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三章
50話 最終手段
しおりを挟む剣をこちらへ構えるフラヴィオと対峙をする。
「あなた、リナルドの犬だと思ってたけど。アウローラの手先だったのね。今回の首謀者もあなただったの」
「……これは驚いた。どうしてそう思うのです? 俺はただリナルド様に、少し手荒な真似をしても、連れ帰るよう厳命されただけですが?」
「……茶番はよしなさい。見たからよ、あなたが企んでいることはすべてね。私をリヴィの街へ連れ帰り、力を暴発させることで霊障を起こそうとしている。それにリナルドを巻き込むためにね」
まともには、どうしたってやりあえない。
動揺を誘うため、探りを入れると、彼はくすりと唇の端を吊り上げる。はじめはこらえようとしてか、右手で口端が吊り上がるのを押さえていたが……
やがて、耐えきれなくなったようで、目をひん剥いて、唇をにやりと吊り上げた。
「……気づかれたとは驚いたな、ばれないように振る舞っていたつもりだったが……」
「そうね、あなたの演技は完ぺきだったわ」
「はんっ、お褒めの言葉をもらうなら、アウローラ国王からがよかったな。もうばれているなら、隠す必要もなさそうだな。そうさ、そのとおりだ。お前が計画外に屋敷から逃げ出すから、先回りして待ち伏せていたのさ」
もう、本性を隠す気もなくなったようだった。敬語さえも崩れて、雑な言葉遣いになっている。
「余計な事をしてくれたよ、まったく。あとはお前に、まことしやかに『リナルドがお前のせいで死んだ』と嘘を告げるだけで済む簡単な仕事だったのに。屋敷の中でいつかの悲劇を再現してくれれば、それで済んだのに」
一方的に喋るフラヴィオを尻目に、ベッティーナはどこかに抜けられる道はないかと心を澄まして気配を窺う。
が、もう無傷で済みそうな道はない。
「まぁいい。結果は同じだ。ベッティーノ……、いやベッティーナ(・)。さぁ、諦めて俺に従え。そうすれば、お国のためになれる。お前がリナルドをその不浄の力で殺めるんだ。そうすれば、アウローラは手を汚すことなく、この街を国を混乱に陥らせることができる!」
「……残念だけれど、そんなことに魅力は一つも感じないわ」
「はんっ、とことんアウローラの害にしかならないな。さんざん迷惑をかけてきたくせに、最後までその態度とはな」
フラヴィオはそこで、緑魔法を足元に使ったらしい。
「自分の置かれている立場も分からないとは。とことん王女の資質がない奴だ」
一足飛びに、真後ろを取られる。すぐに反応することはできたが、やはり早い。喉元に刃をつきつけられる。さらに草陰からは数人の男が武器を構えて飛び出してきた。
しかも、それらの武器には火が灯っていたりするから、どうやら魔法まで使えるらしいときた。
「ロメロは捕まえてあるし、リナルドは今ごろ俺の飲ませた薬入りの酒で気持ちよく寝ている。そいつらを目の前で殺せば、お前はどうなるだろうなぁ、呪われたお姫様」
「……なんてことを考えるの、とんだ下衆ね」
「はんっ。人でなし、とでも言うつもりなら、あんたの方がよっぽそそうだろう? そいつらは、あんたのせいで死ぬんだ。ま、そもそも俺の正体にすら気づかずに信じこんでる馬鹿王子のせいでもあるが」
絶体絶命ともいえる状況だった。
このままでは確実にリヴィまで連れていかれてしまったうえ、リナルドたちが殺されてしまう。
方法がないわけじゃない。もはや唯一といっていい手段が残されている。それこそが、フラヴィオの言う『悲劇』が起こった直接的な原因だ。
そして、この十年間長らく封じ込め続けてきた力――。ベッティーナは、歪な形をした耳飾りに手をやった。
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