星は五度、廻る

遠野まさみ

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清泉皇帝

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その一件以来、麗華は星羽と仲良くなった。星羽の気取らない性格が麗華は好きになったし、星羽は令嬢らしからぬ麗華の言動を楽しんでいるようだった。
今日は自分のお付きの女官の星を読んでくれと頼まれて、星羽の部屋に来ている。

「まあ、貴女も素晴らしい運勢よ。星羽さまにお仕えしていることが、実を結ぶわ」

麗華がそう告げると、星羽は笑って、

「じゃあ、ますます私が大成しなきゃいけないじゃない」

とおどけた。

和気あいあいと談笑を楽しんでいるときに、扉を叩く音がして、外から宦官の声が聞こえた。

「麗華さまはおられるか。陛下が戦の星を読んで欲しいとおっしゃっている」

「ええっ!?」

麗華の星読みをくだらない占いと切り捨てた冷帝が戦の占いを読めだと?
なにか麗華を貶めようという裏があるのではないかと勘繰ったが、星羽は、

「麗華さまが認められて良かったわ」

というので、しぶしぶ皇帝の許へ連れて行ってもらった。

廊下をいくつもわたってたどり着いた宮廷の広間には皇帝とその臣下たちがずらりと並んでいた。こ、この中で星を読むのか……。

「朱麗華。おぬしの星読みが正しいと言うのなら、此度のアギ国への侵攻、どう攻めたら勝ちが来るか読んでみよ」

アギ国とは詞華国の西側の辺境国の事だ。依林が宦官に聞いた話では、金の採掘が盛んな国で、周辺国から常に狙われている。今はアギ国を囲む東西南北の国の中で詞華国が一番内政が安定していて、この機に乗じて、アギ国を制圧しようと言うのだ。

そんな大ごとを、たかが最近後宮に迎えた娘の星読みに託すというの!? そりゃあ、老師から『相手の事を思いやって、心から相手に寄り添って読みなさい』とは教えられているけど、それにしたって!!

「わかりました。読みます。しかし、私には戦争というものが分かりかねます。なにか、これからアギに攻め入るときの象徴のようなものはございますか?」

戦争なんて経験したことがない。老師から、人が傷付いて良いことなんてない、としか聞いてない。
想像できないものを読むことは、麗華にはまだ難しい。だから戦いを想像させてくれるような『物』が見たかった。

「ならば、これではどうか」

そう言って冷帝は腰から太刀を抜いてその場に突き刺した。麗華はその刃を見てごくりと喉を鳴らせた。麗華に向けられたあの太刀ではない。もっと大きく太く、鋭い刃だった。
……これが、戦場で振るわれる刃……。
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