上 下
49 / 59
三章

49話 黒幕

しおりを挟む

「急にお屋敷からいなくなるので、リナルド様がお探しになられています。さぁ早く、お戻りください」

 リナルドに対して、成果がアピールできるから喜んでいるのか。彼は手をこちらへと差し出しつつ、嬉々としてこちらへ近づいてくる。

「……どうして、ここが?」
「単にリナルド様に指示された捜索場所が門の外だったのです。この近辺を急ぎ捜索していたら、たまたま森に入るのを見た人がいるというものですから。とにかく見つかってよかった。さぁ、こちらへ」

 手を差し出されるから、ベッティーナも数歩、彼の方へとゆっくり歩み寄った。正確には、そのふりをした。

 そうしつつすぐ手前に呼び寄せたプルソンの肩口へ、手元に練りこんだ純粋なる黒の魔力を注いでいく。

 ネガティブな感情が大波を作って押し寄せる。が、いちいちそれに屈している場合でもない。今日はすでにかなりの量を使っていたため、魔力切れが心配だったが、どうにか足りてくれる。

 プルソンがベッティーナの中へと入り込んできた。そうして、白蛇様の目になったベッティーナは過去を透視するその目で、フラヴィオを見通す。

 怪しい、と直感が告げていたためだ。

 言い分だけならあり得る話だが、他の連中の気配がするのはおかしい。
 ただ探しに来ただけなら、包囲する必要性はないはずである。

 そして、その予感は当たっていた。

「どうされました、ベッティーノ様。お咎めについてご心配されているのなら、気にする必要はございませんよ。リナルド様は、あなたのご心境にも理解を示されている。さあ、戻りましょう」

 それらしい文句を並べる彼の過去が、一気に脳内へと流れ込んでくる。

 そもそもが、おかしかった。はじめに記憶へ現れたのは、ベッティーナの父であるアウローラ国王とのやりとりだ。

 どうやらフラヴィオの出であるブルーノ家は、そもそもアウローラ家の貴族家の一つだったらしい。

 しかし、何代か前の当主が失脚すると家は没落。その後、失地を回復しようと始めたのが、隣国・シルヴェリにおける密偵としての諜報活動だったそうだ。

 情報収集者としての役割を忠実に果たすため、基本的には怪しい動きをすることはなく、見かけ上はあくまでシルヴェリ国の一執事家として地位を築いていたブルーノ家。

 その転機が訪れたのは、アウローラがシルヴェリとの戦に敗れ、その配下に入ることとなった際だ。

『これから、ブルーノ家にはシルヴェリ国を内部から崩壊させるための作戦に置いて、重要な役割を担っていただきたい。もしこれを成功させられるのなら、あなたがたを重臣として取り立てることをここに約束しよう』

 ベッティーナの父・アウローラ国王から、彼や彼の親族へ、じきじきにお達しがあったのだ。

 その作戦の内容には、驚かざるをえない。

 曰くつきであるベッティーナを、弟に代わり人質として送り込む。そのうえで、ベッティーナの呪われた力を暴発させ、偶然を装って王子を亡き者にし、街や国を混乱に陥れる。

その混乱の収拾という大義名分のもとに、弱ったにシルヴェリ国へ再度宣戦布告を行い、今度は支配者側へと回る――。


そういう計画だったようだ。

ブルーノ家は、権力欲しさからかとにかく忠実にそれを実行した。

その作戦がために、リナルドの前執事へ退職を強要して、かわりにそこへフラヴィオが入った。

そうしてリナルドの腹心となることで、ベッティーナが人質として送られてくるのを待ち受けていたわけだ。

リヴィの屋敷で起きた数々の嫌がらせや、今回の連続的な傷害事件はどれも、彼が主導をしていたようだった。

はじめはベッティーナのみを追い込むつもりだったようだが、それでは思うような効果がないと判断して、周囲の人間を襲う作戦に切り替えたようだ。

 一瞬で、大量の情報量が流れ込んできたので、頭痛が起こって平衡感覚が少し乱れる。が、そんな痛みに負けている場合ではない。

「さぁ、もうお疲れのようだ。ベッティーノ様。行きましょうか」

 彼は、もうすぐ目の前まで来ていた。こちらへと手を伸べ、いまだ真実に気付いていないと思ってか茶番を演じ続ける。

 ベッティーナはその差し出された手を直前まで取るふりをして、若干フラヴィオの気が緩んだだろう瞬間をついた。

『プルソン、行くわよ』

 ベッティーナはプルソンと身体を分離させて、念話で相棒にこう声をかける。

 手先に集めていた残りの黒い魔力を、一気にプルソンへと与えながら、強行突破をすることとした。

『長くは持たねえぜ、ベティ!』

 走り出すベッティーナの周り、プルソンはその身体の形を変えて、周りを囲う黒煙のようになり替わる。

 これは、魔法攻撃や物理攻撃をも跳ね返せる万能な動くベールだ。
 外からの干渉に対しての防御壁となり、よほどのものでない限りははじき返せる。が、しかし――。

「……逃げられるわけがないでしょう!」

 ベッティーナが逃げ出したことで、優しさを装うのは終わりになったらしい。

これまでの冷徹な姿や、リナルドに対して尻尾を振るように忠実さをアピールしていた彼とは、まったく違う。暴力的な叫びが林の中を鳴り渡る。

 そして、魔法まで使えるらしかった。

腰に差さされた剣に込められたるは、緑の魔力である。それが地面へと突き付けられると、起こったのは勢いの激しい旋風だ。

つい背後を振り返れば、その風の刃は地面を削り、身体を浮かせるような勢いで後ろから迫ってくる。
滑りだす地面に足元の安定を持っていかれて、かつ風により刈り取られた大木が横から折れてきて、ベッティーナの行く先を阻む。

 そして周りに感じる気配はといえば、すでに前方に数人の気配が感じられるまでになっていた。

『……まずいわね』

 豪風のなか、つぶやく。

『ひひ、やべえな、こりゃ。なんて人数だ』

 どうやってこれだけの人数の味方を、敵国の内部で集めたのかは分からない。が、少なくとも30人近い数があたりに潜伏をしている。

 もう、一点突破さえもできそうにない。ベッティーナは、幾重にも四方八方を囲まれていた。

『つーか、もう魔力が足りねえぜ、ベティ。あとは任せた、最後はやるんだぜ、あれを。分かっているだろうな。オレの命にも関わるんだ』

 そんな状況下で、今日はやたらと使ってしまった魔力もほとんどが切れてしまう。
そのせいで、プルソンはその姿をすうっと空気に溶けていく煙みたいに消してしまい、指輪の中へと帰ってくる。


 呼び戻すだけの力など到底残っておらず、ベッティーナは一人となった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

処理中です...