やかな雰囲気が好き。 青天の下で凪いだ風を感じられる、颯爽とした微笑みが。
「俺は平気です。魔術師に治癒してもらって良くなりました」
「だが、心の傷までは癒されない。 君が狙われたのは俺のせいでもあるのに。 俺は君に、何もできない。 悔しいよ。 心底、情けない」
「そんなことないです。あなたも、俺を助けてくれました」
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