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花乙女として
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まず、花を食べてみることにした。
夜になり食事の時間となると、宿舎の少女たちが食堂に集まって来て、着席した。
少女たちの前には白い皿が用意されており、皆、身に着けた花々の中から一つを千切ってその上に載せると、器用に花弁をほぐして一枚づつ口に運んだ。
食べる様子はリンファスが旅の途中で燻製肉を食べた様子と変わらない。花びらを咀嚼して当たり前のように飲み込んでいる。
ケイトが近くに座って居る花乙女に話し掛けた。
「プルネル。花を分けてくれるかい?」
プルネルと話し掛けられた少女は、真面目な顔をしてこくりと頷き、手にひとつ、花を千切った。
緑色の花びらに赤い花芯のその花は、花弁が丸く、先が割れた形をしている。
その花弁は二重(ふたえ)にまとまっていて、花びらはプロペラのように中心を回り込むように花芯を中心に丸まっていた。
リンファスは彼女に対してありがとうと謝意を述べ、小さな笑みで返してくれた彼女にもう一度頭を下げると、ケイトが持って来た彼女の花をトングでリンファスの皿に移した。
ケイトは親しみやすい笑みを浮かべると、リンファスに、
「皆のように食べてごらん。きっと人間の食事よりも美味しいよ」
と言った。
リンファスはおずおずと皿に盛られた花に手を伸ばし、見よう見まねで花弁を一枚はぎ取った。それを手で口に運ぶ。
もぐ……、と花びらを咀嚼すると、ほんのり甘い味がした。
花びらが甘いと感じたことに驚いたが、しかしそれはとても薄い味で、どちらかというと旅の途中で食べた燻製肉の方が味も濃かったし美味しかった気がする。
それでもケイトが横でにこにことリンファスを見ているので、リンファスは慣れないながらに皿に乗った花を半分程食べきった。
ケイトはそれを見てにこやかに微笑んだ。
「どうだい、美味しかっただろう? それが花乙女の食事の味だよ」
ケイトの様子にリンファスは何も言えなかったが、正直こんな食事が続くのであれば、家で作った野菜スープの方が山羊の乳の味がして良い、と思った。
それでもその気持ちは言わずにケイトに、ご馳走さまでした、とだけ言った。ケイトは機嫌よく微笑んでいた。
食事が終わると少女たちはそれぞれ食堂から出て行った。リンファスはケイトが皿を片付けるのを手伝った。ケイトはいいんだよ、と言ったがリンファスがやりたかったのだ。
「私には花が付いてないですし。……それに今は他の方の為には働けませんけど、ケイトさんのお手伝いが出来れば、少なくとも私は此処に居ることに自信が持てます」
リンファスが言うと、ケイトはやっぱり困ったように笑った。
「本当に不思議な子だよ、あんたは……。花乙女は居るだけでありがたがられる存在なのに……」
それは花が着いているからだ。リンファスはそうではない。であるならば、『ありがたい』と思ってもらわなければ、此処には居られないのだ。
「お仕事、沢山させてください。きっとお役に立ちます」
リンファスが言うと、ケイトは敵わないねえ……、と苦笑した。
夜になり食事の時間となると、宿舎の少女たちが食堂に集まって来て、着席した。
少女たちの前には白い皿が用意されており、皆、身に着けた花々の中から一つを千切ってその上に載せると、器用に花弁をほぐして一枚づつ口に運んだ。
食べる様子はリンファスが旅の途中で燻製肉を食べた様子と変わらない。花びらを咀嚼して当たり前のように飲み込んでいる。
ケイトが近くに座って居る花乙女に話し掛けた。
「プルネル。花を分けてくれるかい?」
プルネルと話し掛けられた少女は、真面目な顔をしてこくりと頷き、手にひとつ、花を千切った。
緑色の花びらに赤い花芯のその花は、花弁が丸く、先が割れた形をしている。
その花弁は二重(ふたえ)にまとまっていて、花びらはプロペラのように中心を回り込むように花芯を中心に丸まっていた。
リンファスは彼女に対してありがとうと謝意を述べ、小さな笑みで返してくれた彼女にもう一度頭を下げると、ケイトが持って来た彼女の花をトングでリンファスの皿に移した。
ケイトは親しみやすい笑みを浮かべると、リンファスに、
「皆のように食べてごらん。きっと人間の食事よりも美味しいよ」
と言った。
リンファスはおずおずと皿に盛られた花に手を伸ばし、見よう見まねで花弁を一枚はぎ取った。それを手で口に運ぶ。
もぐ……、と花びらを咀嚼すると、ほんのり甘い味がした。
花びらが甘いと感じたことに驚いたが、しかしそれはとても薄い味で、どちらかというと旅の途中で食べた燻製肉の方が味も濃かったし美味しかった気がする。
それでもケイトが横でにこにことリンファスを見ているので、リンファスは慣れないながらに皿に乗った花を半分程食べきった。
ケイトはそれを見てにこやかに微笑んだ。
「どうだい、美味しかっただろう? それが花乙女の食事の味だよ」
ケイトの様子にリンファスは何も言えなかったが、正直こんな食事が続くのであれば、家で作った野菜スープの方が山羊の乳の味がして良い、と思った。
それでもその気持ちは言わずにケイトに、ご馳走さまでした、とだけ言った。ケイトは機嫌よく微笑んでいた。
食事が終わると少女たちはそれぞれ食堂から出て行った。リンファスはケイトが皿を片付けるのを手伝った。ケイトはいいんだよ、と言ったがリンファスがやりたかったのだ。
「私には花が付いてないですし。……それに今は他の方の為には働けませんけど、ケイトさんのお手伝いが出来れば、少なくとも私は此処に居ることに自信が持てます」
リンファスが言うと、ケイトはやっぱり困ったように笑った。
「本当に不思議な子だよ、あんたは……。花乙女は居るだけでありがたがられる存在なのに……」
それは花が着いているからだ。リンファスはそうではない。であるならば、『ありがたい』と思ってもらわなければ、此処には居られないのだ。
「お仕事、沢山させてください。きっとお役に立ちます」
リンファスが言うと、ケイトは敵わないねえ……、と苦笑した。
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