上 下
1 / 13

第1話

しおりを挟む

北海道の冬は本当に…本当にしんどい。
対策しなければ、水道は街中でも平気で凍るし…吹雪なんて酷いときは殺人級の勢いがある。


「…そんな中で、引っ越しするとは何を考えているのだねミナト君?」


小柄な体に黒い短髪の女性、オオダはジト目で隣にいる友人を見つめる。
本日の彼女の恰好は、もこもこのニット帽とネックウォーマー、耐水性ばっちりの上着に分厚い靴と手袋。
まるでスキーをするような防寒性に特化した服装をしている。


「それは是非、本人の前でいってくれないか。」



中肉中背の黒髪のサイドポニーの一般女性、ミナトは寒さで震えながらオオダにそう答える。
彼女の恰好は大きなコートとマフラー、分厚いブーツにスマホが弄れる薄めの手袋で今日は眼鏡をかけていた。


本日はミナトの上司の引っ越しの手伝い。
オオダは全く面識がないのだが、人手が欲しいといわれたのでお小遣いがでると聞きミナトと共にここにいる。

現在は地下鉄の入り口からでて直ぐのところで待っているところで、待ち合わせ
時間からして間もなく到着するだろう。



「港は相変わらず寒さに弱いのな。
携帯のマナーモードみたいだね。」

「貴様ぁ…温まったら覚えていろよぉ…。」


まぁ、温まっても勝てないのだけどね。
そう内心でおもっていたミナトがブルブルと震えて待つこと数分、ミナトの上司が運転するハイエースがこちらに向かってきた。

白髪の坊主頭に大きなフレームの眼鏡をした初老の男性が人の良さそうな笑みを浮かべて手を振っている。


「…ウチ、ハイエースにいい思い出がないのだけど。」

「何かあったら任せたからねオオダドン。」


そんな冗談を交わしつつハイエースに乗り込んだ2人は、後部座席にのりこみシートベルトをつけた。
ミナト達を迎えにいくついでに荷物を運んでいたようで、ミナトの上司のニシヤマは約束の時間が少し過ぎた事を謝罪する。


「ミナト君の友人だね、初めまして僕はニシヤマ。
こんなに可愛い娘がくるなんて聞いてなかったから緊張しちゃうな。」

「ふふふ、そういわれたら私も緊張します。

遅くなりました、私はオオダと申します。
本日はよろしくお願いいたします。」


バックミラー越しで2人は会話していた。
オオダは見事に擬態しており、隣に座るミナトも一瞬だけ目をギョッと見開く。
誰だこの美女は!?

そんなこんなで、ニシヤマの家に辿り着いた。

ニシヤマの家は3階建ての長方形の形をした家で、一番下が玄関と車庫と倉庫のスペースで残り2階が生活スペースのようだ。
先ずは、3階からの物をと言われ2人はニシヤマについていく。


荷物をまとるのは済んでおり、段ボールが山のように積みあがっていたが…問題はそこじゃない。
きっとニシヤマが雄姿を募ったのは大型のマッサージチェアの為だろう、少なくとも1人や2人では運べないだろう。


「ちょっと待っててね…今、これを運ぶ準備をするから。」


そういってニシヤマが奥にいった瞬間にオオダは、ミナトを見て無言でマッサージチェアを指さす。
これは聞いていないと目で圧を送っている。

ミナトも私も初めて聞いたわと、オオダの圧に負けず目で意思を送った。

そんな無駄に高度なアイコンタクトを交わした後にニシヤマが奥から1人つれて戻ってきた。
ミナトの表情を見る限り知り合いなのだろう。
しおりを挟む

処理中です...