料理男子、恋をする

遠野まさみ

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恋をしよう

薫子の謎(2)-1

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薫子が配送手続きを済ませると、佳亮は薫子にお茶に誘われた。今日の買い物の礼のつもりかと軽い気持ちで受けたら、今、とても居心地が悪いことになっている。

場所はホテルのティーラウンジ。そんな所でお茶をするのにも慣れていないし、今目の前で展開されている会話にも付いていけない。

薫子とティーラウンジで紅茶を囲んでいたら、フロアの奥から黒い三つ揃えの品の良い紳士がすっ飛んできた。そして佳亮の目の前で薫子にぺこぺことお辞儀をしている。

「大瀧さま。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます」

「今日は完全にプライベートよ、溝呂木さん。そういうのはなしにして」

薫子がそう言うと、そうですか、と言うと、紳士はちらりと佳亮を見たうえで席を辞した。なんだったんだ、今のは。

「………」

佳亮が黙っていると、薫子がくすりと笑った。

「何も聞かないのね、佳亮くんは」

今まで見てきた薫子とは違う、何処か自嘲気味の笑み。数回しか会ってないけど、それが普段の薫子ではないことは分かる。

「薫子さんが言いたくないことなら、聞きません。人には聞いて欲しいことと聞いてほしくないことがあると思いますから」

佳亮が言うと、信用できるなあ、と微笑われた。でも、と佳亮は続ける。

「薫子さんが言いたくなったら、その時に聞きます。貴女は、僕のことを救ってくれた恩人ですので」

「大袈裟よ。カレーを食べさせてもらった私こそ、佳亮くんを恩人だと言わなきゃいけないわ」

それでもです、と佳亮は返した。例え薫子がそう思っていなくても、佳亮には薫子の言葉で過去から救われたのだ。苦い苦い記憶たち。それとさよならしてもう一度人に料理を作ろうと思えたのは、薫子の言葉があったからなのだ。

だから、二つ返事だったけど、実は薫子に食事を作れるのは嬉しい。恩返しのようなものだ。
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