星は五度、廻る

遠野まさみ

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三人の妃

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「朱麗華と申します。武美琪さま、胡惠燕さまにはお初にお目にかかります。なにぶんこのようなところは初めてですので、至らぬところが多々ありましょうがよろしくお願いいたします」

美琪と惠燕は、まあ、ご挨拶ありがとう、と言って、麗華をお茶の席に呼んでくれた。丸机に一つ椅子を持ってこさせ、麗華を誘う。
麗華はありがとうございます、とお礼を述べて、席に着いた。

直ぐにお茶が運ばれてくる。可憐な模様の描かれた薄い磁器の器に薫り高いお茶が注がれる。高級な茶葉であることは直ぐに知れた。
欠けの入った茶器で薄くなったお茶を何時までも飲んでいた麗華には考えられないことだった。こんな贅沢を、この宮の人たちはしているのだ、と目を丸くする思いで見つめる。美琪と惠燕は麗華に話を向けた。

「皇帝陛下直々のお召し上げだったんですって?」

「あ、はい……」

「その翠の瞳がどう転ぶか、分からないものですわね」

どういう、意味だろう。黙っていると、美琪がこう言った。

「聞けば、捕虜同然の娘と結ばれた証とか」

「全くもって、奇異ですわね」

惠燕も続く。麗華は手元を見て、言葉を考えた。 
自分の外見に関してはいろいろ言われてきて慣れてはいるが、やはりこういう言葉を面と向かって言われるのは気分のいいものではない。

「お目汚しでしたら申し訳ありませんでした。昔の武勲の証でして……」

「存じてますわ。それにしても、お父さまお母様は恥ずかしくなかったのかしら。お父さまはなんておっしゃっていたの?」

答えられない。だって、麗華が運よく陛下に気に入られることを望んで、お金を欲しがってるんだから。

黙っていると、惠燕が口を開く。

「朱家の算段も見えすぎですことよ」

「まあ、陛下がもの好きで良かったじゃありませんか」

二人の妃は微笑みの中から侮蔑の瞳で麗華を見た。明らかに嫌われている。出生も外見も、そしておそらく存在そのものも……。

そうだろうな。麗華だって、そう思っている。
麗華はあの少年からもらった鏡を収めた胸に手を当てた。あの子は自分の運命を探しに危険を顧みず、家に戻った。
麗華も、この後宮で運命を探したい。麗華の運命を探すなら、この人たちと仲良くすることは『違う』、と思う。もっと運命を前向きに回すことに繋げなければ。

麗華はぐっと奥歯を噛んで微笑みを作った。

「ご挨拶を兼ねて仲良くして頂ければと思っておりましたが、やはり私のような娘とお二方が交流するのはお二方にとっても歓迎されないご様子。今日は失礼させて頂きます」

そう言って席を立つと、先程潜った扉を潜って部屋を去る。花淑が言っていたように、後宮には花ばかりではなかったようだった。

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