19 / 46
恋をしよう
薫子の謎(2)-1
しおりを挟む
薫子が配送手続きを済ませると、佳亮は薫子にお茶に誘われた。今日の買い物の礼のつもりかと軽い気持ちで受けたら、今、とても居心地が悪いことになっている。
場所はホテルのティーラウンジ。そんな所でお茶をするのにも慣れていないし、今目の前で展開されている会話にも付いていけない。
薫子とティーラウンジで紅茶を囲んでいたら、フロアの奥から黒い三つ揃えの品の良い紳士がすっ飛んできた。そして佳亮の目の前で薫子にぺこぺことお辞儀をしている。
「大瀧さま。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます」
「今日は完全にプライベートよ、溝呂木さん。そういうのはなしにして」
薫子がそう言うと、そうですか、と言うと、紳士はちらりと佳亮を見たうえで席を辞した。なんだったんだ、今のは。
「………」
佳亮が黙っていると、薫子がくすりと笑った。
「何も聞かないのね、佳亮くんは」
今まで見てきた薫子とは違う、何処か自嘲気味の笑み。数回しか会ってないけど、それが普段の薫子ではないことは分かる。
「薫子さんが言いたくないことなら、聞きません。人には聞いて欲しいことと聞いてほしくないことがあると思いますから」
佳亮が言うと、信用できるなあ、と微笑われた。でも、と佳亮は続ける。
「薫子さんが言いたくなったら、その時に聞きます。貴女は、僕のことを救ってくれた恩人ですので」
「大袈裟よ。カレーを食べさせてもらった私こそ、佳亮くんを恩人だと言わなきゃいけないわ」
それでもです、と佳亮は返した。例え薫子がそう思っていなくても、佳亮には薫子の言葉で過去から救われたのだ。苦い苦い記憶たち。それとさよならしてもう一度人に料理を作ろうと思えたのは、薫子の言葉があったからなのだ。
だから、二つ返事だったけど、実は薫子に食事を作れるのは嬉しい。恩返しのようなものだ。
場所はホテルのティーラウンジ。そんな所でお茶をするのにも慣れていないし、今目の前で展開されている会話にも付いていけない。
薫子とティーラウンジで紅茶を囲んでいたら、フロアの奥から黒い三つ揃えの品の良い紳士がすっ飛んできた。そして佳亮の目の前で薫子にぺこぺことお辞儀をしている。
「大瀧さま。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます」
「今日は完全にプライベートよ、溝呂木さん。そういうのはなしにして」
薫子がそう言うと、そうですか、と言うと、紳士はちらりと佳亮を見たうえで席を辞した。なんだったんだ、今のは。
「………」
佳亮が黙っていると、薫子がくすりと笑った。
「何も聞かないのね、佳亮くんは」
今まで見てきた薫子とは違う、何処か自嘲気味の笑み。数回しか会ってないけど、それが普段の薫子ではないことは分かる。
「薫子さんが言いたくないことなら、聞きません。人には聞いて欲しいことと聞いてほしくないことがあると思いますから」
佳亮が言うと、信用できるなあ、と微笑われた。でも、と佳亮は続ける。
「薫子さんが言いたくなったら、その時に聞きます。貴女は、僕のことを救ってくれた恩人ですので」
「大袈裟よ。カレーを食べさせてもらった私こそ、佳亮くんを恩人だと言わなきゃいけないわ」
それでもです、と佳亮は返した。例え薫子がそう思っていなくても、佳亮には薫子の言葉で過去から救われたのだ。苦い苦い記憶たち。それとさよならしてもう一度人に料理を作ろうと思えたのは、薫子の言葉があったからなのだ。
だから、二つ返事だったけど、実は薫子に食事を作れるのは嬉しい。恩返しのようなものだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
護堂先生と神様のごはん
栗槙ひので
キャラ文芸
亡くなった叔父の家を譲り受ける事になった、中学校教師の護堂夏也は、山間の町の古い日本家屋に引っ越して来た。静かな一人暮らしが始まるはずが、引っ越して来たその日から、食いしん坊でへんてこな神様と一緒に暮らす事になる。
気づけば、他にも風変わりな神様や妖怪まで現れて……。
季節を通して巡り合う、神様や妖怪達と織り成す、ちょっと風変わりな日々。お腹も心もほっこり温まる、ほのぼの田舎暮らし奇譚。
2019.10.8 エブリスタ 現代ファンタジー日別ランキング一位獲得
2019.10.29 エブリスタ 現代ファンタジー月別ランキング一位獲得
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黒神と忌み子のはつ恋
遠野まさみ
キャラ文芸
神の力で守られているその国には、人々を妖魔から守る破妖の家系があった。
そのうちの一つ・蓮平の娘、香月は、身の内に妖魔の色とされる黒の血が流れていた為、
家族の破妖の仕事の際に、妖魔をおびき寄せる餌として、日々使われていた。
その日は二十年に一度の『神渡り』の日とされていて、破妖の武具に神さまから力を授かる日だった。
新しい力を得てしまえば、餌などでおびき寄せずとも妖魔を根こそぎ斬れるとして、
家族は用済みになる香月を斬ってしまう。
しかしその神渡りの神事の際に家族の前に現れたのは、武具に力を授けてくれる神・黒神と、その腕に抱かれた香月だった。
香月は黒神とある契約をしたため、黒神に助けられたのだ。
そして香月は黒神との契約を果たすために、彼の為に行動することになるが?
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。
星は五度、廻る
遠野まさみ
キャラ文芸
朱家の麗華は生まれ落ちた時に双子の妹だったことから忌子として市井に捨てられ、拾われた先の老師に星読みを習い、二人で薬売りの店をきりもりしていた。
ある日、捨てた筈の父から、翠の瞳が見たいという皇帝の許に赴くよう、指示される。
後宮では先住の妃が三人いて・・・?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる