30 / 77
花が咲く
(6)
しおりを挟むそれでも、リンファスにアキムとルドヴィックの花が着くことはなかった。
彼らが言っていた通り、まだ彼らにとってリンファスは、『新しく現れた訳あり花乙女』としての存在以上ではないのだ。
今日会ったばかりなのだから、当たり前だ。
リンファスは、自分と屈託なく話をしてくれる男性が居たという事に驚きを持ちつつ、それも、花乙女の役割を期待されてのことなのだろうなと理解した。
そういえば、ロレシオもあの髪の色はイヴラなのではないだろうか。
そう思ったけど、彼の美しい淡い金色の髪を、とうとう茶話会の最中に見ることはなかった。
乙女とイヴラが去った部屋では、ケイトとハラントが片付けに大わらわだ。
リンファスも手伝おう、と思って席を立とうとすると、ぽん、と肩を叩かれた。……プルネルだった。
「どうだった? 初めての茶話会……」
「あ、……そうね、人が、多かったわ……」
それは感じたことだったので、嘘ではない。
でも考えていたこと全部でもないので、リンファスは知らず口を閉ざしてしまう。プルネルは何時も通り穏やかな笑みを浮かべてリンファスの隣に座った。
「……? プルネル……?」
「よかったら、少しこのまま、お話しない? 貴女やっぱり初めで緊張したのかしら、ちょっと元気がなかったから、気になっていたの……」
ごめんなさい、気付いたときに、声を掛けられなくて……。
プルネルは呟くようにそう言った。
……プルネルの心遣いが嬉しい……。人と会って、心を通わせるということは、こんなにも嬉しいことなのだと知ったリンファスは、プルネルに向かって微笑んだ。
その瞬間にプルネルの手首に新しい小さな紫の花が咲いて、プルネルは嬉しそうにそれを見た。
「ふふ。リンファスも私の事友達だと思ってくれたのね」
そう言って手首の花をリンファスに見せる。
「これは貴女からの花だわ。紫の花ですもの。それに今、私は貴女とお話してたんだし」
なんていうことだろう。リンファスに花を咲かせることが出来るだなんて!
ぱちぱちと瞬きをしながらプルネルが示して見せる花をまじまじと見える。
「嬉しいわ。ありがとうリンファス」
微笑むプルネルに、心が震える。
わたしの、初めてのお友達……。
リンファスはプルネルの手を取って、何時までも握っていた。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる