上 下
9 / 16
一章

第9話 ギルドで薬師登録にいくと、まさかの免除?

しおりを挟む
私は、ギルド館の中に入る。
一階が冒険者ギルドで、二階が商業ギルドと階が別れていたから、私は二階へと向かう。

そのうえで、商業ギルドの中にあるだろう薬師ギルドを探すのだけれど、どうも見当たらない。

それであたりを歩き回っていたら、ギルドの女性職員から声をかけられた

「なにかお探しですか」
「薬師ギルドはどちらにありますか。登録をお願いしたいのですが」
「薬師志望ですか。大変申し訳ありませんが、この街には薬師が少なく、ギルドはないのです。こちらの総合受付へどうぞ」

なるほど、そういう場合もあるのか。
私は少し納得して、その職員の後ろをついていく。

そしてカウンターにつくと、一枚の書類を渡された。

「まず、こちらの記入をお願いします。終わったら、薬師の方にはテストを受けてもらっておりますので」

まぁそれくらいは、あるだろうと思っていた。


私は一つ頷き、羽ペンを手に取る。
はじめにあった氏名の欄に書いたのは、『アスタ・アポテーケ』。

あだ名と、この国で薬師の家柄に使われやすい苗字とを組み合わせた新しい氏名だ。
それくらいは隣国の王妃として把握していた。

苗字が出自の証になるのが一般的だから、疑われる可能性を大きく減らせる。

それからも、とんとんと書き進め、すべての項目を埋め終わる。

が、最後にあった項目を見て、目が点になった。

そこには「推薦状が必要」と小さく書いてあったのだ。
どうやら、この街のギルドは、それなりに厳格らしい。国境にある街だからか、管理は厳しいようだ。

「あら、推薦状はお持ちじゃないですか?」
「え、えぇ。昨日方、ここへ来たばかりですから」
「そうですか。では、別の街でのギルド証、それもないようなら通行証や宿の宿泊証などでも承れますよ」

親切に案内してくれるのはありがたいのだけれど、私はばりばりの不正入国だし、当然それも持っていない。

とりあえず「あれ」と言いながら、カバンを探るふりをして時間を稼ぐ。
こうなったら一度、退散するしかないかも? 

私がそんなふうに考えを巡らせていたら、

「あれって……」
「あぁ、たしかに今朝の朝礼で聞いたような」

どういうわけか、カウンターの奥で職員が騒がしくなる。
もしかしたら、不正に街へ入ったことが感づかれたかと私は内心焦って、変な汗が身体の奥から湧き出てくる感覚になるのだけれど、それは杞憂だったらしい。

「あの、申し訳ありません! やっぱり推薦状は不要です!」
「……え」
「大変申し訳ありませんが、試験だけは決まりになっておりますので、ご受験いただけますと幸いです。あ、と言っても、そんなに難しくはありませんから!!」

一転して、まさかの免除が告げられる。
同時、ギルド職員の対応が丁寧を通り越して、過剰なほど、へりくだったものになっていた。声の高さがさっきまでと一段違う。

しかも、その後ろには、ぞろぞろと職員が集まってきていた。

昔、ギルドへ視察に行った際、同じような対応を受けたことがあるが、今の私は妃ではないのだから、謎だった。


ただまぁ免除になるというのなら、変に疑問を投げかける必要もない。

「そうですか。えっと、では、お願いします」
「はい、すぐにご案内いたしますね!」

職員数名がわざわざカウンターから出てきて、私を先導してくれる。
それで私は、試験会場へと向かった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

〖完結〗私の事を愛さなくても結構ですが、私の子を冷遇するのは許しません!

藍川みいな
恋愛
「セシディには出て行ってもらう。」 ジオード様はいきなり愛人を連れて来て、いきなり出て行けとおっしゃいました。 それだけではなく、息子のアレクシスを連れて行く事は許さないと… ジオード様はアレクシスが生まれてから一度だって可愛がってくれた事はありませんし、ジオード様が連れて来た愛人が、アレクシスを愛してくれるとは思えません… アレクシスを守る為に、使用人になる事にします! 使用人になったセシディを、愛人は毎日いじめ、ジオードは目の前でアレクシスを叱りつける。 そんな状況から救ってくれたのは、姉のシンディでした。 迎えに来てくれた姉と共に、アレクシスを連れて行く… 「シモーヌは追い出すから、セシディとアレクシスを連れていかないでくれ!!」 はあ!? 旦那様は今更、何を仰っているのでしょう? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

処理中です...