無能の少女は鬼神に愛され娶られる

遠野まさみ

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少女は愛され娶られる

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邑に居た頃は知らなかった。邑が広がれば、邑長が喜び、邑人からの貢物が市子たちのもとへ届けられ、家族は満足そうだった。山と積まれた貢物の品たちがあれば、ひと晩は咲に酷い折檻が下らなかった。そのことに安堵していた。

(わたしは、なんてことを……)

さあ、と地の引く思いで虚空を見つめていると、小夜は問うた。

「あの邑のことは、あなたのなさりようひとつです。咲さま。あなたはどうされますか」

そんなの決まっている。咲は、小夜を毅然と見つめた。





「ええい! よくもこんなにうじゃうじゃと沸いてでてくるね! 無尽蔵とはまさにこのこと! だけど、あたしの剣の前に、切り倒されて行くんだね!」

ざあ、と市子が太刀を振るい、結界の外に出ている彼女たちを喰らおうとしていたあやかしたちをなぎ倒していく。

「醜いものは、私の前から消え失せて。私たちがお前たちの前に小さくなっていると思ったら、大間違いなのよ」

三日月型をした飛刀(とびがたな)を左右の手から華麗に繰り出し、その弧を描く軌跡の中で、襲ってくるあやかしを切りつけていく。操る刀は血のりにまみれた姿で芙蓉の手に再び収まる。

「ああ、汚い。私、おまえたちの、そういう獣くさい所が、本当に嫌い」

市子と芙蓉が前線に立ち、その後ろで父が結界をひろげている。ずりずりと邑の領域が広がっていき、中にいる邑長たちは、歓喜に大興奮だ。そんな惨状に連れてこられた咲は、飛刀を手にした芙蓉に力いっぱい抱き付いて、その動きを止めた。抱き付かれた芙蓉は咲もろともその場に倒れ込み、一瞬その場に虚を生んだ。

「な、名無し!?」

唐突にその場に現れた咲に、芙蓉の動揺は大きく、またその声に市子も振り向いた。

「名無し!? お前、生きて……!? ……ははあ、どうりであやかしたちが活発なわけだ。お前は何処までも役に立たないね! これだから無能は!」

怒号にも似た言葉に、咲は市子を見据えて立ち上がった。

「お母さまも、芙蓉も、お父さまも邑長も、もう止めて。あやかしたちが獰猛に思えるのは、元はと言えばあやかしとの間に築かれた協定を破ったこの邑の所為じゃない。つつましく暮らしていれば、あやかしは領域を超えて人を襲ったりなんてしないわ」

咲の言葉に市子の一喝が飛ぶ。
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