料理男子、恋をする

遠野まさみ

文字の大きさ
上 下
31 / 46
恋をしよう

薫子のお礼(2)-2

しおりを挟む
女性と、部屋の中の人との会話を驚きいっぱいで聞く。扉が開かれ、女性に中へと促されると、部屋の奥の大きな机に座っていたのは薫子。しゃ、社長だったのか……。呆然としている視線の先で、薫子が人懐こい笑みを浮かべた。

「佳亮くん、無理言って悪かったわね。まあ、座って」

そう言って薫子は社長室にしつらえられているソファセットに座った。佳亮も座らないわけにはいかず、薫子の正面に座る。それでも何も言えない佳亮に、驚いた? と薫子はいたずらっ子のように笑った。

「今、リニューアルオープンの店舗の納期直前で忙しくて…。全然家にも帰れないし食事も不規則になるから、ほら、吹き出物も出ちゃって」

そう言って薫子が顎のところを指差す。本当だ。ぽつりと赤いものが顎に出来ている。よく見るとちょっとクマのようなものも出来ているだろうか。きれいな顔だけにやつれた印象になってしまって、目立つ。

「お弁当、楽しみにしてたのよ」

そう言われて、手に持っていた保冷バッグの中からタッパーに詰めた弁当を差し出す。

「ちょっと残り物で申し訳ないんですけど…」

こんなことなら、もっとちゃんと作ってきてあげればよかった。でも薫子は差し出された弁当に手を合わせて、早速箸をつけている。

「うん、美味しい。元気が出るわ。ありがとう、佳亮くん」

本当に美味しそうに食べるから、出来れば毎日お弁当を作って上げられたら良いのにと思ってしまった。せめて週末だけでも…。

「薫子さん。週末だけでも部屋に帰って来れませんか? 今までみたいに食事を一緒に摂ることは難しいと思いまけど、お弁当くらいやったら差し入れできます」

本当は持ってきてあげても良いのだけど、忙しそうなこの場所に部外者がのこのこと来るわけにはいかなさそうだ。そう言うと薫子は是非、と縋るような目で訴えてきた。

「もう何日もカップラーメンで、流石に飽きてたのよ…。部屋には帰れないけど、受付に託(ことづ)けてくれたら受け取れるように手配しておくから、佳亮くんの都合のいい時に食べさせてもらいたい。この忙しいのは春になれば終わるから」

薫子の言葉を聞いて佳亮は弁当を作ることを約束した。ありがたい、ごめんね、と言いつつ嬉しそうな薫子を見ると佳亮も安心する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...