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しおりを挟む都も遠い農村に千早は生まれた。幼い頃から意識せず人の夢に入り込んでいた為、しばしば昼間の農作業中に居眠りをしてしまっていた。その上、家族の夢に入り込んだ翌朝、うっかり夢の内容を口にしてしまって以来、千早は化け物を見るような目で見られた。
『なんだい、この子は! 人の頭ん中を覗けるのかい!? ああいやだ、近づくんじゃない! これ以上頭ん中を見られて、たまるもんかね!』
家族は直ぐに千早を避けだした。また、十にもなると、あやされる年頃ならともかく、半人前として仕事をこなさなければならなかった。しかし夢を渡ることを制御も出来ず、結局昼間に集中できずに仕事がはかどらない日々が続いた。
『なんだろうね、この仕事の出来なさは! 働かないお前が食う飯は今日もないよ!』
食事を与えられない日々が続き、それゆえ力仕事に従事することが困難になってくる。農具を振り上げた時にその重さにふらついて倒れると、いよいよ戦力外とみなされた。家族が多かっただけに、使い物にならないと判断されると、切り捨てられるのは早かった。
『全員を食わせていくには収穫が少なすぎるから、千早は人買いに売っちまおう。丁度、港町の廓(くるわ)に集める女の子を探してるって話だよ』
廓というところで男に買われる女の話は聞いたことがある。千早はそんなところへ行くのは嫌だと思い、その夜、一人で家を出た。
しかし道中でも女を食い物にしようとする輩が居ることに気付き、逃げ込んだ先の寺で、千早は男として生きることを決意した。たかが髪を切るだけだ。もともと男とも女とも分からないようなぼろの着物を着ていたし、髪を切ることにためらいを覚えなければ、なんということはなかった。その時に、寺に居た若い入道がこう言った。
『子供。男の成りをしても、人としてのつつましさを忘れてはいけない。お前のたぐいまれなる力は、きっと人の役に立つ。まずは自分を律し、好奇で人の夢を覗かぬよう、努めるのだ。さすれば、夢接ぎとして道が拓けるだろう』
入道はそう言って、はさみを貸してくれた。それ以降、千早は男として、ひとり過ごしてきた。誰かのやさしさを感じたのなんて、あの入道に諭された時くらいだった。だから。
(おやさしい伊織さまの為に。私は働きたい。きっと役に立ってみせる……)
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