上 下
1 / 3

鬱金桜の君~その後の君~①

しおりを挟む
八重は浅黄と彼の父母、祖父に連れられて、宮森の屋敷にたどり着いた。玄関を潜ると、浅黄の母親は八重を客間へと案内した。

「ついに浅黄が心を決めてくれて! 本当に今日は良い日だこと」

にこにこと微笑む夫人に促されて、部屋へはいると、部屋の衣桁には斎藤家のお遣いでは見かけたことのなかった、空色の地に薄黄緑色の桜の模様の着物が掛かっていた。

「これは浅黄があなたの為に作らせたものですよ」

そう聞いて驚いてしまう。先日八重に贈った着物を受け取れなかったことを告げてしまったからだろうか。そのことを申し訳なく思っていると、夫人はいいのよ、と穏やかに言ってくれた。

「浅黄は今までお国の為に頑張って来ましたからね。少しくらい贅沢を言っても、罰は当たりません。それに、男たるもの、女性の為にお金を使えずどうしますか。八重さんには浅黄と共に幸せになる権利があります。義務と言い換えても良いでしょう」

「ぎ、義務だなんて、奥さま……!」

蒼白して八重が言うと、夫人は片目をぱちんと閉じて見せた。

「浅黄がどんなご令嬢との見合いも断るものだから、私もほとほと困っていたのですよ。聞けばあの子の初恋だそうじゃない。八重さんには浅黄を惑わした罪を償ってもらわねばなりません。……というのは冗談ですけど、お会いして分かりました。あなたの目は本当に素直。八重さんが浅黄のお嫁さんになって下さったら、私も本当にうれしいわ」

夫人の言葉にぽかんとしていると、さあ、着替えましょう、と夫人が八重の手を取った。

「浅黄はあなたがこの着物を着てくれるのを、心待ちにしていました。斎藤の家から出たあなたは、もう立派な浅黄の婚約者です。堂々と、この着物を纏っていいのですよ」

そう言って、八重の体に鬱金桜の着物をあててくれる夫人の目を見つめる。目を細くして微笑む夫人に、八重は頷いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

私の好きなひとは、私の親友と付き合うそうです。失恋ついでにネイルサロンに行ってみたら、生まれ変わったみたいに幸せになりました。

石河 翠
恋愛
長年好きだった片思い相手を、あっさり親友にとられた主人公。 失恋して落ち込んでいた彼女は、偶然の出会いにより、ネイルサロンに足を踏み入れる。 ネイルの力により、前向きになる主人公。さらにイケメン店長とやりとりを重ねるうち、少しずつ自分の気持ちを周囲に伝えていけるようになる。やがて、親友との決別を経て、店長への気持ちを自覚する。 店長との約束を守るためにも、自分の気持ちに正直でありたい。フラれる覚悟で店長に告白をすると、思いがけず甘いキスが返ってきて……。 自分に自信が持てない不器用で真面目なヒロインと、ヒロインに一目惚れしていた、実は執着心の高いヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、エブリスタ及び小説家になろうにも投稿しております。 扉絵はphoto ACさまよりお借りしております。

悪役令嬢もふもふカフェ ~人間には嫌われる私の嫁ぎ先は冷徹公爵様でした。勝手に生きろと言われたので動物カフェを作ります~

日之影ソラ
恋愛
不思議な色をした瞳のせいで気味悪がられ、会う人間すべてに嫌われてしまう貴族令嬢のフリルヴェール。五度の婚約破棄を経験した彼女の心は冷めきってしまい、人間になんの期待もしなくなっていた。そんな彼女の唯一の癒しは動物たち。人間には嫌われても、動物たちからは好かれる彼女は、大切な動物たちと慎ましく過ごせればいいと思っていた。 そして迎えた六度目の婚約。今回の相手は冷徹で有名な公爵様。人間嫌いらしい彼とは上手くやれないだろうと予想し、案の定初対面で仲良くする気はないと冷たくされる。お互いに干渉しないことを条件に提示されたフリルヴェールだったが。 「だったらちょうどいいわね」 開き直り、自分のやりたいことをすることに。彼女は別宅を借りて動物カフェを作ろうとしていた。すると度々公爵様がこちらを見ていて?

大正政略恋物語

遠野まさみ
恋愛
「私は君に、愛など与えない」 大正時代。 楓は両親と死に別れ、叔父の堀下子爵家に引き取られた。 しかし家族としては受け入れてもらえず、下働きの日々。 とある日、楓は従姉妹の代わりに、とある資産家のもとへ嫁ぐことになる。 しかし、婚家で待っていたのは、楓を拒否する、夫・健斗の言葉で・・・。 これは、不遇だった少女が、黒の国・日本で異端の身の青年の心をほぐし、愛されていくまでのお話。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

処理中です...